No.57
CAMPiTプロジェクト
ナガラボ編集部のマイフェイバリット
住み手と創造する理想の居場所づくり
文・写真 小林隆史
県外から長野を訪れた友人たちが「長野はいいところ」と本当によく気に入ってくれます。
空気が気持ちいい、自然が豊か、人がやさしい。
そんな言葉を聞くのは、嬉しいかぎり。だけど、長野に負けず劣らず、素敵な場所は他の市町村にもたくさんあるはず。
では、「友人が長野のことを好きになってくれるのは、なぜだろう」とぼんやり考えてみると、「色々なきっかけがあって、たまたまいいタイミングで長野に出会えた」という、その人なりの偶然に尽きるのではないだろうかと思うのです。
ことさら、そんな偶然をつかむような思いでぜひとも紹介したいのが、今、長野で始まったばかりの新たな居場所づくり。長野に住んでみたいと思う人にお届けしたい新たなプロジェクトです。
住み手の想いをかたちに
長野市三輪。長野駅からは徒歩20分ほど。東京へのアクセスは、最寄りの長野電鉄線に乗って、長野駅で新幹線に乗り換えれば、約1時間30分。満員電車に揺られることもなく、あっという間に、東京と長野を行き来できる閑静な住宅街。
ここで、社宅だった3つの団地をリノベーションする新たなプロジェクトが始まりました。名前は「CAMPiT(キャンピット)プロジェクト」。まずは、それぞれの場について紹介します。
【本郷社宅】外観。庭を間に、2棟が向かい合う。写真右の1階には、芝生に開いたカフェスペースにするというアイディアも。『住む』と『働く』が混ざり合うコミュニティになってもおもしろそうな場。
鉄筋コンクリート3階建て。2棟全24世帯。南と北の2棟が建つ団地。
2棟の間には、芝生の広場があり、ここでは様々なイベントも開催できそう。暮らす人、働く人同士のゆるやかなつながりが生まれそうな場。
【本郷東社宅】庭から居住スペース窓を見る。縁側と庭がつながり、東西に室内が広がる。使い手・住み手の様子が垣間見える場として活用できそうな平屋造り。
鉄筋コンクリート1階建て。2棟全4世帯。コンクリート造の平屋。
海外の家屋のような雰囲気があり、店舗や事務所、工房、写真撮影ロケ地などとしても活用できそうなモダンな佇まい。
【日の出社宅】庭から、外観を見る。写真中央から左右に、居住スペースが分かれている。室内はメゾネットタイプ。改修前のため、1階窓にはベニヤが張られている。外観の佇まいを活かした居住空間が、創造をかき立てる建物。
鉄筋コンクリート2階建て。2棟全8世帯。
メゾネットタイプ2階がある間取りのコンクリート造。
各部屋には芝生もあり、珍しい居住空間が想像できる建物。若者から高齢者まで幅広い世代が暮らし、異世代のゆるやかな交流が生まれそうな場。
これらのリノベーションを一手に引き受けることになったのが、長野を中心に遊休不動産の活用を進めてきた「CAMP不動産」とIT関連会社の「株式会社TOSYS」の共同プロジェクトチーム。主要メンバーの倉石智典さん(株式会社MYROOM 代表取締役)は、長野市善光寺門前界隈のリノベーションを、ここ6年で約80件、マッチングさせてきたキーパーソン。
遊休不動産を空き家状態のまま仲介し、借り手の想いに合わせたリノベーションを勧めてきた倉石さんは、3つの団地のリノベーションを、住み手の想いに合わせたかたちで進めていきたいと話します。
初日の見学会を終え、スタッフと反省会をする倉石智典さん(写真右)。来場者の反応を共有しながら、広い視野で、今後の展望を話し合う。
「建物それぞれに特徴があるので、こんな場所になったら面白いだろうなという想像が膨らみますね。なので、かたちを完成させてから居住者を募集するのではなく、住み手や使い手の想いに合わせて、この場所を自由に使えるようにしたいです。
そうすることで、さまざまな働き方や暮らし方が混ざり合い、私たちが想像しなかったような、この場所ならではのコミュニティが生まれていくと思っているのです」
暮らす人の顔が見えるコミュニティ
7月8日・9日には、2日間にわたって、見学会が開かれました。初日には約20組の家族連れや企業主、個人事業者などが訪れ、地元大学のゼミ生も企画運営に参加し、幅広い世代の人たちがこの場所に集まりました。
そこで話し合われていたのは、本郷社宅の活用イメージ。
1階の庭を生かしたドッグランカフェを設ける構想や、3階を事務所として紹介する活用案や、空き部屋を開放したギャラリーの開設などのアイディアが生まれていました。
その中で、倉石さんが挙げたのが「COWORKING HOUSE」というテーマ。
CAMPiTプロジェクトメンバー宮本圭さん(株式会社シーンデザイン建築設計事務所代表)が描いた、本郷社宅のイメージパース。野外で食事をするスペースやオフィス、カフェなどが描かれている。
「異業種が交流する『仕事場』と異世代の『住まい』が、交差するような場になったら面白いかもしれませんね。働く人たちと暮らす人たちが、ゆるやかにつながることで、新たなビジネスアイディアが生まれたり、活動が始まったり、雇用が生まれたり、自由な働き方を実現できるようになったり。顔が見える親しいご近所付き合いが、何か新しいことを生むかもしれませんね」
使い手や住み手が描く、理想の居場所づくり。そのための余白を残して、遊休不動産の活用を紹介する「CAMPiTプロジェクト」の新たなスタート。
偶然に出会う人たちが、使いながら、住みながら理想の居場所を創造する、この場所の未知なる可能性。人をベースに考えた倉石さんたちの取り組みに、人が集まり、新たなコミュニティが生まれていきそうです。
将来的に、交通アクセスや働き方が変化した時、心強いのが、どこに暮らすかよりも、「誰と暮らすか」ということ。そんな選択肢の一つとして、「CAMPiTプロジェクト」のこれからがとても楽しみです。
ちなみに、すでに多くの問い合わせを受けているそうですが、現在も入居希望者を募集中。「希望者が少なければ、プロジェクトは進めない」というのが倉石さんの考え方。
あくまでも、空間を先に決め打ちするのではなく、住み手の希望から場づくりをはじめていきます。
まずは一度、見学会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
本郷社宅の内観。3LDKの間取りは、壁を取り壊すことで広いワンルームの事務所や、間取りを活かした家族世帯の住居などに活用できそうな広さ。
南棟から北棟を見る。中央の庭には、この場所のシンボルのように8本の木が立つ。両棟の部屋からは、緑の景色となり、それぞれの暮らしをほどよく遮る。木の下に集えば、食事を共にしたり、イベントを開催したり、自然と会話が弾んだりと、賑やかな風景が思い浮かんでくる。
〈INFO〉
CAMPiTプロジェクト
お問合せ090-2499-4256 / info@myroom1.com