No.335
保谷
ハルエさん
助産所ほやほや 助産師
家族が望む理想の出産を叶え、
楽しく無理のない母乳哺育を
文・写真 合津幸
「助産所ほやほや」が目指すもの
長野電鉄朝陽駅から徒歩約10分。北堀地区の住宅街にある「助産所ほやほや」は、連日妊婦さんや子育て中のお母さんたちを温かく迎えています。
「ほやほや」が行っているのは、助産所での出産、産後の入院(産褥入院)、自宅出産、産後の母乳哺育指導やデイケアなど。自然なお産と母乳哺育に重点を置いた出産・育児のサポートを担っています。
「中でも特に力を注いでいるのは産褥入院とおっぱいマッサージ等のケアです。出産時に1週間程度を病院で過ごすだけでは、その後家事や育児をこなすのは本当に大変。体力を回復させると同時に、育児のペースやコツをつかむための手助けが必要です」
そう語るのは、「助産所ほやほや」の設立者で助産師の保谷ハルエさんです。保谷さんは一貫して母乳哺育を推奨していますが、「ミルクはダメ! 」という極端な考え方ではありません。
ほ乳類である私たち人間が「おっぱいを飲ませたい」「母乳で育てたい」と考えるのはごく自然なこと。もちろん、必要な栄養を与えて命を育むという意義もあります。ですが、そのごく自然な欲求を満たすことが赤ちゃんとお母さんの心身に良い影響を与え、幸せな気持ちや時間をもたらしてくれるものとして重視しているのです。
「出産も子育ても100人いれば100通りの方法がある、まさに十人十色です。おっぱいをあげるのだって、赤ちゃんの飲み癖、体調やご機嫌、お母さんの心やおっぱいの状態、乳頭の形など、さまざまな条件や状況が組み合わさってのもの。ですから、その方に合った授乳方法やミルクの混合割合を一緒に考えて、一緒に頑張っています」
授乳という行為により生まれるスキンシップは自然と母子の絆を深めるなど、子育て期間の中でも限られた時期の尊いひと時のひとつです。だからこそ保谷さんは、このひと時のために努力するお母さんたちの気持ちも大切に思い、プロとして最大限のサポートを提供したいと考えています。
自宅を増築する形で誕生した「助産所ほやほや」。現在、母屋とは別棟の助産所を建て直すリフォーム計画が進行中
産褥入院中の方と笑顔を交わす保谷さん。病院で出産した方が自立した子育てができるようサポートに力を注ぐ
助産師資格取得から相談室開業へ
「ほやほや」の前身は、今から31年前の昭和60(1985)年開業の「保谷母乳育児相談室」です。その原点は、総合病院の産婦人科病棟勤務や個人の産婦人科医院勤務を経験した保谷さんの「母乳で育てたいと頑張るお母さんたちを、地域レベルでサポートする必要がある」という想いでした。
そもそも、新潟県出身の保谷さんが長野県へと移り住んだのは、看護学校への進学がきっかけでした。学生時代すでにご主人との出会いに恵まれていたこともあり、卒業後も長野県に留まることに。しかし、今でこそ「体力が続く限り現場に立ち続けて助産師として死にたい」と語るほど「助産師の仕事に惚れ込んでしまった」そうですが、実は初めから助産師を志していたわけではありませんでした。
「就職後、看護師として最初に配属されたのがたまたま産婦人科病棟で…そこで働く助産師さんたちの堂々とした働きぶりやイキイキとした表情に強く感銘を受けたんです。しかも、お産も彼女たちがチームをリードして、赤ちゃんを自ら取り上げるんです。『すごい! 私もあんな風になりたい』と思いました」
そして数ヶ月後、助産師への憧れの念を募らせていた保谷さんに朗報が届きます。それは県が看護師(県職員)を対象に助産師資格取得のための補助を実施するという内容でした。もちろん保谷さんは就職1年後に早速チャレンジ。病棟での実務経験を生かしながら勉強に励み、見事助産師資格を取得しました。
その後、助産師として経験を積む中で、出産後一人で育児に奮闘するお母さんが増えていることや、妊婦さんの中には母乳哺育が思うようにできず悩んだり自分を責めたりする方がたくさんいることを知ります。
「実家のように過ごせる場所やそれぞれの育児スタイルを確立するためのサポートが必要だと感じました。しかも、気軽に立ち寄れる身近な存在でありながら、頼れるプロが居るという安心感もある場所です。そこで、まずは母乳保育相談室を立ち上げることにしたのです」
毎月第1・3土曜日に行っているベビーマッサージ教室の様子。ほかにも、妊娠中または出産後のリフレッシュを目的としたイベントなども開催している
アイコンタクトなどで母子の絆を深めるベビーマッサージ。「ほやほや」では子育ての幸せや喜びが感じられる取り組みに工夫を凝らしている
出産・育児で家族皆の幸せを実現
そうして長野市の自宅一室で相談室を始めると決めたものの、実はそれまで保谷さんは須坂市内で働いており、周囲に助産師としての保谷さんを知る人はほとんどいませんでした。
「知名度も認知度もゼロ。資金もなければ経営のノウハウもない。できることを実践するのみでした。開業前には他の助産院でどんなサポートにどれくらいのお金をいただいているのかを教わったりもしました」
しかし、相談室の運営と並行して医院退職直後から請け負っていた市の新生児訪問を続けたところ、少しずつご縁がつながるようになります。出張での母乳哺育指導やおっぱいマッサージなどの依頼が増え、相談室を訪れる方も増えて行きました。
さらに開業から約9年後の平成6(1994)年、現在につながるひとつの変化が訪れます。知り合いの病院から自宅出産を希望する方を「診てほしい」という依頼が舞い込んだのです。
「ドクター立ち合いの出産と違って、最終責任は私にあるわけで…さすがに不安になり、東京で開業している先輩助産師の元に駆け込みました。幸運にも滞在4日間で院内出産と自宅出産の両方に立ち合わせてもらい、母子が本来持つ産む力と生まれる力を尊重する自然な出産を目の当たりにしました。特に自宅出産では、家族全員で新しい命を迎えるなど大きな感動を与えてもらいました」
その後、無事に依頼された自宅出産の赤ちゃんを取り上げた保谷さんは、家族が主体性を持って臨む自然な出産を手掛けたいと考えるようになります。そして平成8年に自宅出産を扱い始め、翌平成9年には「助産所ほやほや」として再スタートを切ったのです。
「出産は大切な命をこの世に生み出す素晴らしい瞬間です。だからこそ、もっと妊婦さんやご家族が心から望む環境や状況での出産が叶えられるべきです。それがご家族全員の幸せにつながるんですから」
助産師の資格取得から41年もの間、変わらず現場に立ち、妊婦さんやお母さんたちと全力で向き合い続ける保谷さん。その情熱は、冷めるどころか日を追うごとに高まっています。
助産所の各室は広過ぎず狭過ぎずのちょうど良いサイズ。実家にいるような心地良さと温かな雰囲気を大切にしている。写真は検診・分娩室
(前列左から時計回りに)助産師の太田さん、保育士の桜井さんと森山さん、看護師の吉田さんらスタッフと。取材当日は不在だったが、お嫁さん(息子さんの奥様で事務を担当)も信頼するスタッフの一人
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会える場所 | 助産所ほやほや 長野市北堀856-22 電話 026-296-0777 ホームページ http://hoya-mw.net/ |
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