ゲストの7割が外国人。国境や国籍を越えて、旅人が出会うゲストハウス
“ Hi ! How was your trip? ”
ーーー“ I went to Kyoto ! It was wonderful ! ”
“ That sounds great !
Everywhere I go , Japanese people say to me that , you look like KIANU LEVUSU ! I can’t believe that . www ”
初めて出会う旅人と、一日の思い出を語り合うひととき。善光寺から徒歩1分の『Dot hostel Nagano』のラウンジでは、そんな光景が広がっています。
日本の古民家を思わせる内観に、どこかアットホームな雰囲気のあるラウンジ。6人掛けのテーブルを囲めば、ゲスト同士の会話が自然とはじまる。この日は、ニュージーランド人とオーストラリア人の男女が、お酒を片手に、旅先での出来事を語り合っていた
2016年の4月にオープンした『Dot hostel Nagano』。全4部屋、最大14人のゲストが宿泊できるこの場所には、月平均200人〜240人ほどのゲストが訪れています。周辺に多種多様なゲストハウスがある中でも、とくに特徴的なのは、「ゲストのうち約7割が外国人である」ということ。
長野県の調べによると、外国人延泊者数は、2011年に約20万人、2016年には約86万人と右肩上がりに上昇(長野県ホームページ:外国人延泊者数調査参照)。そんな中で、外国人ゲストは、なぜ『Dot hostel Nagano』を宿泊先として選んでいるのか?また、外国人ゲストを迎えるためにどのような工夫をしているのか?を訊ねてみることにしました。
外国人ゲストのリアルな声と、オーナー原義直さんのこれまでのふりかえりを紹介します。
(→原義直さんの、開業当時のインタビュー記事はこちら)
ドミトリー部屋の内観。木製の2段ベットが並ぶ。民家のような質素な雰囲気が安心感をあたえてくれる
個室部屋のようす
外国人ゲストが長野を訪れ、『Dot hostel Nagano』を選んだワケ
「インバウンド効果」、「長野は金沢よりも弱い?」、「オリンピックの影響?」など、いろいろな声を耳にするけれど、実際のところは、外国人ゲストたちは何を思って、滞在地を決めているのでしょうか?
一部の声ではあるものの、まずはゲストのリアルな長野滞在記を訊ねてみました。
今回インタビューに応えてくれたの、アメリカ出身のグレースさん(写真左)。元海軍の船舶整備士。現在は横浜に住みながら、東京にある映像制作の専門学校に通う学生。
ーーー『Dot hostel Nagano』を予約したのは、なぜでしたか?
グレースさん:
2015年に長野に来たことがあって、また行きたいと思っていました。今回は、志賀高原のクラフトビールを楽しみたくて、志賀高原で開催された「SNOWMONKEY BEER LIVE」を観に来たんです。それで「Hostelworld.com」というブッキングサイトから宿泊先を探すことにして、2泊3日の滞在を予約しました。
ーーー予約サイトを見たときには、どんなところが決め手になったんですか?
グレースさん:
長野駅と志賀高原に行くまでの間に位置していたので、アクセスがよかったんです。料金がお手頃だったこと(『Dot hostel Nagano』は、1泊2600円〜 ※変動あり)も大きいですね。あとは、掲載されていた写真がきれいで、見やすかったので、ここに決めましたね。
実際に滞在してみて、居心地がよかったので、ここに決めてよかったです。
ーーー滞在中はどんな思い出がありますか?
