No.104
NHK長野放送局開局90周年プロジェクト
ナガラボ編集部のマイ・フェイバリット
開局90周年と、その先の100周年に向けて動き出した新たな取り組み
文・写真 島田 浩美
「NHK」と聞くと、ちょっとお堅いイメージをお持ちの方も少なくないのでは。もちろん、公共放送として、公共の福祉と文化向上のために質の高い番組を届け、災害報道なども担っていますが、近年は“攻めている”といわれるユニークな番組も多いんです。長野放送局でも地域とつながる新しい取り組みが始まっています。
変化する時代のなか、2021年に迎える開局90周年に向けて
1924年にNHKの前身・東京放送局が設立された7年後、1931年に開局したNHK長野放送局。今年3月、開局90周年を迎えます。この節目に、局内各部署の若手メンバーによって結成されたのが、「NHK長野放送局開局90周年プロジェクト」。90周年を機に、放送やイベント、デジタルなどさまざまな媒体を駆使し、長野県の未来につながる取り組みを打ち出すとともに、大きな節目となる100周年に向け、NHK長野放送局としてあるべき姿を考えていくプロジェクトです。今年度はじめに立ち上がり、以来、週1回の定例会議で企画を詰めてきました。
「今の時代は新型コロナウイルスや自然災害など、社会の状況が変わってきていますし、インターネットやYouTubeなどコンテンツの選択肢も増え、若年層のテレビ離れも進んでいます。視聴者にとってのNHKの役割の捉え方も、昔と比べ急速に変化している時代。だからこそ、そうした状況を味方に発展していきたいという思いがこのプロジェクトの根底にあります」
こう話すのは、プロジェクトメンバーのひとりで、長野市出身でもある営業部の久保田智帆さん。全国転勤が多いNHKのなか、地元出身の久保田さんは信州大学卒業後、地域職員採用で入局し、生まれ育った長野県の魅力発信や課題解決の仕事に携わっています。
▲プロジェクト内でも地元出身の強みを生かして活動する久保田智帆さん
プロジェクト自体はまだまだ大きな枠組をつくっている段階ではありますが、徐々に動き始めています。
長野市を中心に、教育やコミュニティなど多様なテーマで勉強会を企画する運営団体「長野ミライ会議」と長野県立大学の主催によって10月29日に開催されたオンラインの「コラボ公開講座」では、abn長野朝日放送、信濃毎日新聞とともに「ローカルメディアのこれから」というテーマでトークイベントに参加。プレゼンを通じて「NHK長野放送局開局90周年プロジェクト」を初めて公にしました。その後はオンライン視聴者とのトークセッションを通じ、ローカルメディアの課題やプロジェクトへの期待といった意見を交換。厳しいコメントも含め、さまざまな声があがって手応えは上々だったようです。
なお、abn長野朝日放送もちょうど2021年に開局30周年を迎えるにあたり、お互いに区切りのタイミングとして、NHK長野放送局では今後も多様なコラボ企画を進めていくそう。そうした取り組みだけでも、ローカルメディアの進化が感じられます。
信州大学と連携したロゴマーク制作
プロジェクトではさまざまな企画を同時進行していますが、そのひとつが、100周年に向けたNHK長野放送局を象徴するキャッチコピーの制作です。決定したのは「あなたとつくる。あしたをつくる。」。「信州の皆さま一人ひとりが主役であり、一緒に信州の未来をつくっていきたい」との思いが込められています。
制作に先がけ、県内で活躍している専門家や有識者などにプロジェクト内で講習会やワークショップを開催してもらい、そのうえで考案していったとか。
さらに、このキャッチコピーも踏まえたロゴマークも制作。信州大学教育学部の図画工作・美術教育コースに依頼し、共同研究というかたちで制作が進められました。「信州で活躍するさまざまな人や団体とつながり、一緒に発信していきたい」との思いが、この企画にも反映されています。
▲ロゴマーク制作にあたり、大学とのやりとりを重ねたプロジェクトリーダーの企画編成部・西村龍貴さん
▲「公共放送と大学による産学連携のロゴマーク制作は極めて珍しい」と話す信州大学の蛭田直先生
NHKと大学側でデザインの方向性を定めるためにいくつものワークショップを経て、最終的に大学側から提案されたのは「天空」「豊穣」「水引」をテーマとした3案。学生によるプレゼンにはプロジェクトメンバー以外の職員も自由に参加できたほか、オンラインでの参加職員がいたことからも局内での注目度の高さが伺えます。
