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No.120

倉根

明徳さん

信州イノベーションプロジェクト(SHIP)共同代表 県職員

信州をどこよりも楽しい場所に
若手県職員の挑戦

文・写真 Takashi Anzai

会議室での悶々としたスタート

「長野県をどこよりも楽しい場所にする」をスローガンに掲げる信州イノベーションプロジェクト(略称:SHIP)は、長野県庁の若手職員10名が発起人となって2013年12月に立ち上げた団体です。現在は県職員だけでなく民間からも約30人が加わり、総勢約50人がメンバーに名を連ねます。

SHIPでは社会人から学生まで業種やバックグラウンドにかかわらず、さまざまな人たちが交流できる「オープンカフェ」を主催するほか、「TEDxSaku」や「信州若者1000人会議」などのイベント運営をサポートしてきました。

熱意あふれる活動は各方面から評価され、「地域に飛び出す公務員アウォード2014」でも1次審査を通過しています。

発起人の1人で、共同代表の倉根明徳さんはSHIPを立ち上げた経緯をこう話します。

「県職員として、地域の人との距離を感じていて、もっと何かできないかと思っていたんです。ちょうど同じ思いをしていた若手職員5人が、2013年4月にスタートした”職員による政策研究”という職員研修で集まったのが始まりです」

当初、5人で掲げた研究テーマは「都市と農山村の魅力を生かした地域づくり」。しかし、漠然としすぎていたため、話は前に進みません。会議室で悶々と語り合う日々が続きました。そんなある日、倉根さんたちはスタンスを変えます。

「地域に出て行こうという話になったんです。私たちは若手ばかり5人で、知識も経験もない。会議室で毎週のように話し合ったところで答えはでない。じゃあ、地域の人がどうしたいのか、自分たちも地域の活動に入っていって、聞くだけじゃなくて、感じようということになったんです」

そして、安曇野市のとあるイベントに参加し、ウォークラリーを企画。5か月間にわたり地域の人たちと一緒にイベントを作り上げていきました。

「それが刺激的でした。終わった後の飲み会とかでズバズバ言われるわけですよ。『県庁は計画ばっかりつくって地域に出てこない。もう計画はいいから一緒に汗かいてよ!』とか(笑)。でも一方で、気づきもあったんです。県職員は、地域と関わっても2、3年で転勤してしまう。そこを嘆いていたんですけど、安曇野市の人たちは、それは逆にメリットだと言うんです。ここで得た経験を違う地域で伝えたり、逆に違う地域のことをここで伝えてくれたりしてほしいと言われました。それは市町村の職員ではできないので、県職員はそういうことやってよって」

オープンカフェには多様な職種の人が参加している。SHIPの正規メンバーは30代までだが、40代以上でもサポートメンバーとして参加できる

無理なく楽しく、そして熱く

安曇野市でのイベント参加から手ごたえを感じた倉根さんたちは、どんどん地域のイベントに参加し、ファシリテイターを務めたり、セミナーの講師を務めたりするようになります。

2014年9月には、”職員による政策研究”の発表会で、若手職員が地域に出る必要性を訴えたところ、阿部知事からすぐにプロジェクト化するようゴーサインが出ます。同年12月には発足式が行われましたが、他の志ある職員が加わり、その時点で人数は10名になっていました。

ここから加速度的に、さらに多くの人を巻き込むようになっていきます。

「イベントのお手伝いを重ねていくうちに、メンバーの中にも、お手伝いだけでなくて、やっぱり自分たちでも何かやりたいよねという話が出てきました。とにかくいろんな人が集まって語り合う場というのがないよね、という話になって、オープンカフェという場をつくりました」

オープンカフェは当初、不定期開催でしたが、現在では毎月第2水曜に開催されています。毎回、いくつか話題を提供してディスカッションしたあと、交流会が行われます。異業種や同業者が交流することにより、新たな取り組みに繋がるケースも出てきているといいます。

こうした精力的な取り組みをしていますが、長く続けていくために、SHIPには2つの決まりごとがあります。

「1つは、仕事ではないので面白くないと思うことはやめておこうということ。外部からもいろいろ提案されるんですけど。メンバーに投げかけて、反応がなかったものはやっていません。もう1つは、忙しくて出てこられないときは無理せず休むこと。お互いさまの精神で、メンバー全員でフォローできる体制にしています」

信州若者1000人会議でも運営をサポート。これからはSHIP主催のイベントも増やしていきたいと倉根さん

関心は土木構造物から人へ

小さいころから「まち」に興味を持っていた倉根さん。

「小中学校の頃、毎月のように親と東京に行っていたんですけど、橋とかビルを見るのが好きで、将来はそういう土木構造物をつくる仕事がしたいと思っていました。なので、高専の環境都市(土木)工学科に行ったんですけど、そこで都市計画という学問に出会って、自分が好きだったのは土木構造物じゃなくて『まち』そのものだったと気が付きました。それ以来、大学院修士課程までずっと都市計画を学んできました」

県職員として7年目を迎えた年の秋には、働きながら金沢大学大学院の博士課程に入学します。

「学生時代は地域活動ばかりをやっていて、ちゃんと研究をしていなかったんです(笑)。今度はきちんと研究に取り組みたくなって博士課程に進みました。1日3時間しか寝られない日々が1年近く続きましたが、研究も論文を書くのも好きだし、楽しい時間でした。そのころの人脈や経験が今、役に立っていますね」

県庁に入ってからずっとまちづくりのハード面に携わってきた倉根さんですが、SHIPの活動と期を同じくして、この春からはソフト面を担当する部署に異動となりました。ちょうど、県職員としてハード面だけでまちづくりにかかわることに限界を感じていたころだといいます。そして、現在目指している「楽しい信州像」は、ハードとソフトの両面からアプローチしていこうとしています。

「多様な人を受け入れられる地域にできたら面白いなぁと思っています。地方では、どうしても、よそ者や変わった人って距離を置かれやすいですけど、今の善光寺門前のように多様な人を受け入れてくれる空気はとてもいいと思うし、それを県全体でつくれたら面白いと思っています」

SHIPの活動を始めて以降、多様な人々に会う機会が増え、刺激を受けていると話す倉根さん。

「他のメンバーも、SHIPをやっていなかったら会えなかったような面白い人たちに会えるということを生きがいにしてやっているようです。それは大事にしてほしいですね」

現在は大学生からのアイディアをもとに、飲食店などで傘をシェアするプロジェクトを発足させようと画策しています。若い力を結集させ、新たなチャレンジを続けていくSHIP。今後が楽しみです。

食事代金の一部が寄付に充てられる「TABLE FOR TWOプログラム」もSHIPの提案で県庁の食堂に導入された

(2014/10/23掲載)

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