グレースさん:
滞在中はレンタカーを借りて、松本城や白馬、小川村などに行ってきました。ドライブ中に見つけた、道沿いのなんてことはない小川が、すごくきれいだったんです! 車を停めて、そこでゆっくり過ごしたり、写真を撮ったりしたのが、楽しかったです。
あとは、『Dot hostel Nagano』のラウンジでいっしょにお酒を飲んだ人が、私と同じ、船舶整備士をやっていた人だったみたいで、共通の話題で盛り上がりましたね。偶然にそういう人と出会えるなんて不思議で、なんだか嬉しかったです。
ーーー元気でハツラツとしたグレースさん。今回の旅の目的は、長野を経由して、長野県各地を回ることだったよう。観光地化されていない、何気ない川の風景を美しいと思った彼女の視点は、信州のアピールポイントをちがった角度で捉えるヒントを、私たちに投げかけてくれているのかもしれませんね。
外国人ゲストを迎えるために、自分が海外に行く。
『Dot hostel Nagano』ならではのゲストハウスのつくり方
先述のグレースさんのように、インターネットの情報から、ゲストハウスを決める人は多いよう。実際に『Dot hostel Nagano』では、ホームページの情報を英語で記載したり、SNSの投稿に英語を用いたりと、外国人ゲストへのアプローチを地道に築いています。それらを大切にしてきた、原さんならではのゲストハウスのつくり方とは?
ーーー「海外を身近なものにしたい」という思いではじめたゲストハウス。2016年のスタートから、2年が経ち、長野でゲストハウスをやってよかったと思うことはありますか?
やっぱり、自分の好きな場所と街で、ゲストハウスをやってよかったと思いましたね。どこでもゲストハウスがある時代で、儲かるか儲からないかは二の次だと思っているので。
長野市善光寺門前界隈には、同世代で、お店を開いている人がいたり、街並みが残っていたりするので、うちのゲストハウスが外国人とこの街をつなげる架け橋になれたらいいですね。
そのためには、言語は必然になってきますよね。だから、僕自身、毎日英語の本を読んで勉強しています。ヘルパーにも、毎月TOEICの模擬テストを受ける機会をつくって、いっしょに英語を勉強するようにしています。
ーーー英語で情報発信することによる、影響はどんなところにありますか?
外国人にとっては、言葉が通じた方が安心できますよね。あとは、SNSで、この街のお祭りのことや、日常のことを英語と日本語で投稿しているので、最近ではSNSから直接、問い合わせが来ることも多くなりました。特に若い世代では、instagramからの問い合わせがあります。
ブッキングサイトだと、ある一定のフォーマットがあるので、個性があまり出せないのですが、SNSだと、宿の日々の様子を見てもらえるので、若い世代には見やすいのかもしれないですね。
ーーーゲストにとっては、都心からのアクセスの良さが、長野に来る決め手になっている場合もあるのかもしれませんが、そのあたりはどう思いますか?
外国人旅行客の場合だと、JRパス(JAPAN RAIL PASS)を使えば新幹線が乗り放題なので、アクセスの良さはさほど、長野に滞在することの決め手にはならないかもしれませんね。京都へも金沢へも行けちゃうので。
なので、長野市善光寺門前界隈で、面白いお店を開いている同世代の人がもっと増えて欲しいですね。そうして、街全体が面白くなっていくことが大事だと思います。大きなゲストハウスで、一つの場所で完結するような滞在よりも、街全体を旅して回ってもらう。そういう楽しさを伝えていけたらいいなと思います。
ーーー ウェブでの発信の他にも、外国人ゲストにアプローチしていることはありますか?
年に一回は海外に行くようにしていて。これまでに、スイス、スペイン、ポルトガルに行って、長野のパンフレットやリーフレットを直接置いてきたこともあります。そこで、僕自身泊まって、友だちをつくってみたいなこともしてきました。そしたら、けっこう長野に遊びに来てくれた人がいましたね。もっと長野のことを、海外の人に知ってもらいたいです。
ーーーさらに最近では、台湾出身のイラストレーターが『Dot hostel Nagano』に滞在して、展覧会を開催していましたが、これにはどんなきっかけがあったんですか?)
