No.115
古幡隆夫さん 株式会社フロンティアオブライフ(プレメディカル・フットケア パスクーラ)代表
ナガラボ編集部のマイ・フェイバリット
「どんな人も最期まで笑いながら暮らせる環境を」。足爪ケアの伝道師が描く“理想のまち”
文・写真 くぼたかおり
コロナ禍で加速した屋外レジャーの需要。なかでも密を避けられる登山やランニング、ウォーキングなどは、時間があるときに1人でもできると楽しむ人が増えています。ウェアや靴などの装備を揃えれば快適かと思いきや、慣れない運動で足の爪を傷めてしまう人も。そこで、足に特化して巻き爪や爪ケアを行う「パスクーラ」代表の古幡隆夫さんに、爪ケアの魅力と重要性を教えていただきました。
50歳で訪れた転機。安定ではなく挑戦を選んだ
長野市出身の古幡さんは長野工業高校建築学科を卒業後、国鉄(現在はJR)に入社。1年目は保線担当として列車が安全に走行できるよう点検や保守作業などの業務に携わり、その後は会社が保有するさまざまな建物を有効に活用するため、駅ビルなどの建物のリニューアルをはじめ駅前の開発企画といった大規模なプロジェクトに関わっていくように。開発された街並みや建物が完成するたびにやりがいを感じていましたが、50歳の時に大きな決断をします。
▲写真は「パスクーラ」のケアルーム。ほかにベッドもあり選ぶことができる
それは、エステサロン「アンジェラックス」への転職でした。美容関係に関心がある人なら「アンジェラックス」という名前にピンと来るでしょう。1987年、長野駅のそばで開業したエステサロンで、筋肉と骨格のバランスに着目した東洋と西洋の技術を融合させた独自の技法で本格的なトリートメントを提供。技術の確かさから、これまでにエステティックグランプリの顧客満足部門全国1位に4度も受賞するなど、多くの人の心を捉えてきました。
エステ業界とは無縁だった古幡さんは最初こそ「自分に何ができるのだろう」と悩みましたが、新しい世界に足を踏み入れることへの興味や期待が上回ったと言います。早期退職には相当のエネルギーを要しましたが、2人の娘が成人していたことが安心材料となって挑戦することを選びました。
日常的な体のケアを通して、心身を健やかにしてくれるエステの魅力に気づく
2005年5月、古幡さんが50歳のときに「アンジェラックス」に転職し、会社の体制や組織づくりに取り組みました。畑違いな環境に戸惑いながらも次第に「自分の役割は何か」を考えられるようになり、より快適で働きやすい環境づくりに努めました。
「アンジェラックスに転職してからは、自分の意志で良くも悪くもなるという責任感や不安、充実感がありました」
縁がなかったエステ業界も、間近で働くことでその需要や魅力を発見。エステというと「美容」をイメージしますが、アンジェラックスでは体の健康や病気を予防するための“ケア”を大切にしていることに深く共感しました。
「裏方としてお客さまを見てきましたが、エステで体をケアしていくうちに外見だけではなく内面にも変化が現れる。表情もやわらかくなったり、イキイキとしたりする姿を間近にしておどろきました」
なかでも古幡さんが興味を持ったのが、フットケアでした。足裏は体全体を支える重要なパーツで、そこに不調が起きると歩行や運動といった普段の生活に大きな支障を与えてしまいます。アンジェラックスではいち早くフットケアにも着目し、足裏ケアの施術技術を独自に開発してきました。
「エステを受けにくるお客さまの中には、むくみ、冷え、肩こりといった症状を抱えている人が多いのですが、その原因を探っていくと足に原因がある人も。たとえば巻き爪や浮き指といった足そのもののトラブルを我慢し続けた結果正しい歩き方ができなくなり、膝痛や腰痛を引き起こしてしまったり。それまで意識してこなかった足裏や爪が、実はとても重要なパーツだと気付かされたんです」
たかが爪、されど爪。爪ケアの重要性を知り、専門店をオープン
こうして2015年6月、古幡さんが60歳のときにフットケアに特化した「プレメディカル・フットケア パスクーラ長野店」をオープン。場所は長野駅から徒歩7分ほど、丸山産婦人科医院の1階にあります。
