No.174
堀内
和義さん
そば八(そばや)店主
蕎麦の鮮度を大切に
1人占めしたくなる小さな名店
文・写真 Takashi Anzai
食にこだわる人たちがすすめる味
編集者やフードアナリストら、食にこだわる人たちにおすすめの蕎麦屋を聞いて行き着いたのが、今回ご紹介する南石堂町の「そば八(そばや)」。14席の小さなお店です。
実際に食べてみると、麺はかなり細いけれどコシがあり、冷たく締めてすぐ出してくれることもあって、”活きの良さ”を感じます。ツユは甘すぎず、きりりとした味わい。おいしい蕎麦に食べなれている長野市民でも、ハッとさせられます。
店主の堀内和義さんは、そばの”鮮度”にこだわっています。
「食べ方について、あまり細かいことは言いませんが、お出ししてからなるべく早く食べていただきたいとは思っています」
実際に厨房で調理しているところを撮影しましたが、ゆで時間を計る時計を見るまなざしは鋭く、ゆで上がってから盛り付け、そしてテーブルへと供する時間は、まさに瞬く間でした。
鮮度にこだわりつつ、多くの人に蕎麦を食べてもらいたいという思いから、朝打ったものが切れてしまったあと、2度目の「追い打ち」をすることも少なくないとか。まれに3度、打つこともあるそうです。
「打ってから時間が経ったものを出したくないので、1度で余分には打ちません。そば職人の高橋邦弘さんは営業時間内でお客さんが待ってくれるなら何度も打つ、という話を聞いたんです。人が出来るのに、自分が出来ないのは癪だと思ったんですね。でもまあ、疲れますよ(笑)」
ゆであがりから盛り付けまでは瞬く間。「ゆでてから、なるべく早く食べてもらいたいので」と堀内さん
1つのことを突き詰める
堀内さんが蕎麦職人を志したのは、小売店で働いていた26歳のころでした。
「和食だとかイタリアンは、料理の数もたくさんあります。あれもこれもと手を出さなければいけないのは性格上、得意ではなくて、1つのことを突き詰めていくタイプだったので、蕎麦の道を選びました」
川中島町の蕎麦店で5年間、修業し、2010年11月に独立、そば八をオープンさせました。
そば八の特長は、蕎麦のおいしさに加えて、バーと小料理屋を合わせたような、落ち着きを与えてくれる空間。ジャズが流れ、少し落とした照明の中、時間を忘れて食事やお酒を楽しむことができます。
「実は、このお店の工事中、自分は1度くらいしか中を見ていないんです。プロに任せた方がいいと思ったので、信頼できる設計士の友人にすべてお任せでした。僕は厨房のことだけ注文して、そばさえ打てるようにしてくれればいいなと(笑)」
友人に恵まれていると話す堀内さん。メニューを挟むレザーケースや、エントランスの壁画も、友人たちが堀内さんに内緒で用意してくれたそうです。すべてがセンスよく、店の雰囲気とも調和しています。
つるりとして細い麺は、コシがある。ツヤも食欲をそそる
1人のためにでも打つ
そば八は、日本酒の品ぞろえも充実しています。大信州など定番の4銘柄のほか、店主お気に入りの銘柄が限定仕入れで常時、10近く用意されています。そこに、「そばがきの揚げ出し豆腐」や「そばの味噌焼き」など、お酒によく合う肴が加わるため、夜間営業もにぎわいます。
前述のとおり、追い打ちをすることが少なくないため、蕎麦が切れても、お酒を飲みながら打ちあがるのを待つお客さんもいるそうです。
「その方1人だけのために打つこともありますよ。30~40分、待っていただけるならですけど。打ちたてはまた格別ですしね」
そば粉は、石臼挽きの北海道産。石臼挽きは、香りがとばず、粒子のつながりもしっかりしているそうです。ただし、細かい産地などは目利きの卸業者に任せています。
「僕は挽きたての粉を、できるだけ早くお客様に食べてもらえるよう、打ってゆでるだけです」
常にはにかみながら、謙虚な姿勢を崩さない堀内さん。友人に恵まれ、そして店が人気を集める理由が何となくわかるような気がしました。
蕎麦屋らしからぬ内装。時間を忘れて食事を楽しんでもらいたいという思いから時計を置いていない
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会える場所 | そば八 長野市南石堂町1259-16千曲ビル1階 電話 026-227-7878 |
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