No.114
清水
正広さん
折り紙制作/NPO青空の会 紅葉の里
折り紙という日本文化を継承する
文・写真 Chieko Iwashima
人から人へ継承されていく折り紙
私たちの生活に何気なく溶け込んでいる折り紙。病気の人の回復を願って千羽鶴を折るなど、折り紙にまつわる思い出がある人も多いと思います。
「折り紙というのは、全部二等辺三角形と直角三角形から作られているんです。少しは変形させるものもありますが、基本的にはすべて三角。鶴はすべての基本形なんですよ」
そう教えてくれたのは、折り紙の達人と呼ばれている清水正広さん。子どもたちや外国人観光客など、さまざまな人にボランティアで折り紙を教えています。
「鶴を折ったことがある人はわかると思いますが、最後に折る首と尾のところを折るときに2ミリくらい隙間をつくらなきゃずれてしまう。そういうのをなんでこうなるんだろうって計算しながら作っていくのがおもしろいんです。だから続けてこられたと思うんです」
話をしながら清水さんが取り出したダイヤ型のように折られた折り紙。角を両手で挟み、息を吹きかけるとくるくる風車のように回りました。それを見て私も思わず「おもしろい!」と声を上げてしまいました。
忍者やサンタクロースなど、簡単にできてかわいい折り紙がいっぱい
「でしょ?私はおもしろいって思ってもらえる感覚を大切にしているんです。作ったものに関心をもってもらいたいんです」
折り紙には立体的なものや複雑なかたちなどさまざまな種類のものがありますが、清水さんが人に教えるときは、基本的に1枚で完成するものを選びます。
「人に継承するということを一番に考えているので、私が作るものはそんなに難しくないんです」
自分でもできそう、やってみたいと思わせてくれる清水さん。子どもも大人も夢中になって折り、できあがったものはほかの人にも見せて、折り方を教えたくなります。そうやって継承されていくのだと思います。
風車になっているひし形の折り紙は、同じ形の折り紙が重なっている
原点は祖母のやさしさ
清水さんの折り紙の原点は、おばあちゃんに教えてもらった折り紙だといいます。
「僕の原点は、孫を楽しませてやろうって、ただそれだけのおばあちゃんの気持ちですよ」
清水さんは、鬼無里にある「松巌寺(しょうがんじ)」の三男。境内には鬼女紅葉の墓といわれる五輪塔があり、鬼女紅葉伝説でも有名なお寺です。両親は忙しく、幼いころから清水さんの世話をしてくれたのはおばあさんでした。おばあさんは、よく折り紙を折って遊んでくれたといいます。
「父は僧侶ですから365日、友引の日以外は仕事。母は寺を訪れる檀家の人の相手。私はおばあちゃんにくっついていることが多かったんですよね。祖母は新聞を切って、折り紙にして遊んでくれました。それが折り紙との出会いですね。祖母は私が中学生のときに亡くなって、私も年齢を重ねてそういうものに興味がなくなってはいたんですが、折ると人が珍しがってくれたこともあって、なんとなく続けていたんです」
社会人になった清水さんは、思いがけないところで折り紙を使う場面がありました。
「まだ新人のころ、宴会で上司から何か面白いことやれって言われるわけですよ。そこで私は折り紙をやったんです。船を作って箸置きにして見せたりね」
退職後、以前から休日を利用して続けてきた野菜作りにさらに力を入れる傍らで、ボランティアで折り紙を教える活動をスタート。
「僕が思うように活動できるのはあと15年くらいかなと。そう逆計算したら、自分のために好きなことして生きたほうがいいって思ったんです。地位も名誉も金もいらなくなると人って強いですよ。人がなんと言おうと関係ないですから(笑)」
子どもの発想力や想像力も育む折り紙
折り紙で交流を深める
もんぜんぷら座のなかにある国際交流コーナーで外国籍の人を対象に折り紙の講座を開いている清水さん。冬はスキー場で外国人観光客に教えることもあります。
「昔から英語が好きでね。でも折り紙を教えるのに難しい英語は必要ありません。スキー場のレストランに外国人がいれば、僕は近くに座って折り紙をやるんです。折るのを見せながら、make it?って声をかければ、子どもが一緒やってくれるんですよ。僕はそうやってコミュニケーションがとれるんです」
また、日本伝統文化交流会の一員として、ステージに立って折り紙を披露することもり、海外に出向いて日本文化を伝える活動もしています。これまでに、ポーランド、ベトナム、中国、韓国へと訪れています。
「日本人は、こういう折り紙がもとになった技術で、世界を席巻していることもあるんですよ。例えば、ミウラ折りという日本人が考え出した折りたたみ方は人工衛星にも使われ、NASAも注目しています。折り紙というのは、とても数学的なものなんです」
折り紙が世界に貢献する技術を生み出すことにつながっていると考えると、鶴ひとつを折ることにもロマンを感じます。
長野市の姉妹都市、アメリカのフロリダ州クリアウォーター市から来日した中学生に折り紙を教えた
一方で清水さんは、地元の鬼無里を盛り上げるために「NPO青空の会 紅葉の里」を立ち上げて活動しています。現在、10月19日に開催される「第15回鬼女もみじ祭り」の準備に大忙しです。
「観光客は鬼無里を通過して、別のところに行ってしまうんです。鬼無里を差別化するためにはどうしたらいいかが一番の課題ですね」
そのためにも、折り紙は1つの武器になるという清水さん。あふれる思いはとどまることを知らず、ますますパワフルです。
「今あるもので勝負したいんです。そこにいる人たちが元気になって、自分たちで立ち上がれるようにしたい。あと5年は突っ走りますよ」
和紙を使ったバラの折り紙。留学先で文化交流をしたいという学生に作ってあげたもの
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会える場所 | 第15回鬼女もみじ祭り 電話 2014年10月19日(日)9時45分~12時 |
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