No.043
齋藤
幸代さん
長野しまんりょ会会長/ながの街なか市場実行委員会委員長
一人ひとりの思いを積み重ねて
街のにぎわいをつくる
文・写真 Chieko Iwashima
昨年、2013年4月に発足した「長野しまんりょ会」は、長野市南千歳町のしまんりょ小路にある22店舗が加盟する組織。長野駅前商店会のグループ会員であり、商店会がどこも減少する中、珍しく若い人が活発に駅前を盛り上げていることで注目されています。
その中心となっているのが南千歳町で3店舗の飲食店を経営している齋藤幸代さん。長野しまんりょ会会長のほか長野駅前商店会の理事にも名を連ねるなど、1人で何役も務めています。早朝からのミーティングが多いにも関わらず、経営する飲食店は夜遅くまで営業。文字通り朝から晩までフル活動ですが、疲れを感じさせないどころか、齋藤さんがいると、その場がパッと明るくなります。
「周りの人を超巻き込むよねーって、よく言われるんです(笑)。でも、そうしないと実際に活動はできないし、共感してくれる人を味方に引き入れて、思いを共有してくれる人をいっぱい集めたいんです」
そんな齋藤さんが、しまんりょ小路で居酒屋「鶴亀」を始めたのは今から20年前。開業当初は、予定より大きな物件でスタートしたこともあり、繁盛はしていたものの経営は楽ではなかったそう。それでも、いいお客さんに恵まれ、好きなことで自立したいという強い思いと持ち前の元気のよさで順調に業務を拡大してきました。
近年、しまんりょ小路を歩く人が減ってきたことを感じていた齋藤さん。それは、小路に軒を連ねる飲食店の経営者たちの共通認識でもありました。
一方で、この小路は若い人が独立をして出店をするケースが多く、人気があります。さらに、同業者というライバルでありながらも20代~40代の若手経営者同士の仲がよいという明るい要素もありました。齋藤さんはこの若手経営者の中では一番年上で、何でも相談したくなるお姉さん的存在。長野しまんりょ会が発足したのも1人の経営者が「みんなで何かやりましょうよ」と齋藤さんに言ったことがきっかけでした。
「その子は、もしかしたらもっと軽いノリだったのかもしれないんですが、私はどうせやるなら、ただの仲良しクラブみたいなものではなく、大きな夢と組織としての理念を持って活動したいと思いました。そして、みんなを集めて夢を語り合ううちに、小路全体を盛り上げていきたい、駅前を盛り上げていきたい、という思いになりました」
その後、若手の有志6人で、飲食店に限らず業種を超えて小路の全店舗に思いを伝えて歩き、26店舗が加盟(スタート時)。正式に長野しまんりょ会が発足しました。会長に推された齋藤さんは、より広範囲での協力が得られるようにと、重鎮が名を連ねる駅前商店会の理事に自ら名乗りを上げ、長野しまんりょ会は駅前商店会のグループ会員に。さらに、それまで商店会に属していなかった若手経営者たちにも加入をすすめ、活動が広がっていきました。
夏には各店オリジナルの「しまん涼麺」を提供
2013年8月には、長野びんずるの当日祭を開催。例年、この祭りでは、前日までの2日間に前夜祭として南千歳町公園で「サマーライブinちとせ」が開催されていましたが、齋藤さんの推薦で商店会に入ったばかりの若手経営者がリーダーとなり、初めてびんずる当日まで続行しました。同時に、しまんりょ小路は歩行者天国にして屋台の出店を行い、大盛況でした。
今年、2014年2月には、しまんりょ小路で名物を作ろうと「ジビエウイーク」を開催。各方面のプロに協力してもらいながら講習会や試食会を持ち、参加した9店独自のジビエ料理を考案しました。気軽に味わってもらえるようにといずれも500円のワンコイン価格に設定。食の楽しさを伝えました。期間中は通りの景観をよくするために提灯を置き、心を和ませるとこちらも好評でした。
ひとつひとつの実践の中で、みんなに活躍の場を作ることを意識していた齋藤さん。若手の活躍が目覚ましく、周りからも一目置かれるようになりました。商店会の先輩世代の人たちも親身になって話を聞いてくれ、経験からアドバイスをくれます。以前は商店会に入るメリットが分からないと言っていたメンバーも、自分が思いを発していくことで変わることを実感し、周りの経営者に加入をすすめるようになりました。そういったメンバーの心境の変化が齋藤さんにとって何よりうれしかったことでした。それを強く感じたエピソードがあります。
