長野の四季を愛する僧侶は、人生最速を目指して今日も走る
清水雄介さん
徳寿院 住職
善光寺には39の宿坊があります。そのうちの一つ「徳寿院」で住職を務める清水雄介さんは走ることがライフワーク。常に自分のベストを追求し続け、自身のInstagramには日々の走りの記録がずらりと並びます。「僧侶」と「走ること」という二つの道を追い求める、その想いを聞きました。
文・写真 松井明子(株式会社ママLife)、写真提供:清水 雄介さん
天台宗の徳寿院は明治時代以降に世襲になり、清水さんで5代目。大学で仏教を学び、卒業後、僧侶の道へ。平成19年に父から住職を継ぎました。
「父は、『後を継げ』と全く言わない人でした。子どもの頃は、宿坊が忙しい時に手伝いをしてはいましたが、僧侶がどういうものかを何も教わったことはありませんでした。大学では入学して1年間寮に入りましたが、想像していた華々しい大学生活とはだいぶ違いました。毎朝の勤行があって、集団生活で門限がある生活でした。それでも、寮生たちはみんなお寺の息子でしたから自然に友達ができて、はじめは全くわからなかったお経も覚えていきました」
大学3年生時には比叡山に2カ月間の修行。睡眠時間は2~3時間で、夜中にお経を上げるなど、行をして自分と向き合う時間を過ごしたそうです。
「修行はきつかったですが、何となく、僧侶という道、僧侶という生き方があるんだと意識するようになりました。こういう環境の中に生まれた自分は恵まれているのだなと思いました」
清水さんの1日は、善光寺の「お朝事」(朝のお勤め)の案内から始まります。夏は5時頃に徳寿院を出発して宿泊客をお朝事に案内。6時過ぎに徳寿院に戻り、宿泊客と朝のお勤め、朝食の提供をし、再び旅路へと出発する宿泊客たちを見送ります。日中は法要を行ったり、新たな宿泊客を迎え入れる準備などをします。
「来た方たちに善光寺のことを知ってもらう、善光寺のことを好きになってもらう。そういうことをするのがすごく好きで、この道は自分に向いていると感じています」
宿坊だけでなく善光寺事務局の仕事もありますが、隙間時間を活用して身軽にできるランニングは、清水さんのライフスタイルにも合っているそうです。短い時は1日5~6km、頑張る日は20~30kmに走る距離を伸ばします。
「忙しい時は、朝の3時に起きて走りに行く時もあります。走るのが大好きなので、眠くても走り出せば忘れてしまいます」
走り始めたのは、善光寺御開帳の年だった平成21年。当時、清水さんは善光寺事務局で広報を担当していました。会議や出張で多忙を極め、ストレスがもとで少し太ってしまったのだとか。
「御開帳が終わり、痩せるために走り始めました。趣味のスノーボードのための体力づくりにも丁度良かったのです。しっかり走るのは学生時代の部活以来でしたが、私はやり始めるとなんでも没頭してしまうタイプです。自分の考えた方法をチャレンジして成果が出ると、もっとこうなりたいという気持ちがふくらみ、走ることにどんどんのめり込んでいきました」
フルマラソンのベストタイムは現在、2時間54分ジャスト。
今年2月に行われた「別府大分毎日マラソン」では、ベストタイムに次ぐ、セカンドベストで走り切りました。今年4月の長野マラソンでは、長野マラソンでの自己ベストで走りました。30歳の頃よりも今の方が速いそうです。
「いつも人生最速を目指しています。マラソンってすごいんですよ。52歳の自分でも、20歳や30歳の若者に勝てたりします。積み上げた結果が走りに直結するので、『まぐれ当たり』のような奇跡の起きないスポーツなのです」
フルマラソンで3時間を切ることを「サブスリー」というそうですが、これを令和4年に達成しました。
「サブスリーを達成する前は3時間3分でした。『このタイムで十分立派だよ』と諦めていたところがありました。しかし、自分より10歳も年上の方に『俺は3時間1分だよ』と言われて奮起して、達成することができました。今のベストタイムは、3年前の東京マラソンで出しました。今年2月にセカンドベストで走れたので、ちょっと自信ももらえて、今年の長野マラソンでは、『長野マラソンの自己ベストで走ろう』と目標を立てました」
高温が予想されていた長野マラソンで、暑さに身体を慣れさせるために、ジムで真冬の格好をして走るなどして練習を重ね、目標を達成することができました。
清水さんは「長野マラソンはすごく自分を幸せにしてくれます」と話します。
「マラソンはいろいろ走ってきましたが、こんなに応援の豊かな大会は他にありません。冬の時期に練習で松代の土手を走ることがありますが、冷たい風が吹いていて歩いている人は誰もいません。しかし、長野マラソンの時だけは、地元の方たちが『頑張れ頑張れ』と声援を送ってくれます。うれしいし、ありがたいです。『長野マラソンっていいな』と今年も改めて思いました」
「走ることで、春、夏、秋、冬と季節ごとの長野の魅力を味わっている」という清水さん。特に善光寺からまっすぐに伸びる中央通りをクールダウンで走るときに、長野の美しさを実感するそうです。
「門前町は、そこで商売をされている方々がいるから形成されたものです。お寺があるから商売が盛んになるかもしれませんが、商売が盛んになるから、お寺がたくさんの人を受け入れられるのだと思います。100年先も賑わう街であるために、自分ができることをしたいですね」
(2026/08/18掲載)
長野県長野市元善町494
電話:026-232-2376