Dessert & cafe Dekoオーナーパティシエ増田幸平さん
大阪府出身優しい人が多く、人のよさを感じます。楽しい出会いがたくさんありますし、行きたいお店もまだまだあります。フルーツをはじめ、おいしい食材が豊富なのも長野の魅力です。
1983年大阪府生まれ。高校卒業後、ホテルやレストランでアシェットデセールの研鑽を積み、2017年に兄が開業した天ぷら屋で働くために松本へ。店ではデザートも担当。松本菓子組合に加盟し、「松本スイーツコンテスト2017」ではグランプリを受賞。2018年、長野市でパートナーの桃井万里子さんとともに「Dessert & cafe Deko」をオープン。
移住までの道のり
1983 | 大阪府生まれ |
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2002 | ホテルに勤務しパティシエに |
2017 | 兄の店を手伝うため松本に移住 |
2018 | 「Dessert & cafe Deko」オープン |
「“ここでしか食べられないもの”を提供したい」長年の夢を長野で実現
2018年に「アシェットデセール」の専門店としてオープンし、裏通りの2階というわかりづらい立地ながら、行列ができるほどの人気を集めている「Dessert & cafe Deko(デコ)」。オーナーパティシエの増田幸平さんは、独創的なセンスと磨かれた技術で、今まで見たことのないような美しいアシェットデセールを提供しています。
「アシェットデセール」とは、フランス語で「皿盛りのデザート」のこと。テイクアウトを前提に作られるケーキなどと異なり、作りたての味わいや香り、食感により“その瞬間”が楽しめ、芸術作品のような華やかさも魅力です。
「長年、ホテルやレストランでパティシエとしてコース料理の最後のデザートを提供してきたので、ショーケースに入っているお菓子よりも、温度差や食感など、その一瞬しか感じられないような“生きた”お菓子を作りたかったんです。パフェなど“ここでしか食べられないもの”を意識しながら作っています」
この言葉通り、増田さんが作るお菓子は旬の果物をふんだんに使っていたり、季節のイベントを意識したビジュアルだったりと、まさに“その瞬間”しか味わえない、生きているようなものばかり。
「季節感にこだわり、上質なフルーツを使って、ほかにはない構成を考えています。また、固定のメニューではなく季節ごとに商品を変えることで、『あの時季にこの店にいたな』という思い出のひとつになってほしい、少しでもお客様の思い出づくりに寄り添いたいという思いも込めています」
ゆったりした温かい空間づくりを意識。長野市の支援金も活用
増田さんは大阪府出身。高校卒業後、関西をはじめとする全国のホテルやレストランで研鑽を積み、兄夫妻が松本市に天ぷら屋を開いたことから、手伝うために同市に移住しました。そこでパティシエとしての腕を振るい、松本菓子組合にも所属して「松本スイーツコンテスト2017」ではグランプリも受賞。そうしたなかで、少しずつ独立を考えるようになったといいます。
そこで、兄のもとで経営面も学びながら、物件探しを開始。たどり着いたのが、以前はうどん屋だった長野市のマンション2階の物件でした。かつて長野に住んでいたおじが5年ほど空いていたところを見つけ、当初は兄の店として考えていたそうですが、兄が松本で開業したことから増田さんにと勧められたそうです。
「昔から長野には縁があり、おじ夫婦が住んでいたので子どもの頃に遊びに来ていたり、兄夫婦が奥さんの出身地である松本市で天ぷら屋を開いたり。そうしたなかで、ずっと自分で好きなように作れる店をやりたいと思っていたので、店を開く場所にこだわりはありませんでした」
とはいえ、当初は周囲から「2階はわかりづらい」「裏通りは人の往来が少ない」と不評だったそう。それでも同マンション1階の美容院「ヘアメイクフレア」のオーナーと、裏通りを一緒に盛り上げていこうと誓い合ったそうです。
店舗の改修に関しては、長野市が移住と起業の両方を促進する目的で開始した「長野市移住者起業支援金」制度を活用。
「オープン前の設備投資に大変助かりました。市役所の担当者もすごく相談に乗ってくれましたし、『頑張ってください』と応援の言葉をいただくと『やらなあかんな』という気持ちにもなりましたね」
こうして3〜4カ月かけて開業の準備を進め、増田さんも内装工事の一部を担当。これまでに趣味として巡った自分の好きなカフェやケーキ屋をイメージしながら、やさしい雰囲気を大切に手がけました。
ゆったりとした空間づくりも増田さんのこだわり。隣の人の会話が気にならない座席の配置にしました。そして、メニューの提供を待つ間にもゆっくりと空間を楽しんでほしいと、季節を感じる小物やオブジェにも気を配りました。
長野でのつながりを大切に、新たな食材にも挑戦したい
こうして、松本市出身のパートナー・桃井麻里子さんと2018年7月にオープンすると、思わず写真に撮りたくなるようなデザートがSNSをはじめとする口コミで広がり、行列ができる人気店に。また、飲食店同士のつながりでも評判が広がっているそうです。
「いろいろな飲食店に食べにいって出会えるおいしさや気概のあるシェフはすごく刺激になりますし、人のよさを感じます。作り方を尋ねても隠すことなく快く教えてくれるいい人ばかりで、食材業者まで紹介してもらえることも。知り合った皆さんが『Deko』を宣伝してくださっていることも感謝しています」
一方で、長野の食材のおいしさも実感しつつ、もっと地元食材も研究したいと話します。
「まだまだ長野の食材に触れられていませんし、せっかくだから土地のものをもっと知りたい思いもあります。ただ、長野ならではの貴重な食材を使って1週間だけの期間限定で提供するようなデザートも作ってみたい思いはありますが、『食べたかったのに、もう終わってしまった』といわれるのは残念なので、そのバランスを考えることが大事ですね」
また、そばなど、長野ならではの食材を使ったメニューについても、地元の人にとって食べ慣れたものでは新鮮さを感じてもらえないのではないか、県外から取り寄せた食材のほうが喜ばれるのではないか、でも、地元食材を使ったほうが県外のお客様もよべるのではないか、と悩みは尽きないそう。
それでも、そうした悩みや試行錯誤も含め、増田さんは長野暮らしを楽しんでいます。
「いろいろなお店に食べにいってコミュニケーションを図り、人と人とのつながりを楽しむこと。また、その土地にしかないものを楽しむこと。長野にはおいしい食材もたくさんあります。自分なりに暮らしを楽しむことが、移住や起業の一番の魅力ですね」