<挫折や妥協を重ねた中の幸せな瞬間を>
8月29日(土)から長野相生座・ロキシーでも上映が始まった映画「グッド・ストライプス」。メガホンを取ったのは、長野市出身の映画監督、岨手由貴子(そで・ゆきこ)さんです。これまで短編作品では数々の受賞歴がありますが、本作は初の長編商業作品となります。
「グッド・ストライプス」は、自由奔放な文科系女子の緑と、優柔不断なおぼっちゃまの真生という、交際から4年が経ったマンネリカップルが主人公。妊娠が発覚したことで同居を始め、結婚の準備を進めていきます。その間の、だれにでも起こるような、でも何か心に引っ掛かったり、好ましく感じたり、懐かしく思うような出来事が、リアルに描かれています。
「夢がかなわなかったとか、今の暮らしが理想通りじゃないとしても、挫折や妥協を重ねた中にも、幸せな瞬間ってあるし、そういう瞬間が訪れたね、って共有できる人がいることの方がロマンチックだって思うんです」
「グッド・ストライプス」とは「素晴らしき平行線」という意味。相手に寄り添うというよりは、お互いを受け入れながら、ともに歩いていくという恋愛観、結婚観が描かれていて、ドラマチックな人生を望む人ほどハッとさせられるかもしれません。
<いろんな人や偶然に拾われてここまで来た>
岨手さんは1983年、長野市生まれ。高校は1年で中退しています。
「高1の頃におもしろい映画を観ていて、その流れで中退してからも家でごろごろしながら映画をたくさん観ました」
観た本数が増えるほど、映画にかかわりたいという思いが高まり、大検を取得して東京の大学へ進学。大学2年生のときに映画・演劇人の養成学校「ENBUゼミナール」に入り、篠原哲雄監督の下で指導を受けながら製作した「コスプレイヤー」が第8回水戸短編映像祭、 ぴあフィルムフェスティバル2005に入選。
「自分の作品が通るとは思いもよらなかったですね。自分で野心を持ってガツガツやっていたというよりは、いろんな人やいろんな偶然に拾われてここまで来たと言うような感じですね」
大学卒業後は、脚本、PVの演出、映画のメイキングなど、映像関係の仕事をしていましたが、それだけでは生計が立たないため、アルバイトもしながら、短編作品を製作し続けてきました。
<結婚、妊娠、出産を経て公開へ>
「グッド・ストライプス」の脚本を書き始めたのは4年前のこと。その後、震災があって映画界を取り巻く空気が変わったり、資金が集まらなかったりで、撮影まで長い年月を要しました。
その間、自身も結婚し、撮影が終わって編集中に妊娠、公開前に出産しました。実体験を描いているわけではありませんが、4年前、最初に書いた脚本に、自身で経験したことも少しだけ加えているそうです。
「結婚式もそうだし、出産も、子育ても、思っていたのと全然違う。自分が体験するとネタにしたくなるものはたくさんあります。スケールの小さな話でよければ、ネタは無限ですね」
「グッド・ストライプス」が上映されるロキシーは、岨手さん自身が高校時代、足繁く通った映画館。
「地方都市であれだけの数の単館上映をしてくれる映画館って本当に貴重ですよね。私も高校1年生のときにロキシーで『ファイトクラブ』や『マルコヴィッチの穴』が観られなかったら、映画の世界を志していなかったかもしれません。大げさかもしれないけど、エンターテイメントって人を救うきっかけになるんです」
妥協や挫折を受け入れ、自然体で生きる人物を描く岨手さん。しかし、自身の作品に対する姿勢は対照的です。スタッフの顔色を見て妥協したり、自分がつくりたいものを見失ってしまうような監督にはなりたくないと話すその表情は凛としていました。
会える場所:長野相生座ロキシー
「グッド・ストライプス」
2015年8月29(土)~9月11日(金)
公式サイト http://good-stripes.com/
予告編 https://www.youtube.com/watch?t=27&v=Wh7BdvS9FAQ