No.337
小栁 誠一さん
小栁 朋子さん
お休み処 しじゅうから 店主
温もりあふれる料理と空間を提供し
自宅や職場に次ぐ第3の居場所に
文・写真 合津幸
2014年8月、長野市豊野町に移転オープンした「お休み処 しじゅうから」。オーナーの小栁誠一さん・朋子さん夫妻が、心もお腹も満たされるボリュームたっぷりの料理で迎えてくれる食事処です。店の看板料理である郷土食の「にらせんべい」をはじめ、手作りにこだわったメニューに込められた2人の想いを尋ねました。
恩返しのため、飲食業にチャレンジ
移転前、「しじゅうから」は高山村の温泉旅館が建ち並ぶ一角に誕生した村の観光施設内で約4年間営業していました。オープン時から「にらせんべい」を看板メニューに、観光バスで訪れるお客様にもスピーディーに提供できるものを考案し、夫婦2人で切り盛りしてきました。
実はオーナーの小栁誠一さん・朋子さんご夫妻は共にこの出店が飲食業初挑戦だったそうです。くわえて、地元の方々の理解と協力が必要不可欠な公共施設内のテナントという特殊性もあり、「最初は苦労の連続だった」と振り返ります。
「私も妻も長野市出身ですから、高山村は子どもの頃に山田牧場や温泉などよく連れていってもらった親しみのある場所です。だからこそ、観光施設のテナント募集の話を聞いた時は、慣れ親しんだ村に恩返しができるのなら、と迷わず手を挙げました。商売として成功するか否かなんて、まったく考えませんでしたね」
その頃の誠一さんは、脱サラ後、友人・知人の紹介で昼は農業に従事し、夜は代行運転を担っていました。幼い子ども2人を抱える夫妻を心から心配し、寄り添ってくれるお友達に恵まれていたためです。そうした方々が、業種や職種はさまざまでしたが、仕事や人とのご縁をつないでくださったのです。
「何か頼まれたらイヤとは言えない性分(苦笑)。それに、『この人のために何ができるだろう? 』と考えてアイデアを出し、それを実行に移して形にするのが好きなんです。もちろん、常に周りに助けてもらっていて、高山村では特に、妻をはじめ地元の皆さんに支えてもらいました」
ちなみに、店名の由来は鳥の「シジュウカラ」です。胸からお腹にかけての純白の羽毛に、まるでネクタイを締めたかのような黒いラインのある可愛らしい容姿が気に入ってのこと。また、「お店が始終空っぽでも言い訳ができるでしょう? (笑)。それから、人生“40歳(しじゅう)から”が楽しい、という意味もあるんです」と、誠一さんが教えてくれました。
看板メニューの「にらせんべい」。写真の大(800円)のほか、中(500円)、小(300円)があり、テイクアウトも可能
「この店が、単なる食事処ではなく、お客様にとって家や職場とはまた別の大切な場所やひと息つける場所になれば」と、誠一さん
お客様へ感謝の気持ちを届けたい
高山村での営業は、季節によるお客様の入り具合に波はあるものの、次第に家族4人が何とか食べてゆけるくらいの売上を上げられるようになって行ったそうです。しかし、長野市の自宅から店に通う生活を送りながら、次第に「このままでいいのだろうか? 」と感じる出来事が起こります。
たとえば、誠一さんのお父様が倒れてもすぐに駆けつけられない、子どもたちと向き合う時間が取れない、また地域の行事に一切参加できないなど、生き方そのものを見直さざるを得ない状況に直面しました。
「軸足が揺らいでいるような、寂しい気持ちが日に日に強くなってゆきました。お店もお客様もすごく大事だけど、親不孝しても平気というわけではない。子どもたちのこともしっかり考えてあげたい…随分悩んだ末に、このままの生活は続けられないと判断しました」
そんな時、お店の常連さんだった方が「実は長野市で珈琲店を営んでいて、近々海外への移住を考えている。店の建物を引き継いでくれないか? 」と、持ち掛けます。突然の申し出に驚いたものの、これも何かのご縁と長野市への移転を決意。とは言え、7年もの間、珈琲店として多くのお客様に愛されてきた建物での営業には相当なプレッシャーを感じていたそうです。
