靴修理人の夫と、フットケアトレーナーの妻。身長差は35センチ。並んで立つと凸凹（デコボコ）のふたりは、長野市権堂の一角に「Deco Boco」という名の靴修理店を構えています。
 

横浜市ご出身の中尾勇哉さんと春子さんは、中学校で同級生でした。当時を振り返ると、特に親しかったわけではなかったと口をそろえます。そんなふたりが権堂の一角に店を構えたのが2017年のこと。歩くことが大好きなふたりは、よく連れ立って散歩に出かけます。
 

 

 
「長野の人は、どこへ行くにも車で、自分の足や靴にあんまり注意が向いていないな」と感じることがあるといいます。だからこそ、ここで靴修理店をやる意味があると勇哉さんと春子さんは考えています。
 
「みなさんそれぞれの足と靴と向き合って、自分たちならではのご提案をする。歩いて回れるコンパクトなこの街でなら、それができると思いました」
 

勇哉さんは大学卒業後、東京・浅草にある製靴学校へ進学し、靴作りを学びました。手に職をつけたいとの思いから、そして、とある靴修理職人の新聞記事を目にしたことがきっかけでした。在学中から靴修理会社でアルバイトをはじめ、卒業後はその会社に就職します。
 

 

 
独立を視野に入れていた勇哉さんは、2011年3月11日の東日本大震災を機に地方への移住を考えます。そして長野県・小川村の地域おこし協力隊員に応募して、2012年4月に着任しました。小川村に移住すると、築250年の古民家を借り、住居 兼 ゲストハウスとするべく掃除と改装に取りかかります。
 
一方の春子さんは、横浜市の病院で作業療法士として働いていました。勇哉さんとはFACEBOOKをとおしてつながりがあり、小川村での取り組みを知って、週末ごとに長野県を訪れ、掃除や改装作業を手伝うようになりました。
 
ゲストハウスの運営が無事にはじまった矢先。大きな地震が勇哉さんをおそいます。2014年11月。白馬村を震源とする神城断層地震では、小川村でも震度6を観測し、中尾さんの住む古民家も半壊。ゲストハウスの再開も、居住も不可能となりました。
 

勇哉さんはいったん横浜へ戻り、全国展開する大手の靴修理企業で働きはじめました。独立を具体化するためでしたが、2015年には希望どおりに長野市の店舗へ転勤となり、長野市へ移住します。
 
春子さんもまた、勇哉さんとともに起業する夢を胸に、フットケアトレーナーの資格を取得します。春子さん自身、外反母趾と扁平足に悩まされ、足元の問題は他人事ではなかったのです。
 
2016年にふたりは結婚し、翌年には春子さんが代表となって、「足と靴の修理店 DecoBoco」をオープンさせました。
 

 

 
「今は靴の修理のご依頼が多いですが、本当の目的はみなさんの足に合ったより良い靴を提案すること。足に合う靴がないという方にはインソールをお作りしたり、中敷を調整して足の痛みを未然に防ぐご提案もしています」
 
また、今後の取り組みとして、女性のためのオーダー靴の販売を準備しているところ。通勤用のパンプスなど、女性の足にぴったり合った靴を作るため、ふたりで改めて靴作りを学んでいます。
 
靴の修理やサイズ調整だけでなく、オーダーインソールから、靴そのもののオーダーメイドへ。さらに快適な足元を提案するため、夫婦で足並みそろえて一歩ずつ進んでいます。