うちのシェアハウスに長期滞在している、台湾人イラストレーターのAnnさんですね。彼女は日々の暮らしの中で見た、長野の風景をイラストや写真におさめています。その作品がどれもよくて、近くのお店『ヤマとカワ珈琲店』さんで企画展をやらせてほしいと頼んだんです。
こういう機会を通じて、海外の人から見た長野を再発見できたら、僕たちには感じられなかったような長野の新しい面が見えてくるのかなと思っていたので。結果的には、Annさんの知り合いが台湾から観に来てくれたり、東京や長野から観に来てくる人がいたりして、人の交流も生まれていました。
展覧会後には、展示を観に来てくれた台湾人から、「長野で展示をやりたい」という連絡があり、8月に次の展覧会を開催することも決まりました。こんな風に、アーティストが長野に滞在して、長野を表現する機会があれば、面白いと思うんですよね。実は今、そういったアーティストが長期ステイできるゲストハウスを一棟つくっています。
3月2日〜3月13日にかけて開催された台湾人イラストレーターAnnさんの個展「Silence・静寂〜台湾から来た女の子が過ごす長野の冬〜」のようす
Annさんが見た冬の長野の日常が、イラストや写真で表現されている。彼女の視点で見る、何気ない風景が散りばめられていた
さらに現在、原さんは新たなゲストハウスを始動させるべく、長野市内にある1軒の古民家を改修中。「長野市門前界隈のリアルな空気を味わってもらえるような場になればいいですね」と話す。家族連れや短期〜中期滞在のゲスト向けに一棟貸しをする予定
『Dot hostel Nagano』のシェアハウスに住んで、海外留学を目指すヘルパーさんの将来
ゲストハウス、日本酒BARがあるラウンジ、長期ステイ型の新たなゲストハウス……。さらに『Dot hostel Nagano』には、シェアハウスがあります。現在は、原さんとAnnさんの他に、ヘルパーさんが滞在しています。
多くの外国人が行き来するこの場所に暮らして、ゲストハウスのお仕事を手伝うヘルパーさんが、この場所を選ぶ理由には、どんなきっかけがあったのでしょうか?ヘルパーを務める伊藤真希さんに話を聞いてきました。
写真左から、ヘルパーの伊藤真希さん、台湾人アーティストのAnnさん、伊藤さんの妹さん。『ヤマとカワ珈琲店』の展覧会に伺った際に、偶然居合わせた3人。長野に滞在したことで、街の人たちとの交流も生まれ、旅だけではつくれないこの街との思い出がたくさんできたよう
ーーーなぜヘルパーをやろうと思ったのですか?
もともとは、信州大学に進学した妹から、「こんな場所があるよ〜!」って、紹介されたのがきっかけでした。それまでは、ゲストハウスを知らなかったんです。だけど、英語を勉強したいと思っていたので、思い切って、ヘルパーとして働いてみることにしたんです。それで、出身の岐阜県からここに移住しました。
ーーーヘルパーをやってみて、どうでしたか?
私の中で、いろいろな価値観が変わりました。人生が変わったと言えるくらいに。
今まで考えたことのなかったような、外国人の方たちの価値観に触れられて、とてもよかったです。海外の方はみんなおしゃべりが好きなんだろうななんて思っていたんですが、それは違って。静かに過ごしたい人もいれば、自分のやりたいことに集中したい人もいるんだなと気づきました。そのために、『Dot hostel Nagano』は、みんなそれぞれが好きなように過ごせる雰囲気を大切にしています。
それから、友だちを長野に連れてくると、みんな長野をとても好きになってくれるんです。それまでは、長野といえば軽井沢くらいしか知らなかった友だちが、長野市善光寺門前界隈の落ち着いた雰囲気と、古い街並みが残っている風情を気に入ってくれます。いわゆる観光地として、整備されすぎていないのがいいのかもしれませんね。私も長野を好きになりました。
ーーー今後も長野に滞在する予定ですか?
来年には、海外留学にいきます。ここには、多くの外国人の方と触れる機会があるので、とてもいい経験になっています。原さんも英語の勉強をしているので、いっしょに頑張れる楽しさもありますね。
ーーーごく個人的なきっかけや、将来の夢などが重なり、いろいろな人が集う『Dot hostel Nagano』。相対的に見たら、決して大きな声ではないかもしれませんが、原さんやこの場所にやってきた人たちの声には、ゲストハウスのリアルがあるのかもしれません。
開業当時のインタビューで原さんが話していた「海外を身近に感じられるきっかけと、日本から海外に飛び出す手助け」は、少しずつこの場所から紡がれているのでした。今後の原さんの動向がさらに楽しみです。
Dot Hostel Nagano
長野県長野市東之門町379
電話 026-219-6769
ホームページ http://dothostel-nagano.com/