No.380
加藤
修次さん
加藤鯉店 2代目社長
研究熱心な主人が提供する
こだわりの国内産川魚
文・写真 くぼたかおり
自転車での手売りから店は始まった
昭和34年に創業した加藤鯉店は、2代目店主の加藤修次さんとその家族を中心に店を営んでいます。千曲市にも同名の店がありますが、そちらは初代の保彦さんの実家で、そこから独立して用地池で鯉を飼育しながら自転車で売り始めたのが始まりだといいます。現在店がある建物の店先にある生け簀は、約3カ月掘り続けて地下水を引きました。「父の代に工事をしましたが、当時1m掘削するのに10万円ほどかかり、最終的には家が一軒建てられるほどのお金を要したと聞いてます」と修次さん。その甲斐もあって店は繁盛し、従業員が大勢いた時もあったとか。
「私は幼いころから従業員が魚を捌く姿を見て育ちました。中学生になると父親の目を盗んで、従業員が出社する前に捌いて、怒られないようにとそのまま登校していました。上手に川魚を捌ける子どもがいると、新聞で紹介されたことがあります」
権堂町の秋葉神社の一角に、明治39年に創建された四条霊社があります。料理の祖神である磐鹿六雁命と四条流庖丁道の粗である四条山陰中納言藤原政朝を祭神とし、庖丁・料理の神様として信仰を集めています。修次さんは13歳の時、平安時代から始まったと伝えられている四條真流庖丁道の名取りとなりました。神事やお祝いの席では烏帽子をかぶり、庖丁と真魚箸を使って魚に手を触れずに捌く庖丁儀式を奉納する役目も担っています。
中央通りを善光寺に向かって進み、信号「大門南」を右折した通り沿いにある
美味しく食べてもらおうと試行錯誤
店では主に佐久鯉、ニホンウナギ、信州サーモン、信州大王イワナ、シナノユキマスなどの淡水魚を扱っています。主力商品である佐久鯉は佐久地域で養殖されている歴史ある鯉です。平成20年には特許庁より地域団体商標登録の認定を受けて、全国に知られるブランド力を誇ります。身がしっかりと引き締まりつつも適度に脂肪があり、臭みが全くない佐久鯉は、千曲川の水と佐久市の気候・風土が大きく影響を与えています。
「家庭で作るなら鯉こくがおすすめです。要望があれば当店であらいや刺身にしてお渡しします。おすすめはさっとゆがいた皮です。多くの人が知らない食べ方ですが、一度食べると皆さん気に入ったと言ってくれますね」
そう熱心に語る修次さんですが、高校卒業後は簿記や経営が学べる専門学校に行き就職しました。そこでお客様を待つだけではなく仕掛けることの必要性などを学びました。店を継いでからはそれまで店に無かったパソコンを導入して金銭関連を一括にまとめたり、ダイレクトメール、さらには商品開発も進めていくように。
「ものづくりの世界に通じるなと感じています。例えば魚を捌く時にどんな包丁を使うのか、角度、厚さはどうするのか。それだけでも味に大きく影響するんです。上手くなればなるほど、また新たな課題が見えてきて。この商売は難しいけれど面白いですね」
こうしてお客様や知人に知恵と評価をいただきながら完成したのが子持ち鮎の甘露煮で、年間1500本売れるヒット商品になっています。また秋葉神社の節分追儺祭では、まく物の中に国産うなぎのかば焼き券などを提供して、地元を盛り上げています。
鯉こくや竜田揚げ、あらい、甘露煮などの料理でいただく佐久鯉
人気商品の1つ「子持ち鮎の甘露煮」(520円)
捌き方にも独自のこだわりを持つ
「注文が入ったので、実際に佐久鯉の捌くところを見ていってください」と話す修次さんとともに生け簀に移動。中で元気よく動いているプリップリの佐久鯉を網ですくっては目方を確認してからおろし場へ。初めて見た佐久鯉は予想よりはるかに大きい! 修次さんは慣れた手つきで直径2cmほどありそうなうろこをどんどん剥いでいきます。その後はお客様が要望したブツ切りにして終了。その後も50本注文が入ったニホンウナギをいとも簡単に捌いていきます。それはまるで、手品を見ているかのよう。
「ウナギを扱っている飲食店などからも注文を多くいただきます。料理人の皆さんも毎日何十本と捌くのは大変なんですよね。私の場合はいかに早く捌くかを自分なりに研究して、1工程なり、2工程なりを省略しつつも状態良く捌いています。ウナギなら1本数秒で捌けるようになりました」
こうして毎日たくさんの顧客から注文が入るほか、近隣住民が買い物途中で立ち寄っては「1本捌いておいてくれる?」など注文する姿も見受けられます。海なし県の貴重な栄養源としてハレの日などにふるまわれてきた川魚の文化は、これからも大切に引き継がれていくことでしょう。
テンポ良くニホンウナギを捌いていく修次さん
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会える場所 | 加藤鯉店 長野市権堂町2394 電話 026-234-3255 ホームページ http://sakurasakukoi.sakura.ne.jp/
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