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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.390

高橋

さん

アスク工業株式会社 代表取締役社長

創業47年、世界シェア50%のスキー工業製品など10事業を展開する老舗ベンチャーの挑戦

文・写真 大崎 真澄

突然ですが、長野市にはどれくらいの企業があるか知っていますか?
 
長野市統計書によると、平成26年時点でその数はなんと約6000社。少人数で運営されている企業から、立派なオフィスを構える企業までさまざまですが、こんなにたくさんの企業があることに驚かされます。
 
この6000社のなかには普通に生活をしているとなかなか出会うきっかけはないけれど、実はすごくユニークな企業がたくさんあります。46年前に研磨剤の商社として誕生し、現在は世界シェア50%を誇るスキー・スノーボード工業製品の「アスナーシート」など10の事業を展開するアスク工業もそのうちの1社です。
 
工業製品から健康食品、太陽光など次々と事業を立ち上げ続ける「ちょっと異色な」アスク工業。今回は代表取締役社長の高橋聡さんに、会社の成り立ちから多角化の背景にある思想について伺いました

エムウェーブ近くの工業団地の一角にあるアスク工業

研磨剤商社からアスナーシートが生まれるまで

アスク工業の誕生は今から46年前の1971年。当時は長野砥石機材という社名でスタートし、1973年にアスク工業へと名前を変えています。

「会社を創業したのは祖父で、当時はバフという研磨材に取り付ける布のような素材を作り研磨剤屋へ売る会社としてスタートしました。父もその会社をつぐように言われていたのですが、つがずに自分で研磨剤の商社を作ったんです。それがアスク工業の始まりで、長野ということもありスキーメーカーのお客様も多かったんです」
 
そんな研磨剤の「商社」だったアスク工業が、ある時から自分たちで製品をつくる「メーカー」へと変わります。そのきっかけはお客さんであるスキーメーカーの技術者からの相談でした。
 
「実はスキー板というのは5層も6層も接着剤でくっつけているのですが、接着層をもっと強くするために、クッションのような役割を果たすゴムを作れないかと相談があったんです。そうすれば振動を吸収でき、マイナス20℃のように過酷な環境でも接着剤でくっつけた層が割れずにすみます。ただ普通のゴムでは接着剤とくっつかないので、今までにないゴムを作る必要があったんです」
 
なんでもこれは大手のゴムメーカーも開発を断念するほど高度な技術だったそう。メーカーではなく研磨剤商社であるアスク工業が開発するのは、なおさら難しいと技術者からも思われていました。
ところがもともと物理を学んでいて研究者気質な一面もあった高橋さんのお父さんは、図書館や大学の研究機関に通い続けて開発に取り組み続けます。そして5年間の研究の末この技術を製品化することに成功したのです。
 
それが今や世界シェア50%を誇る「アスナーシート」が誕生した瞬間でした。

「幼い頃に母親が弟をおぶって、実験の一環として風呂場でゴムを煮ていた姿を今でもよく覚えています(笑)この時から『お客さんの技術的な悩みを聞いて、それを解決する製品を自分たちで作って売る』というアスク工業の軸となる考え方が生まれ、それは現在にも引き継がれています」

一般論から外れて、あえて多角化を選択

 
お客さんから何か要望があれば、やれるかやれないかよりも「実現するにはどうればいいか」を考える。アスク工業では取り扱い製品を増やしたり、必要に応じて自社で新製品を作ったりすることで工業分野の事業を広げていきました。
 
「子どもの頃に会社へ行くと、その度にやっていることが違うんです(笑)」と高橋さんは当時のことを振り返ります。
 
「個人商店の集まりというか、社員みんなが経営者のようなスタイルなんです。それぞれがバラバラなことにチャレンジしていて、父はそこにあまり口出しをしない。お客さんの要望があるごとに次々と新しい事業が生まれていったんです」
 
高橋さんは大学卒業後に一度コンサルティングファームへ就職し、2005年にアスク工業に戻ってきます。その時点ですでに6つの事業があったそう。それも約200の事業に挑戦した末に残った6事業で、健康食品など工業製品とは関連のないものもありました。
 
