小川醸造場(長野市津野) 小川泰祐さん
台風の3日後ぐらいにやっとここに来ることができ、変わり果てた姿に言葉を失いました。どこから片付けたらいいのかわからない状態でしたが、駆け付けてくれた友人知人やボランティアさんたちと一緒に、泥出しを始めました。来る日も来る日も泥出しと、災害ゴミの片付けに追われ、精神的にかなり滅入っていた10月末ごろ、全国味噌鑑評会の事務局から連絡が入りました。台風の1週間ほど前に出品していたみそが「農林水産大臣賞」を受賞したというのです。鑑評会には10年以上毎年出品していて、3度目の受賞でしたが、みそも麹も台風で全部流されてしまったし、”今はそれどころじゃない”と辞退しようか迷いましたが、その年長野県内では唯一の選出だったこともあり、周りからも薦められて賞をいただくことにしました。それを一つのきっかけとして、“もう一度みそを作りたい”という前向きな気持ちを持てるようになったと思います。
押し寄せた水の勢いで3分の2がつぶれ、残った部分も厚い泥で覆われた旧みそ蔵
表彰式の後、鑑評会に参考品として出品していて無事だった500gのみその中から蔵独自の菌を取り出し、培養して、前と同じようなみそを作れないだろうかと長野県工業技術総合センターに相談しました。みそ蔵再建の目処は全く立っていませんでしたが、センターで微生物の抽出にご協力いただけることになり、希望を持つことができました。大勢の方に支えられ、片付けが一段落すると、長野県のグループ補助金や小規模事業者持続化補助金申請など資金繰りのために奔走しました。2020年3月にはNPO法人 食育体験教室・コラボ、ながの協働ねっと、長野県工業技術総合センター、長野県味噌工業協同組合連合会の有志の方々が「キセキのみそ復活プロジェクト」を立ち上げ、大豆の選別機の資金をクラウドファンディングで募集してくださいました。おかげさまで全国から多くの温かい支援が集まり、予定よりも性能の良い選別機の購入に充てることができました。
2020年10月に新しい蔵の上棟式が行われるまでは、無我夢中の日々でした。振り返ると、災害後の混乱で残すべきだったものもほとんど捨ててしまったことが悔やまれますが、再び、みその仕込みをできることに感謝しています。
地産地消のみそを作りたいとの思いから、2006年から大豆の自家栽培を行っています。災害後も続けられるか不安でしたが、昨年は長野市立長野中学校の70名の生徒さんたちとともに播種を行いました。7月の集中豪雨で畑が冠水し、大豆も浸水したことからダメになってしまうかと思いましたが、その後無事に成長し、収穫することができました。大豆の花言葉は「必ず来る幸せ」「可能性は無限大」だそうです。その言葉を信じて、まずは、麹づくりに励みます。そして、おいしいみそを作って、支えて下さった皆さんへの恩返しができればと思います。
長野市立長野中学校の生徒と行った大豆「ナカセンナリ」の種まきとその花
住所 | 長野市津野672 |
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