株式会社ミールケア 常務取締役 田子美津子さん
穂保のパン工場では、2014年から全国の幼稚園・保育園の給食用に、アレルギー物質の乳や卵を含まない「やさいパン」を製造しています。水害により、機械を含め全ての財産を失った状態でしたが、“何万人もの園児たちの給食用のパン作りを止めるわけにはいかない”と、パンの製造再開を最優先に取り組みました。数日後には、信濃町にある姉妹店の工場を借り、業者の厚意で機械を無償提供していただいて、パンの製造を再開。給食サービス事業を担う幼稚園保育園事業本部は東京にあるため、危機を分散できたことも不幸中の幸いでした。
その後、2019年末までに片付け作業を終えたものの、衛生面を考慮し、1年ほど自然乾燥させた後、2020年秋ごろから復旧工事を開始。今年3月末にパン工場とレストラン棟が竣工し、4月から新工場が稼働したところです。1年半、大変なことがたくさんありましたが、パンを待っている全国の子供たちからたくさんのメッセージや手紙をいただいたことが、一番励みになりました。
子供たちから届いた励ましのメッセージなど
被災当初から関社長は、「復旧じゃないんだ、復興だ!」と社員を鼓舞し、災害前よりももっとよくなろうと、叱咤激励してきました。その言葉を体現するのが、生まれ変わったパン工場です。以前の工場では、6名ほどのスタッフが人力で作っていましたが、新工場では、食品製造の衛生基準「HACCP(ハサップ)」対応の設備を備え、生地の成形や包装など全て自動化されたため、被災前の1.7倍の生産能力があります。機械化により、異物混入の恐れもなく、より安心・安全なパンを提供できるようになりました。現在は給食用のみの生産ですが、夏までには工場直営のベーカリー店を併設し、一般のお客様への販売を予定しています。
最新の衛生基準に対応するパン工場(左)と野菜パン(右)
今回の改修工事のもう一つの目玉は、会社の周囲に“森”を作ることです。今後、万一水害があった時に、少しでも社員の命を守ることができるように、会社の敷地の周囲には災害残土を含め1.5mの盛り土を施し、その上に植樹をしました。専門家の指導を受け、ブナ、コナラ、ヤマザクラなど信州の地に適した広葉樹の植栽を計画。2020年9月には一般の方を公募して植樹祭を行いました。
「み〜るの森」には、土に根を張り、切磋琢磨して成長する木々のように、“100年先の未来も企業として地域に根を張り、地域に貢献できるように”との願いも込められています。コロナの情勢を見ながら時代のニーズに適応する形でレストラン事業も少しずつ再開し、地域の皆さんが集える場を作っていきたいと考えています。
約100人が参加した植樹祭(左)と新緑の季節を迎えたみ〜るの森(右)