No.011
中島
麻希さん
1級フードアナリスト/(社)日本フードアナリスト協会 認定講師
笑顔を伝える
「食の情報」の専門家
文・写真 Chieko iwashima
中島麻希さんは、県内初にして唯一(2014年5月現在)の1級フードアナリストです。
「フードアナリスト」とは…。ちょっと長くなりますが、一言で言い表せないのでお付き合いください。
飲食店の情報はもとより、食材、食育、栄養学、レストランの内装、サービス、料理の歴史、食に関する法律、マーケティング、食のトレンドまで、あらゆる角度から食の知識を持ち、多面的に中立で公平な立場から、食・食空間を評価・分析する人のこと。
すなわち、「食の情報」の専門家です。
おいしいと感じる感覚は人それぞれ。だからこそ「中立で公平な」評価をしている情報は参考になります。今回、せっかくお会いできるならと中島さん行きつけのお店「つた弥」さんでランチをしながらの取材を依頼しました。そこで食べた麻婆豆腐がおいしいのなんの。これが違いがわかる人が好む味かぁ、なんて妙に納得しました。以来、おいしいものを求めて中島さんのブログを頻繁にチェックしている私です。
高校を卒業後、音大で学んだ中島さん。大学卒業後は、東京で音楽番組の制作会社に勤務し、寝る暇もなく働きました。地元の長野市に戻ってからは、出版社などに勤務。そのとき、県内の郷土料理に触れ、食への興味を強く持つようになりました。
「風土と食べ物、郷土料理にすごく興味があって、出版社を辞めて食関係の仕事を考えていたときにフードアナリストという資格を知りました。私が知っていたのは狭い範囲のことだけだったので、食を語るにはもっと広い範囲のことを知ったほうがさらに理解が深まると思いました」
取材では長野市南千歳の「中国料理 つた弥」へ。「おいしいお店のシェフは、筋の通っている人、思いを貫いている人が多いです」と中島さん
フードアナリストの資格は、入門編の4級からはじまって最上級の1級まで段階的に専門的な知識を身につけていきます。英語、フランス語、中国語でメニューを読んで注文できる能力も必要で、1級になると高いテイスティング能力が求められる味覚試験があります。味覚試験とは、例えば2リットルの水の中に小さじ1杯程度が溶かされた微量の五味(甘味、酸味、苦味、塩味、旨味)を当てるという内容。試験日当日の体調も重要な要素です。
「最初から1級まで取得しようと意気込んでいたわけではないんです。4級を学んでみて、これはおもしろいと思いました。長野県内ではまだ誰も1級を持っていないというところにも意欲をかきたてられて、挑戦しようと思いました」
2級試験は年に3~4回、1級試験は年に1回しか開催されません。2級以上になると、合格率は10%前後という狭き門。全国に1万人いるフードアナリストのなかで、1級取得者は100名余りしかいません。中島さんは、4級から2級まで2カ月足らずで取得し、1級合格に向け毎週末東京に通いながら数カ月の猛勉強。2013年1月に1級に合格しました。
「やる気が冷めてしまう前に、最短での取得を目指しました」
料理や内装だけでなく、客単価と店のコンセプトが見合ったサービスをしているかどうか、全体を見る
中島さんのフードアナリストとしての活躍は多岐にわたります。
商品開発やメニュー開発、飲食店のコンサルティング、きのこや野菜の研究に協力したり、都内の三ツ星レストランでシェフに説明を受けながら食事をすることもあれば、ミステリーショッパー(覆面調査)としてチェーン店に行って数日間に何十個も同じメニューを食べることもあります。
また、中島さんの地元・松代町で地場産の野菜を中心に取り扱う「カネマツ倶楽部」や、長野市内の飲食店経営者から成るジビエの「鹿遊会」にも関わり、シニア野菜ソムリエの太田奈穂さんとコラボメニューも企画。
街を食で盛り上げる一翼を担う存在となっています。
「1級の勉強は大変でしたが、実践として生かせているので楽しいです。シェフや農家さん、食べることが好きな人…食関連で出会える人が増えて幅が広がりました。学んだことが人とのつながりや体験のなかでより一層自分のものになっていくのを実感しています」
多くの人と出会い、広い世界の食について知ったことで、長野県の食にさらに魅力を感じられるようになったこともうれしい発見でした。
「長野県は東京と比べたらお店の数も少ないし、有名なシェフが東京並みにいるわけじゃありません。でも、地元産のものが地元で食べられることがすごく贅沢な食生活なんだと知りました。長野の食材には素晴らしいものがあります。東京に住む友人に長野の食材を送ってあげるとすごく喜ばれます。やっぱり食材が一番大事だと思います」
「長野県は長寿県として、ほかの県の人からも注目されています。昔から、自分の住んでいるところから近い場所のものであればあるほど体にいいと言われています。長野県の人は基本的に近くで採れたものを食べていることが多いと思うので、私もそういった点からすごく注目しています」
今後は、身近な郷土食にもう一度目を向けていきたいといいます。
「昔は当たり前のように食卓に並んでいたものがすたれていってしまうのではないかと、ここ2、3年は危機感を持っています。レシピがない、いわゆるおふくろの味もレシピ化をしてでも残していかなきゃいけないのではないかと。長野市にもいろんな郷土料理がありますが、そういうものをもっと見直して次の世代につないでいく橋渡しをしていきたいと思います」
微妙かつ繊細な味にまで敏感な中島さんだからこそ、素朴な郷土料理や家庭のおふくろの味に、地域の人が受け継いできた思いを感じとるのでしょう。それは、私たちが知らず知らずに与えてもらってきた安心感であり、受け継いでいくべき歴史。
フードアナリストは単に味の良し悪しを評価するだけではなく、作り手の思いを伝え、食の周りにある笑顔を守るために必要な存在なのだと思いました。
中島さんがメニューの開発に携わったジビエ料理イベントが2014年5月16日から1カ月間開催中(写真はリストランテ・ドルチェ「信州鹿のカルパッチョ ~サラダ仕立て~」)。詳細は信州ジビエ普及実行委員会ホームページ(※1下部参照)へ
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