「どんな店でもそうですが、興味はあっても知らない店に初めて入るときは勇気がいるものです。安心して入っていただくにはどんな場所にあると良いか、需要がある場所はどこかを念入りにリサーチ。産婦人科を選んだのは、妊娠中に足のむくみに悩む女性が多いことを知ったからです」
▲丸山産婦人科医院の入口とは反対側、「カフェ プセット」に隣接している
2024年3月現在では、足と靴の悩みに寄り添う靴の専門店「シューマート」内(長野市・松本市)など3店舗に拡大。各店舗に1人のケアリストが専属で担当してもらうことで、自分の店だという意識を持って関われる仕組みを作り出しています。実際にケアリストの人柄などが店にも表れているのだとか。
ともに働くスタッフの中で1号店のオープンから働いているのが、ケアリストの矢ノ目歩さんです。
「足裏には、これまでの人生が表れていると思うことがよくあります。さまざまな不調や苦労を感じるときは、施術中に『よくがんばりましたね』『ごくろうさま』といった気持ちを込めることも。お客さまも自分が大切にされているという実感が湧いて、手から伝わる温もりには手当療法のような心地よさが感じられるようです。終えた後のスッキリとした表情を見ると、よかった!と毎回思います」(矢ノ目さん)
▲初めて来店された方にはカウンセリングシートを通してコミュニケーションを取りながら必要なケアに進める
基本のコースでは足裏の洗浄をして汚れを取り除いてから正しい形に整えていきます。痛みはなく、むしろ温もりのある手で丁寧に触れられる感覚は、大切に扱ってもらっている実感があって気持ちが良いものでした。
店には爪の整え方がわからない人、巻き爪や外反母趾といった変形などのトラブルがある人などさまざまです。基本的には爪が伸びるペースに合わせて定期的にケアし続けて、痛みや見た目を気にすることなく歩ける足に改善していきます。
「爪のケアって教わる機会がないですよね。みんな自己流で、短くすればいいくらいの意識だと思うんです。パスクーラでは最終的に自分で正しい爪ケアができるようになること。そして、いくつになっても歩き続けられる足にすることを掲げています」(矢ノ目さん)
もう1つの夢は、ケアやサポートが必要な人たちが集まれる複合施設づくり
ケアリストたちが店づくりをする一方で、古幡さんはセミナーなどを開いて子どもの頃から足を含むトータルケアの重要性を伝える活動をしています。同時に今後は技術を基にしたコミュニケーションづくりやコラボの推進、セルフケアのための靴やインソール、コスメといった商品開発なども視野に入れています。つい最近ではパスクーラのケアリストたちが試行錯誤しながら開発したオーガニックコスメブランド「RELA」の販売もスタートしました。
「健康をテーマにしているなら、私たちが店で使うものにもこだわりたい。そんな思いから爪保湿オイルとフット保湿クリームを開発。ひびわれやささくれ、かかとのがさつきなどが改善されると好評です。最近ではむくみの解消を促すフット筋肉ジェルも完成しました」
▲パスクーラオリジナルのオーガニックコスメブランド「RELA」は、実際に店でも使用。写真はスクワラン配合の爪保湿オイル。ささくれを抑えて傷の治りを助けてくれる
現在69歳となった古幡さんですが、パスクーラとは別に就労移行支援事業所カランコエで就労支援員の仕事もされています。
「私はね、どんな人も最期まで笑いながら暮らせるのが理想だと思うんです。そのためにも老人用施設に子ども用施設、健康予防施設、障がい者施設といった、何かしらのケアやサポートが必要な人たちが心地よく、楽しく過ごせる複合施設が作れたら。究極はね、自分が歳を重ねて生活ができなくなっても、最期まで自由を感じ、楽しんでいられるような…自分が入居したい施設づくりが夢なんです」
もちろん実現するには、決して一人で進め切ることはできません。「自分が実現できなくても、いずれそんな場が地域に生まれたら」という信念を持って、古幡さんは夢を語り、今日もどこかで旗を振り続けて仲間を探しています。
<info>
プレメディカル・フットケア パスクーラ長野店
住所 長野市鶴賀南千歳町982(丸山産婦人科医院1F)
電話番号 070-6470-3012
ホームページ http://www.puscura.com