No.24
長野市在住の作家・内藤了さん著 藤堂比奈子シリーズ
笠原十平衛薬局・笠原久美子さんのマイ・フェイバリット・ナガノ
主人公は“普通”の子。
奮闘ぶりに共感!
文・写真 くぼたかおり
長野市出身の新人刑事・藤堂比奈子が奔走!
先日まで放送されていたテレビドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』。実はこの原作者である内藤了さんは長野市在住の作家だとご存じでしょうか? ドラマ放映時は平安堂長野駅前店でコーナーが展開され、売上もトップ3を占めるなど人気を博しています。
主人公の藤堂比奈子は長野市横沢町出身という設定で、亡くなったお母さんが「進め!比奈子!」と書いてくれた八幡屋礒五郎の善光寺七味缶をいつも持ち歩いています。比奈子はいつも何かに行き詰まった時、集中したい時などガムやコーヒーにこの七味をたっぷりふりかけるなど、私たち長野市民なら分かるネタなどが随所に詰め込まれています。
7・8月につづけて発売された最新刊『ZERO』と『ONE』。『ZERO』では比奈子が実家に帰省するところから物語は始まります。新しくなった長野駅や駅前広場の変化におどろいたり、父親に連れられて鬼無里へ出かける道中の白髯神社で新たな事件に遭遇するなど、内藤さん自身が長野市に住んでいるからこそ描ける描写の細かさが感じられます。
さらには、猟奇的で殺人事件に立ち向かう比奈子と捜査一課の先輩たちは、殺人の残忍さとは対照的に、人間らしく、あたたかな人たちばかり。ストーリーのおもしろさはもちろんですが、登場人物に魅せられて読み進める人も多いのではないでしょうか
平安堂長野店で展開されていた内藤了さんの本(撮影:8月上旬)
最新刊で重要な舞台となる、鬼無里の白髯神社
すでに『ZERO』と『ONE』を読んだ方のなかには、物語の重要な舞台となった鬼無里の白髯神社に興味を抱いた方もいるのではないでしょうか。鬼無里という変わった地名には諸説あります。
1つ目は「一夜山の鬼」で安部比羅夫が退治した話、2つ目は「荒倉山の鬼」で平維茂が征伐した話、3つ目は「虫倉山の鬼」で、どこかへ姿を消したという話で、どれも伝説です。
白髯神社がある“日影”という集落は、お日さまの影によって守られているという素敵な意味合いを持っています。約300haもの白髯の森にある神社の周辺には、時期になるとホタルが舞い、ショウブの花が美しく咲きます。
豊かな自然に寄りそうようにして立つ白髯神社の創建は白鳳年間、天武天皇が鬼無里の地に都を定めたことから始まります。神社があった場所が鬼門にあたったことから、そこを鎮めようと寿永2(1183)年、木曽義仲の祈願所にしたとあります。
拝殿の奥にある本殿は現在、神事や行事の時だけ開かれているため、普段は参拝ができません。間口1.38m、奥行1.23mの平屋木造一間社流造で、屋根は杮葺き、母屋は円柱上に舟肘木を、向拝は角柱に組物三斗を用い、主屋と向拝を蝦虹梁でつないでいます。
また角柱の面取の幅の広さ、木鼻や紅梁の素朴さなどから、本殿は室町時代後期の建築だといわれています。
猿田彦命を祀る白髯神社
国の重要文化財に指定されている本殿
渦巻きの絵様と双葉の若葉の彫刻が見える海老虹
『私』や『あなた』が主人公になれる小説に
最後に紹介するのは、作家・内藤了さんのことです。プロフィールを確認してみると、長野市在住でデザイン事務所を経営しているとありますが、正体は明かされていません。どんな方なのかお会いしてみたいけれど、謎に包まれたままだからこそ物語に集中できる部分もあるかもしれません。
とはいえせっかくナガラボで紹介するならメッセージだけでも!と、今回は特別に内藤さんにメールで取材をさせていただくことができたので紹介します。
ー藤堂比奈子を主人公に描くきっかけを教えてください。
きっかけは、現実に起きたさまざまな無差別殺人事件への憤りと哀しみでした。小説を書くために資料などを勉強していくうちに、犯人への怒りだけを一方的に書くのは間違いなのではないかと思い始めたのも事実です。
ー主人公・藤堂比奈子のキャラクターについて教えてください。
小説の主人公の多くは、美形で優秀で、特別な人物として描かれます。それだと読者の多くは「自分では主人公にはなれないんだ」と感じてしまいます。だから私は、『私』や『あなた』や『よく知る誰か』が主人公になれる物語を書きたかった。ゆえに藤堂比奈子は普通の子です。普通であることの素敵さを感じてもらえたらうれしいです。
ー角川ホラー文庫で本を出されていますが、内藤さんは藤堂比奈子シリーズをがどのようなジャンルと捉えて書いていますか?
作家になろうと決めたとき、個人情報を秘匿できる応募先を探しました。すると、プロも応募してくる日本ホラー小説大賞と幽怪談文学賞(この賞は終了)しか見当たらなかったので、そこへ応募したというのが正直な話です。
実は私は、ホラー畑やミステリー畑にいたわけでもないのです。目指しているのは、『病人が病院で病気を忘れて読める小説』で、ひと言でいうなら“エンタメ”です。
ー内藤さんは、長野市のどういったところに魅力を感じますか?
私はここで生まれ、ここで育ちました。仕事で全国を回るようになっても、北アルプスが見えると「帰って来た」と感じてホッとします。長野の何が違うかというと、空気と風が違います。魅力を感じるとか感じないとかいう前に、ここは私そのものであり、血液の半分以上が、ここの何かでできているのだと思います。産土(うぶすな)という言葉がありますが、まさにそういうイメージです。
ー最後に、まだ本を読んだことのない方にメッセージをお願いします。
藤堂比奈子シリーズは、モニター審査員の方々の、続編を望む声のおかげで誕生しました。私はそのことを決して忘れませんし、ずっと誇りに思っています。比奈子と私は同じ新人であり、同じように悩み苦しみながら進んでいます。欠点だらけの登場人物たちを、温かく応援していただけたらうれしいです。
主人公の比奈子が持ち歩いている、八幡屋礒五郎の善光寺七味缶
<info>
角川ホラー文庫
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/series_14.html