No.095
田中
克樹さん
切り絵作家/切り絵工房 克(KATSU)
゛もったいない”廃紙(ゴミ)が
色彩豊かな切り絵アートに
文・写真 Rumiko Miyairi
廃紙が廃紙でなくなるとき
「僕は、黒い紙にこだわりがないので」
色鮮やかな切り絵の世界を生み出す切り絵作家田中克樹さん。
魚や動植物、風景、建物、乗り物…身近にあるものを対象として切り絵の世界に変えていきます。
いつも持ち歩いている材料箱には、数百枚はあるであろう、色付きの紙々が入っています。しかも、使い残した紙や、小さくなった切れ端ばかりです。
大体、そういう雑多な紙は、一度使ってしまえば紙ゴミ扱いをしてしまいますが、それらの紙こそ、田中さんの創作の世界を広げる役目を果たしています。
田中さんは、長野市生まれ。
名古屋のデザイン専門学校を卒業し、長野市内の看板製作会社に就職。
看板やサインの文字を作るため、カッティングシートなどを用いて切る仕事を担当していました。
カッティングのマシン(機械)がない時代だったので、ひたすら素手で切る作業をしていたといいます。
田中さんの切り絵は色鮮やか。ポップなレトロカーは世代を超えて人気がある
「必要な文字を切るために大きなシートや紙を使うと、まだ使える部分が残ってしまい、それがなかなか捨てられなかったですね」
仕事で出た大量の紙ゴミを目にしていた田中さんは、いつも「もったいない」と感じていました。そのうち、「それらも何かに使えないものか」と考えるようになったそうです。もともと水彩やアクリルで描いていたので、「スケッチした絵に不用になった色紙を入れて切ったらどうなるだろう?」という好奇心で描いた絵にカラーの紙を入れながら切ってみたそうです。
要らなくなった紙々を貼り合わせたり、重ねたりしてみたら、まるで水彩絵の具で絵を描くように、多彩で立体感のある作品を描くことができました。
廃紙の色紙を使う切り絵という、新しい世界を発見した田中さん。
それ以来、田中さんは、子どものころ好きだったレトロカーや、近所で見かけた野良猫、通勤途中の路地裏風景など、目にとまったものや記憶に残っているもの、あらゆるものをスケッチして切り絵にしてきました。
「ランチュウ」田中さんの代表作。水の流れと赤にこだわったランチュウの姿は悠々としている
自由に臨場感ある切り絵を楽しむ
「人や物、すべてに影があるので、いろいろな色紙を重ねて切ると立体的になるんです。色は好きなだけ自由に使えるからね、色にこだわると描いたものが今にも動きだしそうに表現できて、楽しいですよ」
額縁に収められた田中さんの作品は、その言葉通りどれもカラフルで、あたかも実物が飛びだしてきそうなくらい、臨場感があふれています。
その色鮮やかな作風はとても好評で「オーダーで作って欲しい」と広がっています。それから20年以上続けてきたが、やめたいと思ったことは一度もないそうです。
そして、数年前からは市内のカルチャーセンターで講師としても切り絵教室をスタートします。
「教室では、皆さんそれぞれで、作りたいものはバラバラ。作品の型や作るペースを決めると、遅い人はイヤになって途中であきらめてしまう。だから『誰でも、その人のペースで作りたい物を作りたい時に作りましょう!』と楽しみながらやっています。それぞれ発見しながら自由にね」
その人なりに自由に創作できるとなれば、要らなくなった色紙でも充分使える可能性が出てきます。その結果、自分だけのオリジナル作品になるのですから、不思議なことにゴミも宝のように思えてきます。廃紙を諦めずよみがえらせた田中さんならではの発想です。
「大きな一枚の紙から作り出そうとすると、切り落としてしまったとき『失敗した』と思って
イヤになりますから。だから僕は、小さなものから作り上げていく考え方なんです。
貼って、つなげればね、小さな紙から大きな作品を作る。仮に、切り落としてしまっても直せますし(笑)」
個展で展示する作品の数々。展示会のたび、場所柄やその季節に見合った切り絵を用意するという
無駄なものも失敗もないアートの可能性
田中さんは、不用になったものを活用してつくる「廃材アート」の展示会も企画、その実行委員長として廃材を使ったアートの魅力を広めています。
そこでは、ペットボトルを使った飛行機模型や、古布を再利用したバックやポーチ、段ボールで作ったオブジェなど出展者それぞれの力作が数多く集まります。
「どれも廃材で作ったとは思えないほど、完成度が高いんですよ」
この展示会は、毎年2月、長野市リフレッシュプラザ(長野市清掃センター内の施設)で、開催しています。年に一度の開催なので、出展者の中には作り貯めた作品を数十点以上並べる人もいるそうです。
「出展者ごとに、使われている廃材も表現方法も自由なので、見ていただくと『何からできているんだろう?』という疑問が湧いてきて、その答えがわかると、おもしろいですよ。へぇーってね、驚かされますから(笑)」
毎年2月に開催される「廃材アート展」。どれも廃材を使ったアートが勢ぞろいする[写真・長野市リサイクルプラザ]
田中さんの持ち前の好奇心がこの展示会にも活かされています。
そして、共通して伝わってくるのは、『無駄なものはこの世の中に1つもない、失敗したという諦観も最初からない』という可能性と、活き活きとしたエネルギーです。
「失敗という考えは初めからなくせばいい。どんなことでも小さな紙は素材だと思えば、それをつなぎ合わせて新しい絵ができる。そして、とにかく切って切って切りまくっていくと、必ず可能性が見つかる。これが、おもしろい」
ペットボトルて作られたオブジェは中学生の作品。その発想力と技術力で表現されたアートは毎年見応えがある[写真・長野市リサイクルプラザ]
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会える場所 | 田中克樹個展 「切重画KI・RI・E・GA」展 入場無料 電話 2014年9月19日(金)~21日(日) おぶせミュージアム木造館(小布施町) 長野市リサイクルプラザ(田中さんの作品を常設展示しています) |
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