No.097
宮尾
英之さん
信陽舎学生寮
老若男女が肩を寄せ合う武蔵野の学び舎
文・写真 Yuuki Niitsu
全国でも珍しい学生寮
東京都武蔵野市には全国的に見ても珍しい学生寮があります。
なんと高齢者施設と学生寮が一緒になっているのです。
お話を伺ったのは、信陽舎学生寮の宮尾英之さんです。
宮尾さんは現在、日本大学文理学部の4年生で長野日大高等学校出身です。高校の頃は、駅伝で全国大会に出るほどのランナーでした。そんな宮尾さんがこの信陽舎学生寮に住もうと思ったきっかけを教えてくれました。
「僕が大学に入る年は、東日本大震災のあった2011年でした。余震もあり毎日が不安で、正直一人暮らしをするには心細かったんです。それに、高齢者施設と一緒になっているということ知り、世代が違う方と交流が出来るということで敢えて選びました」
画面がついていないテレビを見ている二人(笑)とても楽しそうだ
信陽舎が高齢者施設「桜堤ケアハウス」と一体となった経緯は、平成に入り寮舎の老朽化が深刻になっていましたが、運営する財団に予算がなかったため、当時高齢者福祉施設の用地確保に苦労していた武蔵野市に共同事業を提案。財団が市に土地を貸し、そこに共用の建物を新築することにより双方の悩みを解決したということです。
建物自体は併設で食堂や浴室は別々ですが、行事ごとに交流を深めているといいます。
「避難訓練の時は、同じ階の学生がお年寄りの手を引いて避難します。高齢者の方は動きもゆっくりですから特に気を遣って誘導します。普通なら自分が避難するだけですが、ここは違います。こういう経験ができるのがここの良さでもあります。助け合って生きていることを実感しますね」
その他、お花見、寮のお祭りや新入生歓迎会、追い出しコンパ、夏には食堂横のエントランスでビアガーデンも行われ、互いに交流を深めているといいます。
向かって左が学生寮で右が高齢者施設。入り口は分かれているが行事ごとに交流を深めている
友、先輩、そして母
「他にも寮のメリットはあります。ここにいる寮生は、みんな違う大学に行っているので、いろんな分野の話が聞けて勉強になりますよ。本当にいろんな人がいますから。大道芸サークルの寮生がいるんですけど、目の前でピザ回しとかしてくれますから(笑)」
違う分野の大学へ通う寮生や世代の違う高齢者と住むことにより、多くの知識やコミュニケーション力が養われると宮尾さんは胸を張っていいます。
そしてこの寮にはもう一人、貴重な存在がいます。
「寮母さんですね。食事を担当してくれるのですが、朝、夕と食事を作ってくれるのは本当にありがたいですね。体調を崩した時にも様子を見てくれたり、僕たちの東京のおふくろです」
そう話すと、ちょうど夕飯の支度をはじめていた寮母さんを連れてきてくれました。
「顔を作るのに2週間かかるから写真だけは勘弁して!」と冗談を言いながらも、撮影に応じてくれた寮母さんは、笑顔の素敵な方でした。
寝食を共にする同胞、節目節目で肩を寄せ合う人生の大先輩、胃袋を満たしてくれる寮母さんが、一つ屋根の下で暮らす信陽舎学生寮。
月一度は帰る故郷愛
最後に宮尾さんの長野市への思いを聞いてみました。
「実は僕、月に一度、長野市の美容院に通っているんですよ。幼稚園の頃から通っていて、僕に似合う髪型からファッションまで的確にアドバイスしてくれるんです。友達に言うと、びっくりされるんですけど(笑)だから、長野市は常に身近な存在です」
高校から現在までの17年間、バリカンでセルフ坊主の編集部・新津は驚きを隠せませんでしたが、長野市への愛を感じる言葉でした。
宮尾さんは、食品メーカーでの就職が内定しており、来春からは営業マンとしてバリバリ働くと今から意気込んでいます。
「取引先は年配のバイヤーさんもいるんですが、ここでの高齢者と関わった経験を活かしていきたいです。と言ってもちょっと年配すぎますかね(笑)」
照れ笑いを見せる宮尾さんに
「きっと活かせるはずだ。人生に無駄なものなんてない!全て自分次第だ!」と人生の先輩として、ビシッと心の中でアドバイスした編集部・新津。
寮生が大好きだというダーツ。しかしよく見ると皆なかなか的を外している
現代はスマートフォンやパソコンなど情報化社会が進む中で、人との関わりが少なくなってきていると言われています。むしろ人と関わらなくても生きていける時代かもしれません。しかし、そんな時代の流れに「ちょっと待った」と手を挙げ、自ら人間同士の関わり合いを求め、それを社会に還元しようとする若者がここにはいました。
長野市の宝をまた一つ探せた取材でした。
寮母さんとツーショット!「東京の母」と皆が慕っている
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会える場所 | 信陽舎学生寮 〒180-0021 東京都武蔵野市桜堤1丁目9番9号 電話 0422-(51)-0218 ホームページ http://www5.ocn.ne.jp/~sinyosya/ JR中央線武蔵境駅北口より 徒歩約15分 |
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