No.200
室賀
豊さん
根元八幡屋礒五郎 九代目
目先の利益にとらわれず
お客様を大事に280年
文・写真 Takashi Anzai
日本三大七味唐辛子の1つ
浅草寺門前の「やげん堀七味唐辛子本舗」、清水寺門前の「七味家本舗」、そして善光寺門前の「八幡屋礒五郎」は、日本三大七味唐辛子と称されます。その昔、体調が直るようお参りした帰りに、体によいものを買い求めたということで、そのためいずれも門前町にあると言われています。
株式会社八幡屋礒五郎の代表取締役、室賀豊さんは創業から280年続く老舗の9代目。1985年、室賀さんが家業に入ったころは、商品の知名度こそ浸透していたものの、従業員5名ほどの小さな会社でした。しかし、現在はグループ会社を含め計56名まで成長しました。
「もともと素材や製法、そして商品そのものはよいものを作っているという自信がありました。長く続いてきたということは、評価を受けてきたということですから。しかし、手作業だった包装などの後工程と、商品の魅力の伝え方は少し変える必要がありました」
室賀さんが家業に入ってから優先して取り組んだことは、品質の安定化、生産量の確保、そしてデザインを含めた顧客への訴求方法です。鮮度を保てるように包装パッケージを変え、詰め込み作業も機械化し、そして外注していたデザインを内製化しました。現在、社内にデザイナーが2名います。
「最初は外部にお願いしていたんですが、直接話したいし、思いついたときにすぐ伝えたい、ということで、自社にデザイナーを採用して、今に至ります」
昔から変わらないように見える缶のデザインも、実は少しずつ変化しているそうです。
「横町カフェ」の看板メニュー、手前がチキンの入ったレッドカレー、奥がホウレンソウベースのグリーンカレー
保守と革新をバランスよく
室賀さんは入社してから先代が一線を退くまで20年ほど、先代と一緒に会社を経営してきました。いわく、「先代は極端に保守的」。一方、室賀さんは時代の変化に対応しなければいけないと危機感を抱いていたといいます。そのバランスが安定した成長を支えてきたのかもしれません。
「父は昨日と同じ明日がいいというタイプでした。新しいことを始めようとしても反対はされなかったんですが、ただいつもおもしろくない顔はされましたね(笑)」
缶をモチーフにした携帯ストラップや、七味フレーバーのマカロンなど、アイディア商品を次々と投入し、たびたびメディアの話題に上りますが、それは先を見据えてのこと。
「ある程度、年齢の高い方には名前を憶えてもらっているんですけど、若い方に憶えていただかないと、時間はあっという間に経ってしまいますから」
「横町カフェ」はアンテナショップ的な役割も果たす
デザインに気を遣うのもその一環です。しかし、注力したのはマーケティング戦略だけではありません。2007年には株式会社八幡屋ファームを設立し、自社農園で原材料の一部を生産し始めます。
「昔は、七味の素材はこの近くの、顔が見える相手から買っていたわけです。しかし、だんだん商売が広がると、調達先も県外や海外に広がる。顔が見えない相手から買うわけですから、どのようにつくられているかわからなくなってしまう。全量を自社でつくるのは相当、大変ですが、自分で生産するようになれば、他から調達した素材や原材料がどのように育てられたのかを見極める目が養われます」
社員の生活を大事にする社風は、昔から続いているという
プレミアム・スパイス・ブランドへ
2014年12月には、善光寺門前の本店に併設の「横町カフェ」をオープンさせました。看板メニューは、カレー。自社商品のガラムマサラや七味をかけて味わうことができます。その裏側にはこんな思いが隠されています。
「七味といえば和風の食材だったんですけど、スパイスの1つということでビジネスの間口を広げてもいいのかなと思っています。市場に出ているスパイスの品質は、ぴんきりです。上質のものを追及していくという意味では、まだ(参入する)余地があると思っているんです」
チャレンジスピリットあふれる室賀さんですが、社員を思う気持ちはあたたかです。
「できるだけ定時に帰れるようにしています。ちゃんと帰って、家族で食事をするというのが基本だと思うし、それは昔から続いてきたうちのいい部分ですね」
目先の利益に飛びつかないというスタンスも9代目まで受け継がれてきた精神です。
「大きな袋と小さな袋で迷っているお客さんがいたら、小さな袋をすすめなさい、というのが先代からの教えです。大きな袋だと使い切るまでに少しずつ風味が落ちてしまうから、ということです」
先代もそのまた先代から伝えられたというその言葉。老舗ならではの重みがあります。そうした歴史を大事にしながら、室賀さんが目指すのは、他に負けない価値を生み出す「プレミアム・スパイス・ブランド」。簡単なことではないと話しながらも、その目は前を見据えています。
大門の交差点にある本店。赤い唐辛子が参拝客をお出迎えする
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会える場所 | 八幡屋礒五郎本店 長野市大門83 電話 026-232-8277 ホームページ http://www.yawataya.co.jp/ 横町カフェ |
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