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No.351

松野

広志さん

株式会社マイデスク 代表取締役社長

東京と長野の2拠点ワークで
新たに得た思考を未来に生かす

文・写真 合津幸

2015年12月、JR長野駅東口から徒歩約1分という好立地に、シェアオフィス&コワーキングスペース「myDesk(マイデスク)」が誕生しました。ここは、運営元の「株式会社マイデスク」の開発センターを兼ねており、代表取締役社長の松野広志さんは東京本社と長野の同センターの2拠点ワークを実践しています。

オンライン学習システムを提供

上水内郡信濃町出身の松野さんは、高校卒業後すぐ大学進学のため上京。卒業後は都内の大手学習塾やIT企業等に勤務しました。IT企業での業務の内容は人事や人材育成系のシステム開発という点で共通していたそうです。

そして2010年、「もともと起業願望が強かった」こともあり、「株式会社マイデスク」を立ち上げました。創業時に声を掛けたという同郷出身でシステムエンジニアの吉川正倫さんは、現在も同社の取締役兼CTO(最高技術責任者)を務めている頼れるパートナーです。

「当社の主な事業は、自社で開発した法人向けWEBサービスの提供です。具体的には、企業の人事部門や企業に研修プログラムを提供する研修会社、資格学校、学習塾等に採用していただいているクラウド型のオンライン学習システムをつくっています。教育・人材育成というジャンルは私が会社員時代から携わってきたものですので、感覚としてはゼロからのスタートというよりも、より良いものを提供するという意識だったと思います。お客様の声や自身が『もっとこうすれば喜んでもらえるのに』などの実感を生かしました」

ただし、新しい会社で新しいものをつくるわけですから、起業してしばらくは我慢の時期を過ごしたそうです。それでも、半年ほど経過すると徐々に売上が立つようになり、少しずつ手応えを感じられるようになったのだとか。

「サービスの特性上、お客様とのやり取りはWEBで完結する場合も多く、今のところは営業と企画は私1人でもこなせる範囲ではあります。また、東京と長野を行ったり来たりしている私と違って、吉川は長野に常駐していますが、ネットさえつながれば業務に支障はありません。もし直接会って話したければ、新幹線を使ってすぐに来られる距離ですから、不自由を感じたことはありませんね」

「株式会社マイデスク」が開発・販売している、クラウド型オンライン学習システム「edulio」のサイト。オフラインでの研修管理等も行えるなど、機能性の高さが好評

吉川さん(写真左)はもともと松野さんの弟の同級生だったそう。松野さんが東京にいる時はSlackやSkype等のオンライン通信サービスで随時連絡を取り合っている

2拠点展開によって得たもの

しかし、そんな松野さんの現状に関する話を聞き、「移動の時間や労力が無駄」だとか「2拠点を往復するのは面倒では? 」など、率直な意見や素朴な疑問を投げ掛ける方もいるそうです。

「会社の事業内容やお客様との関係性、サービス特性やウリ、時間や距離に対する感覚、社員とのコミュニケーションの取り方や距離感など、企業や個人で差があって当たり前の要素はたくさんあります。ですから、私は誰にでも安易に2拠点ワークを勧めるつもりはありません。そもそも事業によってはやはり東京で! というケースもあるでしょうから」

とは言え、松野さん自身、最初から東京と長野で事業を展開させようと考えていたわけではなく、吉川さんが長野に戻るため必要に駆られてのこと。当初はクライアントとの打ち合わせや商談など、東京を離れる期間があるため柔軟に予定が組めなくなるのでは? 急な呼び出しに応じられずクライアントが離れてしまうのでは? と不安に感じていたそうです。しかしいざ始めてみるとほぼ影響はなく、「スケジュールも調整可能だった」と松野さん自身が少し驚いたほどでした。

むしろ長野にも拠点を構えるようになって、東京に本社を構える意義や周囲の人に与えてもらっている刺激を再認識し、逆に長野で新たな人とのつながりも生まれたり、新しいアイデアが浮かんだりと、プラスの要素を数多く感じているそうです。

「私たちのように、ITというスピーディーに進化し続ける最先端技術の世界に身を置く人間こそ、こうして視野を広げたり思考に幅を持たせたりすることが重要です。東京は刺激も多く得るものにも事欠かない都市ですが、長野には長野にしかないものがあります。それは誰かに与えてもらっても意味のないことで、自分から掴みに出て気付いてこそ、その後の仕事にも事業にもチャンスとして生かせるようになるものだと思います」

myDeskには8名が利用可能な会議室(予約制)と2〜4名用の個室=シェアオフィスも5室ある。個室は月の契約制で、専用キーを使って365日24時間自由に出入りきる便利なシステム。写真は4名用の個室

松野さんが細かな仕様を考え、吉川さんがシステムをつくり込んでゆく。2拠点での事業展開も、こうして役割分担が明確で、しかも信頼関係が築けているからこそ実現したのだろう

長野らしさ、自分らしさ

ところで、なぜ開発拠点を設けるだけではなく、「myDesk」をオープンさせたのでしょう。それは、松野さんが起業後、都内のインキュベーション(起業支援機関や施設)やコワーキングスペースを実際に利用してきたからでした。

「当社の事務所用の物件を探していたところ、この場所と出合いました。好立地でスペースも十分だったため、それならば自社だけで利用するのではなく、いろんな人が気軽に集まれて、情報やアイデアが集まるコワーキングスペースとして開放しようと思ったのです」

東京には以前からそんな場所や空間がたくさんあって、松野さんもそれらの場所に足を運んでは、さまざまな業界の第一線で活躍する人の考えに触れたり、起業家たちと夢を語り合ったりして、未来への糧にしてきました。

「かしこまって『コワーキングスペースができました』『シェアオフィスとして貸し出します』じゃなくても、当社のように本業が別にあって、そのオフィスの一角を開放するような緩い形でも十分に価値はあると思います」

ITベンチャー企業はもちろん、たとえば本屋でもスポーツショップでも本業はどんな業種・業態でもいい。東京に比べて建物もスペースも確保しやすいので、街の成り立ちなど工夫次第では長野特有の交流のカタチが生み出せるはず、と松野さんは言います。

「それに、今長野市はICT企業の誘致プロジェクトを進めていますから、いろんなサポートが受けられる可能性があります。まず相談してみると良いかもしれません。また、若い方は移住やUターンも含め検討してみるのもいいと思います」

東京の真似ではなく、長野らしい人の流れや人との関わり方を模索すればいいし、この土地でしか実現し得ない働き方や生き方を考え出せばいい。それが、松野さんが2拠点ワークを経験してみて、思いを強くしたことだそうです。

どこでどう働き、どう生きるのか。何に価値を見出すのか。
もはやスタンダードが存在しない時代です。松野さんのように自由にイキイキと働く人が闊歩する、そんな魅力ある街にしてゆきたいですね。

明るく開放的なコワーキングスペース。偶然居合わせた人との会話を楽しめるのが魅力のひとつで、松野さんも利用者と話し込むことがあるのだとか。平日10:00〜18:00の間なら1人500円で利用可能

「ここを利用していた方が、後に『あれほど大成したあの人も創業当時はmyDeskのシェアオフィスからスタートしたんだって』と言われるくらいになってくれたら嬉しいですね」と、松野さん

(2017/01/10掲載)

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会える場所 コワーキングスペース「myDesk」
長野市大字栗田源田窪1020-1 ステラビル4B
電話 050-5893-5184
ホームページ http://www.mydesk.fm

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[参照]長野市ICT産業誘致・起業プロジェクト

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