No.112
香山
ひまわりさん
道化師
秘密を演じて笑顔と笑いを届けたい
文・写真 Rumiko Miyairi
行動力で飛び込んだクラウンの世界
「今、すごく人に出会うことが楽しくて生きることがものすごくハッピーって思っています。この楽しいって思えるものを表現したくて。秘密にしないで大勢の人に教えたい、伝えたいって思っています」
そう今の気持ちをはつらつと話すのは道化師の香山ひまわりさん。
香山さんは長野市松代の出身。現在は東京に住みフリーランスの道化師として保育園や小学校、また福祉施設などでショーパフォーマンスをしています。ほかに、パントマイムを取り入れた芝居「ひとり道化芝居」を企画して舞台上演するなど、クラウンの魅力も多くの人たちにみせる活動もしています。
パントマイムを取り入れた一人道化芝居。舞台上演をする香山さん[写真・那波智彦]
子どものころは読書が好きで、体を動かすことは苦手。
運動能力が必要とされるイメージがある道化師を目指すには、ほど遠い自分だったかもしれないと顧みます。
「高校生になると国際的な出来事に興味が湧いて。世界では、平和ではない地域や食べることすら満足にできない子どもたちがたくさんいるってことに、すごく疑問を感じました。できたらその疑問が解決するように自分ができることを見付けて、何かやりたいなって」
そんな思いを抱きながら、香山さんが選んだのは社会福祉学。愛知県にある福祉系の大学に進学します。
そこでは、希望していた国際社会が抱える問題を研究するゼミを受け、地域社会の福祉のあり方など専門的な知識も学んだといいます。
「大学での勉強は楽しかったですよ。でも、だいたい学生の発想とか考えって、自由じゃないですか。だから、目の前のこと以外にもこれやりたい!って思うと、脇見せずそれに向かってしまうとか。私もそうだったんです。たまたまそのころ、想像したストーリーなどを身体で表現する身体表現の世界に興味が湧き、やりたい!って思ったんです」
そう思った香山さんは、早速クラウンの劇のワークショップやカンパニーに参加しました。そのカンパニーではモンゴルサーカスの先生に出会いサーカスについて学び始めます。サーカスは一度も観たことがなかったという香山さんが、サーカスをする側として学び始めると、もっとやってみたい!と思いが高まったそうです。
そしてモンゴルのウランバートルにある国立モンゴルサーカスに留学、アクロバットや一輪車の芸を学びました。帰国後も群馬県の沢入国際サーカス学校に行き、今まで学んだ芸を磨きました。
保育園でのショーの様子。パフォーマンスをする香山さんは園児も先生も一緒に楽しませてくれる[写真・おひさま企画]
恐怖心を克服して舞台に立つ
「一輪車の高さは、最終的に3メートルくらいに乗りました。乗る練習、イコール高さへの恐怖心をいかに克服するかっていう感じでしたね。モンゴルにいたことは、それをクリアする貴重な時間だったかもしれません」
高さ3メートル。家の屋根の上から見下ろすくらいでしょうか。そんな目線でひとつだけの車輪に乗る、というのだから想像しただけでも怖くなります。香山さんの恐怖心は、段階を踏んだ細かい練習のおかげで克服できたと話します。
「最初は自分と同じ身長くらいの一輪車で円が書かれた板の上で乗る。その円からはみ出ないように練習するんです。そのうち実際の机の上に乗る。そして練習。こうして先生は、私が1つ1つできてから難易度を上げてくれたんですが、私は、次は何をするんだろう、これで何ができるようになるんだろうって、分からないままやっていた感じだったんです。でもその疑問も段階を踏んで芸ができていくうちに解決されました」
はじめは出来ないと思っても、階段をのぼるように一段ずつ習得して思いがけない成果を実らせた香山さん。一輪車のアーチストとしてモスクワのサーカスに出演しました。
世界を舞台に活動した香山さんはその後、磨いた芸を活かし、キグレサーカスに入ります。ここでは、道化師として多くのお客さんを楽しませました。
「群馬のサーカス学校など、学校で学んだ時代からサーカスで仕事をした時代は色んな人と関われて、私にとって大きく成長させてもらえた時期だと思っています。」
一輪車に乗る香山さんは、緊張の一瞬でも笑顔を絶やさず振る舞っている[写真・おひさま企画]
しゃべらない魅力を楽しむ
香山さんが、次に影響を受けたのはパントマイム。パントマイミストで名高い清水きよし先生の公演を見たときだったといいます。
「『幻の蝶』という作品を観ました。清水先生の舞台をみると、心が動いて気持ちがあたたかくなるんですよ。パントマイムって、観る人によって想像の膨みかたが違うんです。不思議ですよね。観る側の想像に任されるって素敵だと思いませんか」
何もしゃべらず全身で表現するパントマイムに魅せられた香山さん。
清水先生の元でパントマイムを勉強しながら、いままでサーカスで培った自分らしさも加えて一人で道化師として芝居をする「ひとり道化芝居」の作品作りに励みます。そして昨年、新宿の舞台で公演が実現しました。
「昨年新宿の劇場でやりました。題目は『おばあちゃんの秘密』。今私が目指しているものが、この、ひとり道化芝居なんですよ」
「おばあちゃんの秘密」は次のようなあらすじです。
出てくるのは掃除婦のおばあちゃん。サーカスの楽屋裏でのこと。いつものように掃除をしにきたおばあちゃんは、興味が尽きない性格。そこにあった衣装や赤い鼻を付けて、道化に扮してはしゃぎます。すると、おばあちゃんはサーカスの舞台へと登ります…しばらくして我に返ったおばあちゃん。また掃除をしに戻ります。
おばあちゃんを演じる香山さんの姿をイメージすると、私はほっこりとあたたかい気持ちになりました。
香山さんは、これまで身に付けてきた芸を通じ、道化師として活動の幅を広げていきたいといいます。
「老人社会福祉施設の方から声を掛けていただけて、初任者の職員さんたちに、パントマイムの研修を始めました。お年寄りになってみて演じるワークショップの形でした。気持ちを演じることによって、お年寄りの気持ちに共感できるようになれたらいいなと思います」
「お年寄りと向き合っているのは現在しかありませんが、その相手を演じると過去の生き方なども感じられるかもしれません。すると相手の見方も視野も広がります。ゆったりと笑顔でふれあえるようになれますから」
香山さんはどんなおばあちゃんを演じるでしょう。想像してみませんか[写真・那波智彦]
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