しまんりょ小路は、長年雪に悩まされてきました。積もるとすぐに踏み固められてしまい、寄せておくところもないからです。しかし、記録的な積雪となった今年2月、1人が雪かきを始めたことから、しまんりょ会の執行部からの呼びかけが起こり、メンバーが一斉にしまんりょ小路全体の雪かきをしました。
長野びんずる祭りの翌日、全員で片づけ後の集合写真。しまんりょ小路の景観をよくするため、日頃から清掃活動にも力入れている
「今までやってきたことが一番大切なことにつながっていることを実感しました。自分の利益のためだけじゃなく、人のために動く力。1人じゃできないことをみんなで団結してやる力です」
昨年10月、長野駅前の5つの商店会の共同で開催された「秋の駅前フェス」の運営でも齋藤さんは中核になりました。
そのフェスは、AC長野パルセイロの試合を映すパブリックビューイングと地元で活躍する人のダンスやアートのパフォーマンスのステージを行いチームと街の人を一緒に盛り上げるというもの。商店街の屋台の出店もあり、当日は南千歳町公園に2000人以上が集まり、大きな話題を呼びました。
「絶対に成功させるという思いは強かったです。当日はみんなが一丸となって動き、結果として多くの動員数があったことで、みんなの自信につながったと思います」
何のためにやるイベントか、その根幹を大切にしたからこそ、あのにぎわいが作られたのでしょう。
みんなで汗をかいて苦労をして信頼関係を築かなければ、街を継続的に盛り上げていく実力にはならない。そう信じて地道に奮闘したことで、たくさんのことを学び、得られたものがありました。そのひとつが、現在、齋藤さんが委員長を務める「ながの街なか市場」の実行委員メンバーとの出会い。商店会の枠や肩書き、キャリアも関係なく集まった8人です。
「各商店会にはそれぞれの色があるので、枠にはまるのはやめようと思いました。一緒に大変な経験をして信頼関係を築いた人たちと、このつながりを生かして地に足をつけてやっていこうと思いました。本気でやる人が集まって、自分たちだけのものにするんじゃなく、あらゆる人に協力をお願いしていこうと」
「ジビエウイーク」に向けたメニューの試食会には多くの関係者が参加。新聞各社やテレビ局も取材に訪れた
「ながの街なか市場」は、簡単に言うと朝市のこと。齋藤さんが以前からやりたいと考えていたもので、継続して続け、ゆくゆくは長野の観光名所として発展させていきたいという夢があります。まずは年4回(7、9、10、11月)の開催予定で、長野ならではの豊富な食材の飲食や物販、子育てや健康に関わる学びができる場、さらに体験ブースや観光に携わる人の街案内ブースなど、地域住民と観光客との接点の場所となるように計画が進んでいます。
「長野の魅力をいっぱい集めて、観光客にも地元の人たちにも楽しんでもらえる場所。人をつないでいく、コミュニティの場を作っていきたいと考えています」
子どもたちにはそこで思い出を作ってほしい、という齋藤さん。さらに、長野の大切な伝統文化を継承していくため、毎年春には城山公園のお花見に合わせて「花見茶屋」に出店し、昨年は城山小学校5年生を招待しました。とても喜んでもらえ、今年も招待しました。
「こうやって外でいろんな活動ができるのは、第一に私のお店のスタッフが理解してくれているからです。そして20年やってきたお店の信頼、お客様の支えがあってできることだと思っています。それを今度は、地域に貢献してお返していく番なんです。そのことを考えていると、楽しくなってきます」
齋藤さんを突き動かす、すべての原動力は使命感。やる限りは絶対成功させるという気持ちです。彼女の話を聞いていると、こちらまで熱い思いが込み上げてきます。”やる気スイッチ”を押されるというのは、こんな感じなのでしょう。
「そんなにやって、メリットは何ですかって聞かれることもあります。もちろん、商売的に儲けることを考えることは大事。ただ、それだけじゃない。あくまでも、みんなに喜ばれるものじゃないといけないと思っています」
ながの街なか市場実行委員のメンバーと。第1回目は7月13日(日)7時~14時、南千歳公園で開催
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会える場所 | ながの街なか市場、鶴亀、鶴翔、オーガストムーン 電話 ながの街なか市場 ホームページ http://machi1.com/ |
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