No.354
まとはまがんじさん
安竹みどりさん
G&M Works 陶芸作家
温もりあふれる土の器たち
文・写真 合津幸
宮崎県出身で東京都育ちのまとはまがんじさんと、諏訪郡原村出身の安竹みどりさん。陶芸作家であるご夫妻は「G&M Works」として、温かな土の器を世に送り出しています。約22年前に信州新町に工房を構えたお二人の、これまでの歩みや現在の活動、作品に対する想い、信州新町での暮らしぶりなどを尋ねました。
毎日使いたい、愛すべき器たち
取材をお願いする際、「信州新町の工房にお邪魔させていただけないか」という申し入れに対して、「ギャラリーを構えているわけではないし、作陶の様子はあまりお見せできるものではないので」と、正直に答えてくださったがんじさん。今回お話を聞かせていただいたのは、毎年恒例となった二人の陶展会場「na-na分室」の一室でした。
長野市南県町にある「na-na分室」は、オーナー厳選の洋服や暮らしの小物が並ぶ小さなセレクトショップです。普段はショップの1スペースとして、また、こうして個展などを催す際はギャラリースペースとして使われる[コベヤ]と呼ばれる空間があります。お邪魔させていただいた「まとはまがんじ・安竹みどり陶展 うつわの小部屋8」開催時には、そのコベヤが「G&M Works」の器でいっぱいに! 器の配置や演出など二人が創り出す空間に、足を踏み入れた瞬間から心がポカポカしてくるようでした。
「ギャラリーのオーナーさんが決めたテーマに沿って新作をつくったり、出展する器を決めたりもします。展示は自分たちでディスプレイしたり、オーナーさんにお任せしたり、その時の状況に合わせてやっています」(がんじさん)
がんじさんとみどりさんの器は、日々の暮らしにすぅーっとなじむ気取りのないものばかり。それでいて、それぞれにしっかりと表情があって、こんな場面で使いたい、こんな飲み物や食べ物を入れて食卓に並べたいと、使い手の想像力や日常を楽しむ意欲をかき立てます。
「私たちの器は、日常の『あったらいいな』や『便利だろうな』をカタチにしたものです。特に私の器は大きさや形など、具体的な料理やシチュエーションを意識して作っています。対して彼の器は、遊び心際立つ個性的な作品が多く、流木などの異素材を組み合わせるなどキラリと光るものがあります。眺めても触れても楽しいし、もちろん使っていただいても独特の魅力があって面白い。そんな作品です」(みどりさん)
「na-na分室」での展示風景。みどりさんは自然(動植物)の色やテクスチャーから、がんじさんは素材の持つ肌合いや表情などから、作品のアイデアやヒントを得ている
流木と真鍮を取り入れたがんじさんの作品。見た目にも存在感たっぷりで、触れた時の質感の違いが楽しい。眺めているだけでも楽しく、使えばワクワクする、そんな作品だ
器は作り手そのもの
そんな二人が、作陶の世界に足を踏み入れたそもそものきっかけはなんだったのでしょうか。ストレートに質問してみたところ、ともに意外な道程を歩んでいらっしゃいました。
がんじさんは広告制作会社の仕事をしていた頃、陶芸作家さんの弟子をしていた知人の紹介で、週末のみお師匠さんの元に通うようになったことが始まりでした。でも、何年か通ううちにお師匠さんの考え方と自身が理想とする作陶とにズレを感じ始め、別の陶芸教室に顔を出すようになりました。
一方みどりさんは、大学4年時にアルバイトをしていた学校教材の販売代理店で、とある出合いに恵まれます。それは、社内に飾られた李朝時代の器でした。実はその会社の社長さんがかなりのコレクターで、素晴らしい作品を毎日のように間近に眺めていたところすっかり魅了されてしまったのだとか。当初は憧れの気持ちだけだったみどりさんですが、次第に高まる情熱を抑え切れなくなり、ついに陶芸教室に通うように。そこで、がんじさんと知り合ったのでした。
「私はお師匠さんの元に通ったこともありませんし、教室で基本的なことを一通り学んだ程度です。だから、ずっと試行錯誤を繰り返してきました。現在も、土は気に入った滋賀産のものを数種類使っていますが、配合比率や組み合わせを変えたり、釉薬に至ってはさながら実験のように日々アレコレ試しています。失敗も多いんですが、チャレンジしなくなってしまったら器も世界観も固定されてしまいますから」
というみどりさんの言葉を補足するように、「すでに私たちの器を愛用してくださっている方にも、これから出合う方にも、常に発見や喜びを感じていただきたい」と、がんじさんが続けます。
「器は作り手そのものなんです。誰が作っても同じ、いくつ作っても同じでは単なる量産品です。それは私たちが作りたい器ではありませんし、私がやりたいことでもありません。器それぞれに表情や個性があるからこそ、お客様には私たちの想像を超えるような多彩な使い方を日々の暮らしの中で楽しんでもらえるのではないでしょうか」
蓋のフォルムも色合いも、従来の土鍋のイメージをことごとく覆す作品。パッと目を引くライトイエローとぽってりとした可愛らしい形の作品は、食卓の主役に躍り出ること間違いなし!
