No.309
兼平
曜輔さん
YAMACHO(ヤマチョウ) オーナー
食と自然とアートと人と
つないで広げる故郷の魅力
文・写真 合津幸
“出身は東京の青山。六本木にある証券会社に勤務し、外苑前に居を構える”という、絵に描いたような都会暮らしをしていた「YAMACHO(ヤマチョウ)」オーナーの兼平曜輔さん。そんな彼が約8年前の30歳の時、人生の拠点に選んだのは信州でした。高山村へ移住し、その5年後には長野市へ出店。そこに込められた想いを尋ねました。
自分が「行きたい! 」と思う店を
長野駅善光寺口から長野大通りと中央通りを斜めに結ぶ二線路通りを進み、中央通りとの交差点を過ぎて20mほど。一方通行の路地に、スープヌードルとピザとワインの店「YAMACHO」があります。
コンセプトは、兼平さん自身が”心から行きたいと思える店”です。店内の装いは個性的で斬新、でも決して突飛な印象はなく、むしろ落ち着いた雰囲気です。男女を問わず1人でも仲間とでも、どんなシチュエーションにもマッチする、そんな安心感がある不思議な空間です。
「料理も空間も、自分が『あったらいいな』と思うものを揃えました。飲食店として料理の味と質を追求するのは当然のこととして、身体にやさしい食にこだわりたいと思っていました。また、音楽も照明もインテリアも、心地良くゆったりとしたひとときを演出してくれるようなものだけを選びました」
兼平さんがイタリアから取り寄せた大きな絵画をはじめ、さまざまなアートが迎えてくれる「YAMACHO」の店内
自慢の料理の中でも特徴的なのは、看板メニューとして人気のスープヌードルです。もともとラーメン好きだった兼平さん。長野市内の店を巡りながら、「旨味調味料不使用でも味が良く、満足度の高い麺料理を提供したい」と、考えたそうです。
「洋食の手法で丁寧に取った出汁を用いたスープに、うどんに近い製法の手打ち中太麺を合わせています。一般的な”ラーメン”のイメージとはギャップがあるため、あえて”スープヌードル”と命名させていただきました」
また、オープン前の建物の改修・改装では、一部大工さんの手を借りたものの床の板張りや壁のペンキ塗りから家具やアート作品選びに至るまで、兼平さん自らスタッフと協力して地道に行ったそうです。
「あれこれやっておけば建物の構造が理解できて、さらに手を加えたいと思った時にすぐに動けます。しかも、誰かに任せるよりも、自分の理想やスタッフの意見を適確に反映させられますし、時間や労力を費やした分だけ自然と愛着も湧きますよね」
素材の旨味を凝縮させたトロリとしたスープに、モチモチ食感の麺を合わせた「ヤマチョウスープヌードル」
信州を新たな人生の拠点に
ところで、記事冒頭でも触れた通り、兼平さんの出身は東京都。20代前半をカナダのカレッジでアートを学びながら過ごし、帰国後30歳までは都心を一望する高層ビルで名立たる資産家たちを相手にバリバリ働いていたそうです。
では、そんな兼平さんがなぜ信州への移住を決意したのでしょうか。
「まず、母が営んでいた高山村 山田牧場前にあるスパ・ロッジ『Redwood Inn』を継ぐことになったんですね。私自身3〜6歳を山ノ内町で過ごしたため、信州で暮らすことの価値や意義は理解していましたし、その時すでに東京での暮らしに未練はなく、むしろ『子育てをするのなら自然の中で』と、考えていました」
高山村で過ごす日々は、季節の移ろいや周囲の大自然と共に在ります。春は山菜採り、夏は川遊びや山歩き、秋は紅葉狩りにキノコ採り、冬はスキーやスノーシュー。
他では目にすることのできぬ風景や自然との接し方があることを実感し、大切な家族や高山を訪れた人たちと喜びや感動を共有する。そんな日常こそが何よりの贅沢であり、高山村を人生の拠点に決めた理由なのだとか。
カレッジ時代に興味を持ち始め、石の掘削作業などゼロから学んだ。大胆かつ繊細な作業を繰り返し、作品を作り上げてゆく
「ここに居ると心身が浄化されて自分を取り戻せるような気がします。帰る場所があるという安心感もまた、1日1日を後悔なく全力で生きるための後ろ盾になっています」
また、天然石を自ら採掘して削り、彫金を施してアクセサリーを創作する作家の顔も持つ兼平さん。「Redwood Inn」隣には自身のブランド「EARTH ART」の工房を構え、週の約半分は創作活動に励んでいます。
さらに、『SPARGO』というデザイン事務所の代表を務め、ポスターなどのデザインも手掛けているそうです。そのあまりにマルチな活躍ぶりには、思わず我が耳を疑ったほどでした。
「そもそも私はやりたいと思うことを見付けたら自分の直感を信じて突っ走るタイプ(苦笑)。多忙でも好きなことをやって充実した時間を過ごせれば幸せです」
「天然石は地球が創ってくれた唯一無二のアート。削り方ひとつで色、模様、輝き方が変わるんですよ」と、兼平さん
心や体で感じられる何かがきっとある
「YAMACHO」のオープンから3年。兼平さんはすでに、日々の業務を信頼するスタッフに任せ、ご自身は一歩引いたところからその姿を見つめています。
「店を始めたのは、身体にやさしい料理や居心地の良い時間と空間を提供したかったからですが、もうひとつ理由があるんです。それは、私が第二の故郷として大切に想う高山村の魅力を、より多くの方に知ってもらいたかったから、です。情報を発信したり、人と人をつないだり、そんな場を創りたかったんです」
出店先に長野市を選んだのは、県内外から訪れる方にとっての玄関口であることと、周辺市町村で暮らす方々にとっても何かと訪れる機会のある地だと感じたからです。
純白の雪に覆われた「Redwood Inn」。「YAMACHO」同様に、日常業務は現場スタッフにほぼ任せているのだとか
「この8年間にさまざまな方と出会って気付かされたことがあります。それは、同じ長野県で暮らしていてもそれぞれに自然との距離感やイメージが違うということ。なじみのある”自然”とは異なる風景が、そう遠くはない場所にあることに気付いていない方が意外と多い、ということでした」
北信地区にはRedwood Innのある山田牧場周辺を含め、手つかずの自然がそのままに残されている貴重なエリアがたくさんあります。兼平さんが魅了されたように、長野県で生まれ育った人であっても心や体で感じられる何かがきっとあるはず。そんなことを、「YAMACHO」をきっかけに知ってもらえたら、と望みながら、経営面での進化に挑んでいます。
「気軽に美味しいものが食べたい、誰かとゆっくり語らいたいと思ったら『YAMACHO』へ。思い切り息抜きがしたい、自分を取り戻したいと思ったら高山村へ。そんな風に思ってもらえたら嬉しいですね」
現在、高山村と長野市を行き来しながら、「YAMACHO」の建物2・3階での新たな展開を模索している兼平さん。まだ見ぬ長野の魅力や自然との付き合い方、アートの世界に触れる機会など、きっと兼平さんらしい手法でこれまでにない楽しみを与えてくれることでしょう。
「YAMACHO」では常時映像を流す演出も。「地元アーティストにチャンスを与えたい」と、ライブ等も開催している
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会える場所 | YAMACHO 長野市南長野石堂町1184-2 電話 026-219-3228 ホームページ http://yamacho.biz/ |
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