ニッキフロン株式会社 代表取締役社長 春日孝之さん
私どもの会社は、フッ素樹脂製品、自動車補修部品の開発・製造、射出成形機の組立を担う会社です。昨年10月13日の堤防決壊による浸水被害で、本社と工場、販売子会社を含め、全ての建物が1.5m〜2m浸水し、生産能力がゼロになりました。なかでも、工作機械、プレス機、焼成炉という3つの製造施設の全てが使えなくなったフッ素樹脂事業のダメージは大変大きく、被災当時に建設中だった新工場の設置間もない機械も水没してしまいました。
不幸中の幸いは、製造会社の本社と販売子会社の本社の事務所が2階にあったため、重要な財務資料やサーバーなどが水没を免れたことです。特に、補助金申請等に必要不可欠な資産台帳が生きていたことは大きかったです。
200名余りの社員が総動員で復旧活動を行った。水没した機械はその場で解体し、製造業者が懸命に修理した
私どもの会社には、素材を押し固める成形工程、焼成工程、加工工程の3段階の工場があります。素材がなければ、生産ができないため、全工程の中で素材成形工程を最優先にし、需要が大きい大型素材の焼成工場(2018年に新設)を優先に復旧工事を進めました。機械が使えない間は“困った時はお互いさま”と機械を貸していただいた同業他社様や、滋賀工場やタイ工場にも支えられながら、徐々に生産性を回復していきました。
県の「グループ補助金」などを使わせていただき、約1年かけて復旧工事そのものは終了しましたが、復旧の目的は被災前の事業レベルに戻すこと。設備を直したり入れ替えたりするレベルでは、供給できない期間に顧客を失ったり、競争に負けてしまいます。そこで、補助金の半分は単純な現状復旧のため、もう半分は生産性向上につながる新分野への投資に使わせていただくことにしました。新分野も含めると来年1月に完了予定です。
2018年に新設した大型の素材工場。洪水大国であるタイ工場の水害対策に準じた設計(床上1.5m以上にプレス機のポンプを設置)だったため、比較的早期に復旧できた
2015年に事業継続計画(BCP)を作成しました(※2参照)。このBCPが機能したため、被災後の混乱は特になく、3日後から復旧へ向けた具体的な取り組みを始めることができました。一番は「従業員と家族の安全を守る」という部分で、平時から社内連絡などに活用していた安否確認システム(オクレンジャー)が機能し、比較的短時間で全社員の安全を確認できました。「従業員の雇用の維持」に関しては、当社では復旧工事中も休業はせず、社員の労働力を復旧活動に使わせていただくことで、雇用を維持しました。また、「取引先の信用の維持」は経営上大変重要です。被災2日後から取引先に赴き、被害状況の説明と全面復旧までのスケジュールを伝えることで、多くのお客様の理解を得ることができました。そして、私どもの会社が100%復旧することが、地域の産業の活性化と雇用を生み、「地域社会に貢献する」ことにつながると信じて復旧活動に当たりました。北部工業団地でのグループ補助金申請に当たっては、BCPの勉強会も行い、今回の災害の教訓を地域で共有し、地域全体の復旧を目指して取り組んでいます。
※2 ニッキフロン株式会社の事業継続計画
北部工業団地で行われた勉強会でBCPの事例紹介を発表する春日社長