大きな通りに面しているわけではないのに、カウンター席だけの小さな中華食堂「桂林」はいつでもお客さんがいます。ランチ、夕ごはん、飲んだ後の締めなどさまざまなシチュエーションで訪れることができる庶民的な店です。
<激戦区権堂で続けるために、他の店にはない特徴を考えた>
「はい、ラーメン1つね。ありがとうございます」とはきはきとした受け答えと、てきぱきとした動作。今年で63歳になる岸辰推さんが営む中華食堂「桂林」は、中央通りから権堂アーケードに入った1つ目の交差点を右折した先にあります。ビルの壁面に"ビストロハウス"と書かれた建物の1階にあり、韓国料理店やそば屋なども同じ場所にあります。
野沢温泉村出身の岸さんは学校卒業後に愛知県豊田市で就職。しかし次第に「手に職を付けたい」と考えるようになり、食の世界に興味を持ちました。21歳の時から名古屋で7年半、長野で2年半の修業を経て、昭和59年に現在の場所で中華食堂「桂林」を始めました。店は中央通りから1本東側にある旧北国街道にあります。大きな通りではないため人通りは多くはなく、電話で場所を教えても「そんな道あったかなぁ?」と言われてしまうことも。
「注目されにくい目立たない通りで営業を続けるには何をすれば良いのか。他の場所でもラーメンは食べられるので、ここでしか食べられないという訳ではない。ならば他の店よりも長く営業しようって考えたんです。当時をふり返れば、がむしゃらでしたね」
近隣は物販系の店が多く、夜遅くまで営業をしていません。そこで岸さんは深夜1時まで営業することを決め、スタッフを雇わずに1人で仕込みから全てを行い、夜中まで働きました。忙しい時には3日間眠らずにいた時もあったそうです。
「自分の店を終えた2時くらいから朝まで飲んだり、若い時は無茶したよ。でも飲みの付き合いをしていると、後に店に来てくれる人もいるんです。権堂はそういう場所だよね」
<仕事もプライベートも楽しむことを大切に>
桂林は味の良さはもちろん、ほかの店よりも長く営業することで少しずつ、でも着実に常連客を増やしていきました。岸さんはがむしゃらに働きながらも、プライベートも楽しむよう心がけていたと言います。
「野沢温泉村出身でスキーが身近だったので、今でも好きなスポーツです。十数年前から桂林は『長野ローカススキークラブ事務局』として、多い時には60人ほどのクラブ員とスキーを通して交流していました。まあ最近はみんな高齢化して参加者は減っているけどね。あと年1回は夏の北アルプスに登ることも。そうやって休みの日もどこかに出かけることが多いかな」
何事にも自分のペースで楽しんできた岸さんは、そう出来たのも自分が"独身だったから"だと考えています。
「家庭があったら、もっと制限があったかもしれないと思うんです。良く言えばやりたいことに打ち込めたと言えるし、悪く言えばわがままだったのかな」
それでも縁があって56歳の時に結婚。かつては職人気質でぶっきらぼうだった面もあったそうですが、パートナーがそばにいることで接客にも変化が表れたり、無茶はしなくなったそうです。
<「昔ながらの中華そば」という言葉が合う、安定の美味しさ>
開店当時から変わらず人気がある「ラーメン」は、ブタ、トリ、煮干し、昆布などをベースにした透き通ったスープを使った醤油ラーメンです。
「最近は凝ったラーメンが多いけれど、シンプルが一番。だから余分な調味料は加えません。だから幅広い人が食べやすいと思える味だと思います」
実際に幼稚園ほどの子どもから信州大の学生、サラリーマン、年配の方まで幅広い層が訪れます。「何を食べても安定の美味しさ」と常連客が言う中で、「餃子」は店主も自信を持って勧めるメニューのひとつです。もっちりとした皮の中にはハクサイ、キャベツ、タマネギと3種類の野菜と生のニンニクとショウガを合わせてさっぱりとした味わいに。大ぶりなので男性も満足できるボリュームです。
また、この店が喜ばれる他の理由には、いつ訪れてもベタつきを感じることがなく、清潔なことが上げられます。かつては「着物で訪れることが出来るラーメン屋さん」と言われたこともあったそう。現在は掃除などを手伝ってくれるスタッフがいて、カウンターから調理場までピカピカにしてくれます。お客様に対する見えない配慮が徹底しているからこそ、入れ替わりが激しい権堂エリアで31年も続けてこれたのでしょう。
会える場所:桂林
住所:長野市権堂町2320
電話:026-235-6743
営業:11時30分~14時・19~25時
休み:日曜、祝日