No.031
大久保
邦博さん
世界食道オーナー
世界を照らす権堂の小さな灯台
文・写真 Yuuki Niitsu
「世界で羽ばたく若者の手助けになるような空間にしたい」
長野市権堂町にある、世界各国の料理が日替わりで楽しめる「世界食道」のオーナー大久保邦博さんはそう言います。
大久保さんの前職は公務員でした。28年間勤務したのち、自分のこれだというものを見つけるために退職し、世界中を巡る旅に出る決意をします。
「今まで、ヨーロッパを中心に50か国ほどを旅してきましたが、一番印象に残っているのはアイルランドですね。どんな小さい町にでもBarがあって、1日中開いてるんですよ。いつでも気軽に入れて、ギネスビールと音楽がそこにはある。皆、初対面の人にも気軽に話しかけてきてくれるんですよ。それが居心地良くて。」
大のビール好きの大久保さんにとっては、最高の空間だったと振り返ります。
「アイルランドには、”一人でBarに入って二人で出てくる”という有名な格言があるんですよ。一人で入っても、帰るときには友達ができている。そういう空間が日本にもあったらいいなと思いましたね。」
帰国後2年ほど飲食の仕事をしている中で、食を通して旅をする人や世界に旅立つ人が気軽に交流できる場を作りたいと思うようになりました。
そして一番の決め手となったのは、長野駅前にあるゲストハウス「森と水バックパッカーズ」での1年間のスタッフ経験だといいます。
「ロビーでいろんな国の方が旅先での失敗談やお勧めの場所などの情報交換をして和気藹藹としているんですよ。スタッフとして関わっていて、自然と自分も多くの方と打ち解けられました。おかげで人見知りも克服しましたよ」
日本でもかつてのアイルランドで味わったような「人が自然と交流できる場」を自らの手で作りたいと改めて決意します。
「ここでの経験がなかったら今の自分はいなかった」
そう断言する大久保さん。
こうして、食と旅と交流の3本柱をテーマに出店を決意します。
お店を出す際に、周りからは長野駅前を勧められましたが、敢えて権堂にお店を構えた理由をこう述べます。
「私は、長野市の生まれなんですが子供の頃よく権堂に遊びに来ていまして、この町は古い映画館があったり、妖しげなお店があったりですごくワクワクする場所だったんですよ。だから、私にとってはすごく愛着のある場所なんです」
もともとはお茶屋さんだった場所を、知り合いの手も借りながら3ヶ月で改装したという今のお店。
「厨房設備も整っていなかったので、一からやるのは大変でしたが、自分の手でお店を作ることはすごく楽しかった」
と振り返る大久保さん。
こうして、昨年の10月に晴れてオープンした世界食道。不思議とお客さんがお客さんを呼び、知らず知らずのうちに多くの方との出会いがありました。
「商売は客を選べないといいますが、うちには来てほしいお客さんが自然と来るんですよ」
今働いているロシア人スタッフやポルトガル人スタッフも、「人が人を呼ぶ」つながりから働いてもらうことになったといいます。
お店での料理はこうした外国人スタッフにアドバイスをもらいながら、大久保さんが自らの手で作っています。そんな大久保さんが最近作ったのが「ミモザ」というロシアのおし寿司。握りこぶしほどはあるド迫力のお寿司には、胃袋も大満足間違いなしです。
毎週のようにここへ「旅」という土産を持って各国から人が集まる
また、世界食道では「海外に行かずとも旅行気分が味わえる場所」をテーマに、各国の外国人スタッフが中心となり、店内で地図や写真を使って世界中を案内する海外ツアーや語学講座などを行っています。
取材中も、今年はサッカーのワールドカップイヤーのためか開催国ブラジルに因んで、ポルトガル語講座が開かれていました。
「今後は、より実践的な語学体験として海外のレストランに来たという設定で、全ての参加者が現地の言葉でしゃべるという講座をやりたいですね」
次々と今後のイベント企画を口にする大久保さんですが、こうした飲食店としての業務以外に大久保さんがこのような交流の場を提供しているのは、海外を旅して味わった人と人とのつながりの空間、そして海外に行く若者をもっと増やしたいという強い思いがあるからです。
「最近は、中国や韓国などからの留学生は増えてきているんですが、逆に日本人の留学生が減ってきているんですよ。すごく残念。だから、若者が海外に行くきっかけになってほしいですね」
海外を50ヶ国ほど渡り歩いた大久保さんですが、自身が海外へ本格的に行き出したのは30代からということです。
中にサバとシーチキンが入っているロシアのおし寿司「ミモザ」。握りこぶし位の大きさにはびっくり
「もともと映画の舞台を見に行きたいというのが旅の始まりでした。でも中学生の時に見たロッキーの映画に出てくるフィラデルフィアの階段を見に行けたのは、40代になってからでした」
もっと若いうちに海外を経験していれば、また違う人生だったかもとの後悔も大久保さんにはあるそうです。
その思いから若者にはどんどん早くから海外に行って人生経験を豊富にしてほしい。そのきっかけに世界食道がなればと大久保さんは考えます。
ドリンクやフードのメニューが低価格なのも若者が気軽に立ち寄れるようにとの思いからだそうです。
世界食道を「道」としたのは、まさに世界への「道」を提供したいという思いが込められています。
そんな大久保さんに今後のお店としての目標を聞いてみました。
「朝忙しいサラリーマンのために、モーニングで韓国粥を出そうと思っているんですよ。今度、勉強もかねて韓国を旅してきます」
大久保さんの人生には旅があります。その旅で吸収してきたことを地元に持ち帰り、そこに自然と人が集まってきます。集まった人は幸せを手にします。
大久保さんは、幸せの伝書バト。
個人としての目標は
「痛風を治したいですね、今は焼酎で我慢しているんで」
とのことでした。
旅をこよなく愛する大久保さんが、早くビールを爽快に飲む日を心待ちにしています。
ランチメニュー。手前からペリメニ(ロシアの水餃子)、 サラダ、ククスマスカリアー(スリランカカレー)。二国の味をたったの650円で味わえる
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会える場所 | 世界食道 長野市権堂町2373 電話 090-6792-5957 営業時間 月~土12:00~14:00 17:30~21:00 日 12:00~14:00(不定休) |
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