「別の店になったことを知らずに来店する方もいらっしゃいます。それでもウチの料理を食べてくださったりコーヒーを飲んでくださる方もいれば、当店に興味を持ってお一人で食べに来てくれる方もいらっしゃる。来店のきっかけはさまざまですが、まず当店を選んでくださったことへの感謝の気持ちを伝えたいと思っています」
それは、心を込めて料理や飲み物をお出しすることであり、ひと言でもふた言でも言葉を交わすことや居心地が良いと感じてもらえる空間づくりだったりもします。とにかく、少しでも良い思い出を持ち帰っていただくためのあらゆる努力を惜しまぬことが、お客様に「ありがとう」を伝えることだと2人は考えているのです。
国道18号線、通称アップルラインから西に折れてすぐ。元「珈琲日和」の建物と言えばピンと来る方も多いことだろう
温かみのある落ち着いた雰囲気の店内。「キラキラとした空間や時間の提供は他店にお任せして、私たちは自然体で寛げる居場所づくりを目指しています」
郷土の味を守り、次代に伝えよう
高山村での出店前、飲食経験ゼロからのスタートだからこそ自信を持って出せる品を、と考えて辿り着いたのが「長く食べ継がれているのには理由がある」と感じた郷土食でした。朋子さんの実家のレシピを元に試作と試食と繰り返し、「しじゅうから」の味を確立しました。
「郷土食には各家庭の味があって、作り方も違えば材料もその時にあるだけを使うなど大抵が目分量。でも、商品としてお金をいただくとなれば話は別です。その点は妥協せず、郷土食に限らずお出しするお料理はどれも安心してお腹いっぱい美味しくたべていただくことを第一に考えて作っています」と、朋子さん。
メニューには、北信地域の家庭の味のほかスパゲティやカレーなどもあり、常連さんの多くは「にらせんべい」と組み合わせて注文します。また、野菜と果物をふんだんに使った生ジュースも旧店舗時代から名物として愛されてきました。
ところで、観光施設での営業ならまだしも、移転後も郷土食を提供し続けるのはなぜなのでしょう?
「高山村からの常連さんがわざわざ食べに来てくださいますし、多くの方が美味しいと喜んでくださった看板料理なので、メニューから外そうとは思いませんでした」と、誠一さん。
朋子さんも「こうした素朴な郷土料理は、今家庭であまり作られなくなっています。地元の若い人でも、当店で食べたのが人生初とおっしゃる方が多いんです。私たちが作り続けることで、故郷自慢の食文化を次代に伝える一助になればと願っています」と、続けます。
好評のグリーンカレー(サラダ付、750円)は紫米と麦入りのライスに具沢山のスパイシーなカレーが良く合う。奥は生ジュース(350円)
「店の料理は私たち自身が子どもに食べさせたいと思うものです」と、朋子さん。慣れた手つきで焼き上げる「にらせんべい」はその代表格
最後に、2人の夢を教えてもらいました。
「いつか家庭や店の自慢のレシピを持ち寄って『にらせんべいサミット』を開催したいですね。だって、こんなに簡単に作れるのに、美味しいし、手軽に食べられるし。もっと全国的に注目されるべき存在だと思うんです」
そんな熱い想いを抱く誠一さん・朋子さん夫妻が、2人の地元である長野市での営業を開始してからまだ2年。これからさらに、「しじゅうから」ファンも「にらせんべい」ファンも増えてゆくことでしょう。
2枚の「にらせんべい」で特製の甘味噌をサンドするスタイルで提供。「おふくろの味だ、懐かしい」と嬉しそうに召し上がる方も少なくない
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会える場所 | お休み処 しじゅうから 長野市豊野町浅野1588 電話 026-257-4022 |
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