眺めているだけで幸せな気分になれる二人の器。「あの料理をこんな風に盛りたい」「あんな食卓に仕立てたい」と、暮らしを豊かにする気持ちもかき立ててくれる不思議な力がある
人と自然に恵まれた地で
信州新町に移住する前は、東京で作陶を続け、焼きの工程だけはみどりさんの実家敷地内に造った窯へと通っていたというがんじさんとみどりさん。その生活に決定的な不便さはなくとも、より良い環境で作品作りをしたいと考えるのが、作り手の心情です。窯を造るに十分な広さを確保できる地を探し、長野県内各地に出掛けては空き家を見学するなど情報収集を続けたそうです。
そんな中、過去に一度検討したものの条件が合わずに断念した、現在の建物との縁に恵まれました。
「地元の方たちが私たちの仕事にとても理解があって、すごく温かく迎え入れてくださいました。しかも、移住直後から10年にもわたり、年末には必ず地元美術館のギャラリーコーナーで個展をさせていただくなど、地元の作家として応援していただきました。当時はまだ器の販路もなかったので、皆さんのサポートがとてもありがたかったですね」
そんな二人に長野市の魅力・自慢を尋ねると、みどりさんは「人」、がんじさんは「自然」と答えてくださいました。親切で情に溢れた人々に囲まれ、県外の友人・知人から必ず羨ましがられるという雄大な自然と寄り添える場所。そんな環境を、たとえ自らの選択で手に入れたとしても、感謝の気持ちを忘れずに謙虚に作品を作り続ける二人に、あらためて長野市の素晴らしさに気付かせていただいた気がしました。
最後に、「こんなことができたらいいな」という未来への展望を教えてもらいました。
「本当は自宅にお客様を招くことができるギャラリーのような空間や作品を飾る棚が用意できたらいいのですが、今はそこまでできなくて…もし近くに、私たちのように移住して来た方でも地元の方でもいいのでカフェとかレストランができたら、このエリア一帯を堪能してもらえるような取り組みをしたいと思っています。実際はなかなか追い付いていないんですけれどもね」(苦笑)
照れくさそうに話すがんじさんと、その傍らでうんうんと頷いたり微笑んだりするみどりさん。その姿に、心がほっこり自然と笑顔になるようでした。
器そのものももちろん魅力的なのですが、やはりこうして作り手と言葉を交わして人柄に触れてこそ真の価値がわかるものなのだな、と実感した瞬間でした。
さまざまな料理に使えて、食卓にそのまま出しても画になると評判の土のフライパン。こんな風に流木に吊るされ、光と陰を纏うようにして展示されていた
「お客様には実際に器を手に取って色や質感を確かめて、どんな風に使いたいか想像してほしいし、私たちもできるだけお客様のお顔を見てお話をしたいと思っています」と、声を揃えたがんじさんとみどりさん
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会える場所 | G&M Works 長野市信州新町弘崎991 電話 026-262-3440 ※ 上記住所に店(ギャラリー)を構えているわけではありません。 |
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