No.39
徳武秋奈さんの絵
戸隠竹細工職人(修業中) 徳武利文さんのマイ・フェイバリット・ナガノ
「好き」と「楽しい」が溢れる作品
文・写真 合津幸
「楽しく気持ちよく描くこと」を重視
実在はしないけど、手を伸ばせば触れられるような親しみや温かみを感じる世界。そんな印象を与える徳武秋奈さんの絵は、ベースモチーフの動植物に想像の世界や創造物が加えられた個性溢れる作品です。
最近、アクアオイルという水可溶性の油絵具を使い始める前までは、子どもの頃、父親からプレゼントされた色鉛筆のみを使用。描き心地が良く、濃淡を細かく表現できるから、というのがその理由です。一方のアクアオイルは、色をかぶせたり厚みを出したりと特有の質感を持たせられるうえ、指を使って大胆に気分よく描けるのだとか。
「自由に楽しく、好きなものを好きなように描く」。それが秋奈さん流の絵との向き合い方です。そのため、絵は仕事にはせずに趣味として続け、市内の金融機関に勤務。しかも、美術の専門教育を受けたことはなく、「だからこそ何にも縛られず、自由な発想や手法で素直に描けているのかな」と、自己分析しています。
小学生の時に父親から贈られたドイツ製の色鉛筆を今も大切に使い続けている。手前は最近よく使っているというアクアオイル。筆は使わずに指で描く
ケガを機に取り戻した大好きな世界
長野市で生まれ育った秋奈さんは、高校卒業後に進学のために上京。卒業後もそのまま都内に留まり金融機関に就職し、多忙ながら充実した生活を送っていたそうです。しかし、旅先でのアクシデントで脚に全治4ヵ月の大ケガを負い、入院のためやむなく休職することに。この出来事を機に一時帰郷し、約9年ぶりに長野で暮らすことになりました。
「入院中、時間を持て余してしまって(苦笑)…社会人になってからあまり描かなくなっていた絵を久しぶりに描いてみたんです。それが思っていた以上に楽しくて」と、絵の世界の心地良さと楽しさを再認識します。
その後、縁あって素人でも出品できる展覧会で何作品かを展示してもらい、会場にポストカードを置いてもらえることになりました。過去、不特定多数の人に作品を披露したことが一度もなかった秋奈さん。作品の評価云々は考えず、「ステキな空間に自分の絵を飾ってもらえることがただ嬉しかった」と、楽しみにしていたそうです。
「私、絵を描いていると楽しくて、無意識にニヤニヤしているらしいんです(笑)」との言葉通り、幸せそうな笑顔を浮かべながら描き進める秋奈さん
生涯描き続けるための選択を
ある日、その展覧会会場を訪れると、見知らぬ親子が楽しそうに秋奈さんのポストカードを眺めた後、何枚かを購入してくださる様子を目撃。「私の絵があんなに喜ばれて、お金を出してまで手にしようと思ってもらえるなんて。感激でした」と、振り返ります。
後にケガが完治して一時は東京に戻ったものの、休職中に実感した長野の人のやさしさや自然の素晴らしさに帰郷を決断。再び長野で暮らし始めてみると、子どもの頃に戸隠の祖父の家に遊びに出掛けては動植物に触れていた記憶が呼び起こされ、モチーフの大半がそれらの体験を元に描かれていることに気付きます。
また、知り合いの名刺を作成したり、知人の店に絵を飾ってもらったりする中で別の発見もありました。絵は一度自分の手を離れると、見る人のものになる。つまり、その人の価値観や感情・感性と混ざり合い、描き手から独立してゆくのだ、と。秋奈さん自身の想像をも超える、そんな存在にも変わり得るという事実に、絵の面白みと奥深さをあらためて知ったのです。
予期せぬケガがきっかけで大好きな絵の世界に戻った秋奈さん。現在は、こう感じているそうです。
「私自身が楽しむだけでも十分満足ですが、もし誰かの心を感動させたり笑顔にできたらさらに嬉しいです。でも、絵との距離感が変わってしまうのは不本意なので、これまでと同じように『好き』の気持ちを大切にしてゆきたいです」。
最後に「夢は? 」と尋ねると、「おばあちゃんになっても絵を描き続けること」と即答。そのピュアな笑顔と真っ直ぐな眼差しは、秋奈さんの絵に似て何とも印象的でした。
アクアオイルを使った最新の2作品には、色鉛筆とは異なる世界観が広がっている
「これ、自画像なんですよ〜」とニッコリ。カエルの自画像…似ている…かな?
<info>
徳武秋奈さん 連絡先:akidays.love16@gmail.com
※ ポストカードの購入希望および名刺作成等の依頼・問合せは、上記アドレス宛にメールを
[取材協力:新小路カフェ]