No.012
鶴田
智也さん
(TOMOYAARTS)
画家/オープンアトリエ 風の公園
想像する力は無限大。
アートをもっと身近に
文・写真 Chieko iwashima
画家・TOMOYAARTS(トモヤアーツ)。本名・鶴田智也さん。彼の描くファンタジーの世界は、見るとなぜか懐かしい気持ちが沸き起こってきます。多くは子どものときに見た長野の風景がモチーフになっているといいますが、彼が感じた世界観が、まるで自分のことのように投影されるからでしょうか。
「昔の心象風景って、共通するものがあるのか、外国の人にも懐かしいって言われることがあります。ずっと過去の自分を第三者として見て描く感覚でしたが、子どもが生まれてからは、子どもと一緒に見た風景を描くことが増えました」
目が離せなくなるオリジナルのライブペイント「キャンバスアニメーション」
美術学校を卒業後、東京でさまざまな仕事を経験する傍ら、ずっと絵を描き続けてきた鶴田さん。公園で絵を並べて売るところから始まり、デパートや百貨店などで展示会ができるまでに成長。その際にライブペイントを始めるようになり、次第にアパレル業界や音楽業界へのイラストの提供など、活動の幅が広がっていきました。そして、”絵で食べていく”道を選択。しかし、ある日、東京での創作活動に行き詰まりを感じる出来事が起きます。
「自宅のマンションの窓から見える大きな木が好きだったんですが、その場所にマンションが建つことになって、木がなくなってしまったんです」
毎朝耳にしていた鳥の声も聞こえなくなりました。微妙な心の動揺からか、創作の手は進まなくなります。そんな思いを抱える最中、正月に帰省した長野では描きたいと思う風景をたくさん見つけることができました。長野に戻ろうと思い立ち、15年過ごした東京を離れることを決めて引っ越しまではわずか1カ月。一番の理解者である奥さんの後押しもあり、2009年2月に長野へ。
長野では、創作活動と並行して福祉施設や小中学校でライブペイントを行い、現在の活動の主のひとつともなっている子ども向けのお絵描き会も開始。少しずつ仕事が増え、自室が手狭になってきたこともあり、2012年1月、友人でありデザイナーの宮下智志さんと市内に「オープンアトリエ 風の公園」をオープンしました。ジャンルを問わず、さまざまな作品の展示やワークショップなどのイベントができるスペースで、誰でも利用することができます。アートを間近で見られるよう、基本的に展示品の前に柵を設けないのも”オープン”と冠している理由のひとつ。展示品には、子どもが触ることがあるという了承を得ています。
松代町の真田十万石まつりで行った「かっちゅうお絵描きワークショップ」
「質感がわからなかったら興味も湧かなくて、次世代が育たない気がして。子どもがアートと接していられる場所、雨の日でも遊べるような自由な場所にしたかったんです」
鶴田さん自身もオープンな人柄。市内で行われるイベントに積極的に関わり、出身地である松代の真田十万石まつりでは、子どもが自作の甲冑を身に着けることができる「かっちゅうお絵描きワークショップ」を開催しました。善光寺の花回廊のアートガーデン(花をテーマにしたトンネル)や、権堂アーケードの七夕飾りを手掛けるなど、絵とまちをつなぐ活動をしています。
「1人でずっとアトリエにこもって製作をし続けるのは、ちょっと修行みたいな感じになるので(笑)。まちのことに参加すると、必要としてくれる人がいるのを感じてありがたいし、頭の切り替えにもなる。人とのつながりを感じられる大切な時間です」
子どもたちに絵を描く楽しさを知ってもらおうと始めた「お絵描き会」は今年で4年目。
お絵かき会で一番大事にしているのは想像力です。ネジで止めた角材やヒーローのお面など、ちょっと変わった「キャンバス」に子どもたちは思い思いに色を塗ります。彼自身、教えるというよりも子どもたちに遊ぶ場所を用意している感覚で、月に1回、1年間かけて自分らしく創作する楽しさを分かち合っています。
「自由に描いていいってどういうことか、子どもから学ぶことが多いです。描いているときに楽しそうにしていたり、驚くようなことをする子を見ていると励まされますね。楽しそうでいいなぁって」
観客の目の前で絵を変化させていくライブペイントも彼ならではのパフォーマンスを見せてくれます。音楽に乗せて、さまざまな物語をまるで動く紙芝居のように描いていきます。生演奏なのに演奏者との打ち合わせもなく、完成のイメージもなく、まったくの即興。アドリブが絡み合い、一体感がある心地よい空間を作り出します。
第40回長野七夕まつり」でJR長野駅に掲げられた巨大オブジェ
人とのつながり、目の前で見てくれる人が感動してくれることを大切にしてきた鶴田さん。
そのため、これまで見知らぬ人に評価されるコンペなどへ出品することに違和感がありましたが、今年は心境の変化があったといいます。
「絵がある程度描けてきて、露出が多くなって、いいねって言ってくれる人も増えてきたんですけど、自分のこなれてきたレベルじゃなくて、もっと先に行きたいというか…」
“このくらい描いておけば評価される”。そんな甘い考えがどこかにあったんじゃないか。そして評価してくれる人たちに囲まれた居心地の良さは惰性へとつながり兼ねない。そんな危機感も感じた彼は、コンペへの挑戦を決意します。
「コンペってすごく無情で。どんなに苦労をしても、何も説明できず、数秒で評価される。でも、今だからこそチャレンジしたい。そういうギリギリの場に身を置かないと絵が成長しなくなってしまうのを感じてるんです。もっと描いて描いて、限界より描きたい。本当にいい絵は、どこで誰が見ても、評価してもらえるはずだから」
否定されてしまうことへの恐れはないのですかと、尋ねると。
「ハラハラはするんですけど、期待もあって。生涯現役で絵を描き続けることが夢なので常に限界を越えていきたい。絵を描き始めて18年になりますが、やっとスタートラインに立った気持ちです。やっと本気で絵をやる心構えができたような感じがしているんです」
4月からは、お絵描き会の大人編も新たにスタート。実は、子どものお絵描き会を始めたときから、大人ともコミュニケーションをしながら描いてみたいと思っていたそうです。
「想像力で遊ぶとか、イメージする力をつけることって、子どもよりも大人がもっとやらなきゃいけないことなんじゃないかって気がしているんです」
確かに、大人になるにつれ、自由にイメージする力は失われているように思います。でも、誰にでも自分にしか描けない絵があるはず。私はどんな絵を描くことができるのだろう。彼と話していると、そんなことが気になって仕方がなくなりました。
「お絵描き会」は1年の集大成として展示発表会を行う
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会える場所 | オープンアトリエ 風の公園 長野市上千歳町1336 電話 026‐217‐6819 ホームページ http://www.tomoyaarts.com/ ※個展「夕刻の雨上がり、田の香り」が開催されます。 |
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