松代町の山あいにある西条の清水寺は、延暦22(803)年、坂上田村麻呂が東征の際、戦勝祈願のために開基したといわれる由緒ある古刹だ。本堂には地方色豊かな桂材の一木造などの仏像が残されており、平安時代初期の作とされる千手観音、聖観音、地蔵菩薩の3体は国の重要文化財に指定されている。
そんな清水寺の副住職・加藤甲志郎さんは、一見、僧侶には見えないカジュアルな風貌。実はかつては東京でアパレル関係の仕事をしていたが、兄の依頼で生まれ育った鎌倉から移住し、副住職に就いたという。
「この寺は母の実家で兄が住職なんですが、兄嫁(義姉)の実家も寺院で、兄はそこの補佐が忙しく、こっちは空きがちだったんです。昔から寺を継ぐつもりはなかったんですが、ちょうど東京のライフスタイルに飽きていたし、変わってみてもいいというタイミングで兄から頼まれたので、深く考えずに移住しましたね」
しかし知り合いもいない田舎暮らしは慣れるまで苦労したそうだ。それでも、地域の同年代仲間に声をかけられつながりも広がり、一緒に遊ぶ仲間もできた。それに、地方ならではの寺院の面白さも見出している。
「ときどき、世界中を旅している人など、面白い人が来るんですよね。僕もアジアを旅するのが好きなので、そんな旅人と話をするのは面白いですね」
だからこそ、京都や鎌倉など、観光コンテンツの一部のような寺院とは異なり、目的をもって足を運んでもらう地方寺院として、気軽に話しかけられる空間づくりを心がけていると話す加藤さん。自分ならではの寺づくりはまだまだ始まったばかりだ。
通称「北信濃厄除大師」とよばれる清水寺。護摩による厄除け祈願や人形供養などを行い、人形供養は実施寺院が少ないことから奉納に訪れる人が多い。本堂の仏像は、左から地蔵菩薩、千手観音、聖観音立像。本尊千手観音像は桂材の一木造で、東日本最古の仏様。
profile
神奈川県鎌倉市出身。大学時代に住職になる資格は取得したが、アパレル関係に就職。多忙な兄の代わりとして、2013年に母の実家である清水寺副住職に着任。参拝客の対応や仏像の説明、護摩祈祷や人形供養等を行っている。
龍燈山蓮華院清水寺
長野市松代町西条147
TEL 026-278-3068