「経営の教科書では『1つの事業を掘り下げて強みを作るべき』とよく書かれていますし、最初はどこかの事業に専念するべきだと思ったんです。ただいざ事業の状況を見ると、どれも売上比率がさほど変わらないため、どこに絞るべきなのかがわからない。方向性を見定めるのに5年くらい悩んでいました」

そんな時、高橋さんに1つの転機が訪れました。2008年に起こったリーマンショックです。
 
「この影響で半導体の注文がゼロになったんですけど、健康食品事業が伸びていたおかげで会社として営業赤字にはならなかったんです。その時いろいろな事業に取り組むことで会社が安定するという側面に気づきました」
 
高橋さんが数年悩んだ末に出した結論は事業領域の集中ではなく、多角化。それも今まで以上に事業の数を増やすという思い切った決断でした。

アスナーシートが世界シェア50%を獲得できた理由

アスク工業の事業には「お客さんの課題や要望」から生まれたということに加えて、もうひとつ共通点があります。それは各事業の市場はどれも小さく、需要はそこまで大きくはないということです。
 
これはアスナーシートが世界で50%、国内では90%のシェアを獲得している理由のひとつでもあります。
 
「実はこの市場はとてもニッチなので参入している企業が少ないんです。大手企業は参入を諦めたり見向きもしないような市場で、これは他の事業にも共通します。でもそこには確実に悩みを抱えているお客様がいて、我々の事業を通じてその悩みを解決したいというのは創業以来大切にしていることですから。国内だけでは非常に小さな規模ですが、ニッチとはいえ世界で見れば数億円の規模にもなります。
 
だからアスク業では常に世界市場への展開を考えますし、ひとつの事業では規模が小さいからこそ多角化をするのも合理的なんです。他が作っていないものを作ったり、新しい事業に取り組むことは社員も楽しいですしね」

内装をリフォームしたというオフィスは東京のベンチャー企業のよう!

この考えのもと、現在事業の数は10個に増えました。新たに立ち上げた太陽光発電やコメダ珈琲のフランチャイズ事業は、既存の取引先の紹介や相談から生まれた事業。中国語教育事業はもともと高橋さんが通っていた中国語教室の事業を引き継ぐ形でスタートしています。

これらの事業をパートの方も含めて約60人のメンバーで運営しているというから驚きです。

100年続く「老舗ベンチャー企業」へ

オフィスの2Fにはフリースペースが設けられています。次の事業のタネとなるアイデアのディスカッションなども行われるそうです

もちろんこれまで事業化に至らなかったり、試してみた結果上手くいかなかったものもたくさんありました。販売してみると1~2個しか売れず、撤退した健康食品もあったそうです。
 
「そもそも新規事業は90%くらい失敗するものだと考えています。だから数を作ることが大切で、とりあえず作ってみて、人の前に出してみることをやり続けているんですね。失敗することがほとんどだから、それならばどんどん実験する。もはや失敗という感覚すらあまりありません。
 
これを続けられるのは、低予算で小さく始めるからなんです。今成長している健康食品事業のひとつも、最初は予算5万円で始めました。それがやがて少しづつ育っていく、というサイクルを繰り返しやっています」

 
アスク工業では現在100事業、そして100年続く企業を目指しているそうです。10の事業を作るのも簡単ではなかったでしょうから、これから90も増やすというのはかなり大きなチャレンジです。事業が100個ということは、100人の幹部も必要になります。
 
「100年続く『老舗ベンチャー企業』を目標にしています。これからも失敗することはあると思いますが、まずは今まで通りお客さんも巻き込んで小さい規模でもいいので事業を100個立ち上げる。そしてそれを少しずつ大きく育てていければいい。ベンチャー企業として常に新しい挑戦をしたい、そしてそれを楽しめるような会社にしていきたいですね」

(2017/12/19掲載)

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会える場所 アスク工業株式会社
長野県長野市風間2034-25
電話 026-221-2211
ホームページ http://www.ask.gr.jp/
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