No.122
小林
正代さん
ふるさとおはなしたいむ/読み聞かせボランティア
心に残る読み聞かせの時間をコーディネート
文・写真 Rumiko Miyairi
新鮮な子どもの反応
「男の子たちが掃除の時間に、私が読んだ本の一節『み・ず、水をくれ』と、歌いながら水を汲んでいたと聞いたんです。とても嬉しかったですね」
絵本「おおきなカエル ティダリク」を読んだときのエピソードを話す小林正代さん。
現在、長野県図書館協会で働きながら、ボランティアグループ「ふるさとおはなしたいむ」で、小学校の子どもたちに読み聞かせをしています。
このグループは、長野市立古里小学校図書館司書の山川とし子先生の「読み聞かせは子どもの心の育ちに欠かせないもの」という熱い想いを受けてやりたいというボランティアが集まりました。
「長野市に引っ越してきて、娘が転入した小学校で山川先生に出会いました。転入する前、丸子の小学校にいたころから読み聞かせを始めていたので、山川先生の想いに触れ、ますますやりたいと思いました」
こうして山川先生との出会い、小林さんの本格的な読み聞かせ活動が始まりました。
読み手となる図書館ボランティアは、毎月2回、朝8時25分から8時45分まで1クラスに1人ずつ受け持ち読み聞かせをします。今年で13年目となりました。
学級で読み聞かせをする小林さん。今回、事前に選んだ絵本は「うんちのちから」。読み終わると''食物連鎖''のおはなしに発展
図書館ボランティアは、担当する学年や学級のカラーそして季節や行事に合わせて、読む本を数冊選びます。小林さんは、宮沢賢治の代表作「注文の多い料理店」を読んだときに目にした子どもたちのようすを、生き生きとこう話します。
「そのときのクラスは2年生だったので、難しい本を選んでしまったことや元気があるクラスだったので話を聞いてくれるかが不安でした。でも、そんな不安を余所にみんな真剣にこっちを見て、目をキラキラさせて聞いてくれたんです。本を読み終わっても、私の近くに来て本を手にとってみたり話し掛けてきたり。そんな子どもたちの姿がとても無邪気で印象的でしたね」
子どもたちの素直な反応に心を打たれた小林さん。読み聞かせは、読み手も新鮮な気持ちにしてくれるという魅力があると感じました。
小林さんが熱心に読む絵本に注目する子どもたち。それぞれに想像がふくらむ瞬間は息をのむほど、よい緊張感で包まれる
紙芝居で元気になる
「絵本の読み聞かせは、気持ちを込めて大げさに読まないものですが、紙芝居は大げさに、むしろ出てくる役になりきって演じるぐらいがいいんです。近ごろ、お年寄りにも喜ばれているんですよ」
思い出すことはなによりも脳によいといわれていることから、最近では高齢者福祉施設などでも、懐かしい創作文学を紙芝居で演じるケースも増えてきました。そして、その演じ手も福祉施設職員の皆さんで行うなど身近に親しめるようになってきました。
小林さんは「北信濃かみしばい学校」の実行委員として、そんな福祉施設の職員さんや紙芝居の演じ手をやってみたい人に向けて、紙芝居の演じ方が学べる講座も企画しています。
「お年寄りの福祉施設で実際に演じた人から『金色夜叉』が人気あると聞きましたよ。寛一とお宮が出る場面で、聞いている皆さんに参加してもらうこともできますからね。例えば、熱海の海岸のシーンで波の音を立てるとき、小豆を入れた箱を傾けてザザーッて鳴らすのですが、合図したらやってくださいねって、どなたかにお願いしておいてもタイミングがずれることもありましてね(笑)。そこで、どよめきが起きて結構、盛りあがったようですね」
小林さんは、聞く人なりの想像で笑ったり泣いたりすることが、いくつになっても心を豊かにしてくれるものだと確信しています。
「その場が盛り上がると、演じ手も楽しくなりますね。だから、定番の文学作品でも新鮮な雰囲気になれますので、大したことでなくても気持ちを元気にしてくれるのかもしれません」
聞き手も演じ手も元気にしてくれる紙芝居。
小林さんは、そんな紙芝居にも絵本にも題材として親しまれている昔話作品も読み聞かせしていきたいと声高らかに話します。
「今、語り継いでいきたい日本の昔話を、聞かないまま大人になっている人が多いように思います。すでに一寸法師といっても一寸という大きさを知らない、かちかち山といってもカチカチの意味が分からない、そんな親世代が増えているので子どもたちにも伝えられないと、感じていますね」
市内で活動する読み聞かせボランティアグループは数多くある(長野市立図書館で活動するボランティアさんの様子)
心の育ちに必要だから続けたい
「今は、絵本も児童書もたくさん出版されているので、どんな本を選ぼうかと迷うママもパパも、子どもを連れてどんどん図書館に来てほしいですね」
自らも本選びに悩んだことがある小林さん。
子育て中のお父さん、お母さんにも地域の図書館などで毎週のようにやっている、おはなし会に参加することや、分からないことがあったら司書に相談することを勧めています。そして、子どもが自ら選んだ絵本にはケチをつけずに読んであげてほしいといいます。
「心が育つのは、字が読めないころから始まっていますから、そのときから読んであげてほしいですね。短い昔話で充分いいんです。子どもって、読んでもらった話を一生懸命想像するので感情が豊かになになります。ものごとを考える力も養われ、心の成長につながるのだと思いますからね」
そして、生の声で話してあげることが、どんなことよりも心に響くものと話します。
「今、携帯電話やパソコンを介しても会話をやりとりができる時代です。親世代も、連絡網でさえモバイルでするくらいですし、常にそれがないと落ち着かないっていう声も聞きますね。これから、ますます相手の反応を見ながら話をしたり聞いたりする時間がなくなっていくと思うのです。昔話や子守歌を聞かせてくれたのが、お婆ちゃんだったとしたら、そのお婆ちゃんの姿を思い出しただけで心が穏やかになりませんか」
小学6年生で亡くなった祖母を、私も思い出しました。明治生まれの祖母は、祖母自身も親から聞いた、古い数え歌やおまじないなど昔の話を私にしてくれました。今もなお、その時の祖母の声や顔の表情、匂いまでよみがえり温かかった時間を思い出します。
これからは、子どもたちがたくさんの本に出会えるように、本を紹介する「ブックトーク」にも力を注ぎたいという小林さん。
「常にアンテナを高くして、子ども向けだけでなく、あらゆる分野の本にふれ勉強していきたいですね。本に数多く親しんでもらえた子どもが大人になって、またその子どもに伝えてもらうことが願いです。でも先ずは、読んでもらった時間を思い出してくれるだけで嬉しいですね」
各市町村の図書館などで、週末の「おはなし会」は、特に子どもたちで賑わう。のびのびとした雰囲気で自由に聞くことができる
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