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No.377

倉田

雅恵さん

宅老所あったかいご 管理者

お年寄りと家族を支える
在宅介護の頼れる味方

文・写真 オギノフミエ

歴史ある文化施設や寺院が建ち並ぶ長野市松代の、細い路地を入った住宅街に「宅老所あったかいご」はあります。明るい日差しがさしこむ木造の一軒家では、介護を必要とするお年寄りたちがスタッフのサポートを受けながら、日中のひとときをそれぞれのペースで過ごしています。

知りたい、知ってほしい、じゃあ雑誌を作ろう

「あったかいご」の管理者、倉田さんが介護に携わるようになったのは、大学卒業後に就職した建設系の新聞社に2年間勤務した後でした。通信教育で社会福祉士の勉強をしながら、特別養護老人ホーム(特養)で2年間、老人保健施設(老健)で1年間働きます。

終身入所が基本の特養とは異なり、老健は自宅に戻るための準備をする一時的な施設のはずなのに自宅に戻れないお年寄りが多く、当時は在宅介護のサポートが手薄な状態だったこともあって親を介護したくてもそれが難しいケースをたくさん目にした倉田さん。一般の人にも早い段階で介護の情報を知ってもらうことが必要なのでは…と考えるようになりました。

自身でも、ほかの施設はどんな介護をしているのか、もっと良い介護の方法や使い勝手の良い介護用品はないのか等々、知りたいことはたくさんあったのですが、当時はそうした情報を得る手段がほとんどありませんでした。

「知りたいし知ってほしいという気持ちと、介護に対する世間のマイナスイメージを変えたいという思いもあって、じゃあ介護の情報誌を作ろうって」

こうと思ったら行動は早いタイプ。老健を辞め、新聞社時代から懇意だった同僚女性と2人で有限会社を設立。長野県内の介護情報を発信する雑誌『あったかいご』を1999年に創刊したのです。

実のところ、「ものすごい雑誌を作ろうと思っていたわけではないし、若かったし、なんとか生活できればいいかなという感じ」の、ややおぼつかない足取りのスタートではあったものの、介護情報が得づらい時代にあって介護職にも一般読者にもわかりやすい内容は好評で、多くの購読者を獲得。2007年末の休刊まで、45号の雑誌発刊と並行して介護セミナーやイベントなどを行う『あったかいご』は、長野県の介護業界に多くの情報や刺激を与える存在でした。

2014年5月に松代町内の古民家から現在地に新築移転。ベッドで休むお年寄りもいれば、スタッフと一緒に洗濯物をたたんだり紙で小物を作ったり軽い体操をするお年寄りも。その日の体調や気持ちにあわせておだやかな時間を過ごす

雑誌から宅老所へ

雑誌創刊から3年後の2002年、倉田さんは再び介護現場の人となります。雑誌を制作しながら、そのころ増えつつあった少人数で家庭的な介護をおこなう宅老所の存在を知り、伝えるだけでなく実践してみたいという気持ちが生まれ、長野市松代の古民家を借りて「宅老所あったかいご」をオープンさせたのです。

「やりたいと思うと気持ちが楽しい方向に向かってしまうタイプ。とにかくやってみよう、あれもこれもやりたいと、夢みたいな妄想みたいなものが膨らんでしまうんです。今はお年寄りやスタッフへの責任を自覚しているので、自分の気持ちだけで突っ走ることはなくなりました(笑)」

思いがあるとはいえ、介護職としての経験は3年だけ。介護の技術が伴わず、認知症への対応も十分ではなく、家族からクレームを受けることもありました。さらにスタッフとのコミュニケーションもスムーズにいかず…と、開所からしばらくは壁にぶつかってばかりでしたが、一つひとつの課題にきちんと向き合い、原因を考え、対策を講じ、周囲との信頼関係を築きながら、介護の専門性と質を高めていったのです。

昼食はみんなで一緒に。キッチン担当のスタッフも、料理が得意なお年寄りに教えられ助けられることが多い。この日は春休み中だった子どももアシスタントとして参加。包丁の使い方を教え、褒めるお年寄りがうれしそう

宅老所は介護する家族の仲間

「あったかいご」は、お年寄り一人ひとりが歩んできた人生の過程や個性、変化する病状、日々の体調、介護する家族の事情などを理解したうえで、「介護を受ける立場の視点」に立った介護を実践しています。

「一人ひとりにあわせた柔軟な対応は簡単ではないですが、でも、自分たちなりに考えて、できるだけのことを精一杯やるから、介護は大変だけどおもしろいんだと思います」

お年寄りが宅老所にいる間のことだけでなく、自宅で介護する家族を支えることも重視しています。大切なのは、家族を孤立させないこと。こまめにねぎらいの言葉をかけ、連絡帳でのやりとりを密にして、家族の気持ちが上向くよう心がけ、一緒に介護をする仲間として家族が困ったときはいつでも手を貸すことができるよう準備を整えています。

介護を始めてから「実は人のことをあまり考えていなかった自分に気付いて(笑)、みんなで話し合って人と力をあわせることを学んだ」と倉田さん。突っ走りがちな自分をフォローしてくれるスタッフに感謝する毎日

幸せな今日を積み重ねていく

2000年の介護保険制度導入以降、介護業界は大きく変化しました。もちろん良い面もありますが、さまざまな業種の参入や撤退といった問題や、福祉的な発想の後退が危惧されています。また、公の保険を扱う事業ということで現場の仕事が管理、制約されるようになり、制度の枠内で必要に応じた臨機応変なサービスをすることが難しくなっているようです。

さらに、少子高齢化、家族のかたちや関係性の変化、介護に従事する若者の減少や質の低下など、介護をめぐる課題をあげればきりがありません。

家族の介護力が減少しても、望む人は自宅での暮らしが継続できるよう、通所介護(宅老所)のほかに、訪問介護(ヘルパー)や居宅介護支援(ケアマネジメント)もスタートさせ、宅老所で過ごす以外の時間を含めた幅広くきめ細やかな支援を始めました。

「介護を始めたころに比べると、老いることが寂しくなっているように感じます。若さや健康が過度にもてはやされて、年をとって衰えるという当たり前のことが許されなくなっているというか…。たとえ家族でも、一緒に過ごしたり暮らしたりした経験がなければ老いがどんなものか理解しづらいし、先に逝く寂しさに気づかないこともありますよね」

山積した課題を一掃する魔法のような解決法はありませんが、だからこそ、倉田さんたちのような真摯な介護のプロに期待したくなります。

「悩みはじめればきりがないですし不安もいっぱいですが、でもこれまでのように壁にぶつかりながら解決法を探し出していくしかないかなと。いろいろ考えていると最後には、介護が必要になっても障がいがあってもその人らしく笑って過ごせるようにお年寄りと家族を支援しよう、という原点に戻るんです」

1日に出勤するスタッフは6~7人。「お年寄りに接するのは現場のスタッフだから、この仕事は本当に人が大事。優秀でおだやかな人が長く働いてくれるので本当にありがたい」と倉田さん。互いにフォローしあいながら産休・育休をとった時期も。あるスタッフは「倉田さんはお年寄りには心を砕いている。お年寄りが楽しく過ごせるような介護を一緒にやっていきたいから、スタッフは長くここにいるんだと思う」と語る

(2017/03/30掲載)

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会える場所 宅老所あったかいご
長野市松代町松代1303
電話 026−278−1112
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