▲ロゴに決定したテーマ「水引」は長野県の伝統工芸である水引の結びでもっとも少ない3本を使い、放送を介して“つながる”イメージを表現。県鳥の雷鳥をメインビジュアルに、祝い結びを巣に見立てることで90周年のお祝いと紅白の色合わせによる縁起のよさ、100周年に向けての未来への発展を表現した
プレゼン後は、インパクトや長野らしさ、汎用性、モチーフの表現方法、色合いなどについて活発な意見交換も。そのなかでは、番組の切れ目に放送する25秒の「スポット」や5秒のPR映像「クラッチ」などに活用する場合のイメージなど、放送局ならではのアイデアもあがりました。
こうしてさらにブラッシュアップを重ね、2月1日にお披露目となったロゴマークですが、「どの案も捨てがたかったので、ロゴマーク以外でも生かせる方法を考えていけたら。今後、さまざまな展開もあるかもしれません」と西村さん。その言葉には、ロゴマークの先を見据えた展開への期待が込められているようでした。
公共放送から公共メディアへ。新しいスタイルの番組制作
ほかにも、まだまだ多彩な計画が進行中。テーマ曲の制作も検討しているそうで、今後は夕方のニュース番組「イブニング信州」の人気コーナー「ちびゆりのみんなでDISCO」との連動企画も考えているそう。コロナ禍でおうち時間を充実させるべく、松本市在住のプロダンサー「ちびゆり」さんがストリートダンスを教えてくれ視聴者が自宅で踊る前シリーズでは、200人を超える視聴者からダンス動画の投稿やSNSでの発信があったことから、今後は制作されるテーマ曲に合わせて皆で踊れる振り付けも考えていきたいと久保田さんは話します。
「ダンス企画は一般の視聴者からの投稿で成り立ちますし、ダンス未経験者の動画も見ごたえがあるので、興味があれば、ぜひ関わっていただけたらうれしいです」
このほかにも、同じく「イブニング信州」内でのさまざまな展開や、毎週金曜放送の情報番組「知るしん」では、地域おこしに携わって長野県の未来をつくっていく人たちの手助けとなるような番組を計画中だとか。
久保田さんが所属する営業部でも、営業活動で出会った“地元の方々だからこそ知る信州自慢”をお伝えする新コーナー「ジモしん」を企画。地域のよいところを探り、番組を通じて地域の人とのさらなるつながりを生み出しています。
▲「ジモしん」は1月27日の「イブニング信州」にて初放送された
くわえて開局90周年特設WEBサイトも先日公開され、今後は90年間の歴史をたどるアーカイブスなどのコンテンツも作成される予定です。
▲開局90周年を機に、新たに制作された特設WEBサイト
▲90周年イベント「そだてる防災のこころ展」も県内各地で開催。緊急時の災害報道はNHKの使命であることから、防災減災の意識向上をめざしている
イベントとしても、 ”次世代を担うキーパーソンから学ぶ”をコンセプトに、幅広い分野で活躍する人材を招く「ジセダイ勉強会 in 長野」を開催。これまでに局内で2度実施されました。
このように、地域の人とつながりながら、今後、さまざまな展開を見せていく予定の「開局90周年プロジェクト」。久保田さんは地元出身だからこそ、局内での新たなつながりにも期待しています。
「NHKは放送や技術、営業、事務系など各部署にそれぞれの職種のプロフェッショナルがいますが、部署を超えた横のつながりはあまりなかったので、このプロジェクトをきっかけに、職種横断的にいろいろな企画がスタートしていくと予感していて楽しみです。転勤で長野県に来てまだ地域に馴染みのないメンバーもいると思いますが、このプロジェクトを機に県内でいろいろなつながりをもってもらえたら地元の人間としてはうれしいですね」
一方で、地元出身ではないメンバーたちは、長野県の自然や文化、気候などに感動を覚える人も多いからこそできる企画もあると話す久保田さん。
「県外出身者が多いからこそ、地域の方々とのつながりはより一層強くもっていきたいですし、視聴者の皆さんから教えていただきたいこともたくさんあります。視聴者の声でこれからの10年間のNHK長野放送局がつくられていくので、多くの意見を取り入れながら、今進んでいる企画を発展させていくことがこのプロジェクトの展望です」
地域の社会的基盤として、NHKが幅広い世代から親しまれ、信頼され、必要となる放送局となるために。「NHK長野放送局開局90周年プロジェクト」の動きに期待せずにはいられません!
▲「ジセダイ勉強会in長野」のひとこま
<info>
NHK長野放送局開局90周年プロジェクト
<お問い合わせ>
TEL:026-291-5200(NHK長野放送局)