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No.034

清水

雄介さん

しみず ゆうかい

徳寿院住職/マラソンランナー

街と善光寺を繋ぐ ゛走るお坊さん”

文・写真 Takashi Anzai

僧侶とマラソンランナー。
この単語が私に想起させる言葉は、ともに「ストイック」です。

元善町にある徳寿院のご住職・清水雄介さんは、フルマラソンのベストタイムが3時間13分、目標は2時間台というランナーでもあります。

精悍な顔つきながら、穏やかな表情で取材に応対してくれた清水さん。走ることの楽しさをこう語ります。

「悩んだり嫌なことを考えていたりしていても、走って帰ってくると全部忘れちゃうんですよ。リセットされている。走っていると優しくなれるし、気持ちも豊かになれる」

「走るって健康な人なら誰でも出来るんですよね。あとは速度の問題であって。それぞれのペースで、誰かと競争する必要はないわけです。かつてマウンテンバイクをやっていたときは、誰かに勝ちたいという気持ちがありましたが、マラソンでは順位が気にならない。どちらかと言えば、走り終えたときの達成感の方が強い。やらない人から見るとストイックなんでしょうけれど(笑)」

徳寿院では春から秋まで宿泊客を受け入れている

初マラソンは平成21年の長野マラソンでした。清水さんが善光寺の若い住職5人ほどを誘ってエントリーしたものの、清水さんは直前に怪我をしてしまいます。

「言いだしっぺだったので、走らないわけにはいかないですよね。何とか走れるまでに回復しましたが、今ほどは走れませんでした」

他の住職を誘った理由について清水さんはこう話し、笑います。

「みんなを巻き込みたかったんですよね。その当時はフルマラソンってすごいことだと思っていたし、一方で一生に一度はやりたいと思っていました。長野マラソンは制限時間が初心者にとってはギリギリで、ハードルが高いんです。でも、他の住職も巻き込めばどうにか頑張れるかなと思って」

仲間と一緒に楽しみながら始めたからこそ、今でも続けていられるのでしょうか。その時、最初にフルマラソンを走った仲間も未だに走り続けているそうです。

清水さんは、週に5日は練習しているそうです。仕事の時間が変則的で、朝は善光寺のお朝事があるため、必然的に練習時間が限られてきます。朝4時ごろから走ることがしばしば。
それでも、走ることは苦にならないどころか、「色んな意味でプラスになっています」と笑顔を見せます。

初マラソンのタイムは4時間25分でした。それから年2回のペースでレースに出場し、毎回自己ベストを更新し続け、ベストタイムは初マラソンから1時間以上短縮しました。今年4月の長野マラソンでも自己ベストを更新しています。

精悍な顔つきにも穏やかな人柄がにじみ出る

清水さんが実家の徳寿院に戻ったのは22歳のとき。高校時代の恩師から「性格的に寄り道しない方がいい」と言われたこともあって、東京の仏教系の大学に入り、ストレートに実家に戻りました。その際、迷いはなかったといいます。

「東京に残ることは考えていませんでした。長野が好きだったんですね。アウトドアも好きですし」

清水さんは住職として宿坊の仕事や善光寺事務局の仕事の他に、善光寺をより身近に感じてもらうために知人などから依頼される善光寺参拝ガイドをしています。こうした取り組みは若い住職の間で広がってきています。

「善光寺もそうしていかないといけないと思うんです。元々庶民に開かれたお寺ですから」

そんな清水さん、ガイドをしていて最近嬉しいことがあったといいます。ツアーに参加してくれたお客さんが、両親を連れてガイドした際に説明した行事に参拝してくれました。

「やりがいを感じますね。お寺に興味を持って、そして長野に興味を持って来た人たちが喜んで帰ってくれると嬉しいじゃないですか。リピーターとして来てくれたときは特に嬉しいです」

徳寿院というお寺に生まれ、僧侶になった自身の人生を「とても恵まれている」と感じている清水さん。

「衣を着てご案内していると、自分よりも何年も生きてこられた方に手を合わせていただけて、喜んでもらえます。衣の力ということもあるとは思いますが、ここで生まれて、ここで住職をしているという運命について恵まれていると感じます。だからこそ、しっかりしなければいけないとも思うのですが」

午前4時ごろから走りに出るという

1400年という長い歴史がある善光寺さんの僧侶だからこそ、世の中を過去も未来も長いスパンで展望しています。

「現在、大勢の方がお参りに来てくださっているのは、多くの先輩方が歴史を築き上げてきたからです。逆に私たちも何か考えていかないと、私たちの子孫に同じものを残していけないかなと思っています」

昨年初めて開かれた「びんずる市」では、善光寺の若い僧侶でつくる「法師委員会」で用意と撤収を手伝いました。
善光寺の中で、市民と僧侶が一緒になってイベントを開催するということについて、とても嬉しそうに語る清水さん。

「この街はどんどん明るくなってきていると感じます。明るさは豊かさとつながっていきます。お金持ちとはまた別の、心の豊かさです。びんずる市をやっている人たちを見ていると、本当に豊かだなと思うんですよ」

「(こうした取り組みは)昔は無理だったとよく言われます。でも、昔の人たちは考える余裕もなかったのかもしれませんね。今そういうことができるのは先輩たちから与えられた豊かさのおかげなのかなと思うんです」

清水さんの話には、常に誰かに感謝をするという言葉が出てきます。
イベントの成功や街の賑わいにも、それを支える人たちがいます。清水さんはそうした人たちに常に感謝して過ごしています。
僕は日常生活で、どれほど人に感謝の気持ちを持って生きているでしょうか。今回の取材は、そう顧みる良い契機になった気がします。人は生きているだけでも誰かに生かされている、清水さんの穏やかな表情からはそんなメッセージが伝わってきました。

今年4月の長野マラソンでも自己ベストを更新した

(2014/06/19掲載)

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