No.276
相澤
徳行さん
グラフィックデザイナー
長野ADC初代グランプリに輝く
「クライアントの期待を超えるデザインを」
文・写真 安斎高志
1mm、1%のせめぎ合いを制する
今春、長野県のさまざまなジャンルのクリエイターが、ディレクション能力の向上を目的に、長野アートディレクターズクラブ(長野ADC)を設立しました。9月にメインイベントとなる第1回の作品審査会が行われ、グラフィックデザイナーの相澤徳行さんがグランプリを受賞しました。
約300点の中から選ばれたグランプリ作品は、酒瓶のフォルムを新幹線に見立てたポスター。北陸新幹線の開通に合わせ、クライアントである富山県の立山酒造が全国紙でも新聞広告として掲載しました。もともとは長野県デザイン振興会主催のデザインコンペ「ライフデザイン信州」でグランプリを受賞した作品でしたが、同社に評価され、実際の広告として採用されたといいます。
「デザインは旬を捉えることが多い仕事です。古くてもダメだし、新しすぎてもダメ。今回の作品は本当にタイミングがよくて、新幹線開通に合わせて完成したし、クライアントのPRもできたし、第1回長野ADCの受賞もできました」
めぐり合わせを強調する相澤さんですが、葛西薫さんら日本を代表するアートディレクターを審査員に迎え、また地元のクリエイターからも高い評価を受けての受賞に笑顔を見せます。
「僕らグラフィックデザイナーは1mmとか1%とかの世界で毎日すごく悩んでいるわけです。その作品を審査できるのは、同じ1mmにこだわっているデザイナーだけ。これは、地方ADCの先駆けとなった富山ADC創設の中心デザイナー、はせがわさとしさんの言葉ですが、プロによる厳しい審査は作る側にとってはわくわくするし、モチベーションになりますね」
長野ADCグランプリ作品「立山酒造ポスター」。新幹線開通に合わせて新聞広告として掲載された。世界ポスタートリエンナーレトヤマでも入選
クライアントのイメージを超える
相澤さんは美術系の専門学校を卒業して、デザイン会社に就職。当初は流れに身を任せるかたちで入った世界でしたが、徐々にデザインの仕事のおもしろさに気付いていきます。
「クライアントによって仕事が次々と大きく変わっていきます。たとえば小さなお店に関わったと思ったら、大企業のロゴをやってみたりとか、テレビに関わった次は、個人の名刺とか。どんどん切り替わっていくのが、飽きなくていいですね」
独立したのはキャリア10年目となる30歳のとき。その動機は意外なものでした。
「デザインの仕事以外でも食べていけるようになりたくて独立したんです。それはすごく明確でしたね。それまでは、対価とか、利益とか、経費とか、お金のことがまったくわからなくて、このままじゃデザインが評価されなくなったら食べていけないなと思ったんです」
昨年のライフデザイン信州でもグランプリを受賞するなど評価を高めてきた相澤さんですが、今後の目標を尋ねると「食べていくこと」とひとこと。口ぶりは常に淡々としています。一方で信条を尋ねると、職人らしい答えが返ってきました。
「クライアントがある程度イメージしてきたものを超えないと始まらない。『こんなのを3案くらいつくって』と言われたら、5案返す。最初にクライアントが考えていたのとまったく違う方向で採用されたりすることも多々あります。僕は結構、数を出しすぎてしまうタイプなんで、逆に嫌がられることもありますけど(笑)」
準グランプリ作品「くらポスター」。蔵のまち・須坂をアピールする目的で考案した
消費者と直接ふれて学ぶ
若手のデザイナーが台頭してきたことで、自分のポジションをあらためて意識するようになったと語る相澤さん。近年は、消費者と直に繋がれる活動にも取り組んでいます。仲間のデザイナーとともに、須坂市にアンテナショップ「ヤンネ」を開き、オリジナルデザインのグッズなどを販売しています。
「自分の商品が売れなくて在庫を抱えたり、他のメンバーのがどんどん売れていったりするのを店番しながら見ていると、どういうものが好まれるかわかってくる。クライアントと話していると、ついつい理想や理屈っぽい方向に行きがちなんですけど、直接、消費者とやり取りすると、『理由はないけどいい』というようなことがたくさんあって。それが本当のマスだったり、人の反応なんだなとあらためて感じられて、おもしろいです」
また、カンナくずを利用してリボンやリースなどを作るワークショップにも精力的です。これまで、善光寺境内で行われている「びんずる市」でメインワークショップを開いたり、10月には静岡県や松本市などでも開催が予定されていたりと、人気を集めています。
相澤さんは今回の長野ADC審査会で、グランプリに加え、準グランプリにも輝きました。しかし、それでも他のクリエイターの作品に嫉妬やあこがれの感情を抱いたといいます。消費者の反応を直接、感じ取ろうという取り組みも含め、探求心や向上心が、1mm、1%のせめぎ合いを制する原動力なのかもしれません。
カンナくずを再利用した「木のリボン」。かわいらしく、簡単に作れることからワークショップが人気
長野ADC審査会を「普段の仕事があからさまになって、かなり向き合わされた」と振り返る
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会える場所 | 相澤デザイン室 電話 ホームページ http://aizawadesign.com/ 「第14回 クラフトピクニック」 http://matsumoto-crafts.com/cfp/ |
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