No.479
小林
孝士さん
Florist Cocobolo 店主
お客様の思いに共鳴して、大切な時間を美しく飾るこだわりの花々を
文・写真 波多腰遥
いまなお昭和の面影を色濃く残す権堂商店街。両脇にずらっと立ち並ぶレトロな建物のなかを歩くと、緑鮮やかな外観が際立つ花屋<Florist Cocobolo(フローリストココボロ)>が目に入ります。ガラス越しに覗かせる色とりどりの生花に誘われて店内に入ると、店主の小林孝士さんがぬくもりある接客で迎えてくれます。
家庭用にもギフトにも。日常を軽やかに彩る街のお花屋さん
約4.5坪の店内と軒先には、長野県内をはじめ全国各地の生産者などから仕入れた40種類ほどの旬の切り花や観葉植物がずらり。日々の丁寧な手入れによって新鮮な状態を保った商品が、お手頃な価格で1点から購入することができます。
▲場所はイトーヨーカドー長野店跡地の真向かい。長野電鉄権堂駅から徒歩1分
店名の由来は、主に中米に分布する広葉樹<ココボロ>。花屋を目指す以前は音楽好きが高じてギタークラフトマンを夢見ていたそうで、高価なアコースティックギターの材料に用いられる、音の響きが強い木材から着想を得ました。
「せっかく花を贈るのであれば、贈る相手の方が喜ぶものを一緒に考えていきたいんです。どんなシーンでお渡しするのか、どんな色合いや雰囲気がお好みか。お客様に詳しく伺いつつ、これまで培ってきた知識や経験を活かしてご提案していく。お互いにイメージするものを響かせあって作り上げていきたい。そんな思いを込めて名付けました」
▲お店のロゴマークには店名を連想させる樹木や太陽、音符のモチーフがあしらわれています
「冠婚葬祭や法人用よりも、個人のお客様を対象としたホームユースやパーソナルギフトに特化させている」というCocobolo。品質はもちろん、持ち運びやすさや飾りやすさといった機能性を重視しています。
小売店で販売されている切り花の多くは70〜80センチであるのに対して、Cocoboloで販売されているのは主に50〜60センチ。現代の家庭様式や利用シーンなどを想定して、自宅まで持ち帰りやすく、テーブルに置いても綺麗に飾ることのできる短い花を中心に仕入れています。サイズを抑えて1本あたりの価格を抑えることで、花の本数を増やしてボリューム感のあるアレンジメントの制作も実現。消費者目線で扱いやすく贈りやすい花の提供を心がけています。
▲ぎっしりと詰まったラウンド型のアレンジメントは誕生日や記念日用のギフトとして好評。予算や要望に応じてオーダーメイドで制作しています。配送にも対応
都内で花き業界を深く広く経験したのち、地元・長野へUターン
小林さんが花屋を志したのは18歳の頃。それ以前は「花を仕入れてお店で手渡すだけの仕事だと思っていた」と話すほどに関心は薄く、花屋に足を運んだ記憶さえないそうです。しかし、ひょんなことから都内で生花店を営む方の仕事を見せてもらうことに。その業務は、誰もが聞いたことのある有名企業宛に贈るスタンド花の制作と配達でした。
花が求められるシーンの多様さや、「花を仕入れて手渡す」だけではない花屋の姿を体感した小林さん。興味本位で花に関する専門誌を手に取ると、美しく飾り立てられた花束やブーケを見て、生花を丁寧に扱う技術職としての一面に惹かれていきます。
フローリストの世界にのめり込んでいくと、親の反対を押し切って当時通っていた工業系の学校を休学。親元を離れ、1年間働きながら進路を模索したのち、県外にある園芸関係の専門学校へ進学します。
学校では植物ごとの性質や剪定の仕方、土や肥料の扱い方といった基礎から、花束の制作やラッピングといったフラワーデザインまで、花や緑にまつわる様々な知識とスキルを身につけた小林さん。学業と並行して、インターンシップやアルバイトを通じた実践的な学びの機会も自主的に作りました。
「当初興味の強かったブライダル関係をはじめ、花き業界の色々な世界を体験させてもらうなかで、とある花屋さんでの実習が特に楽しくて。いつか自分のお店を持ちたいと思うようになりました」
専門誌に大きく掲載されていた綺麗なディスプレイに心を打たれ、都内のフラワーショップでお世話になることに。厳しい環境でフローリストとしての腕を磨いていきます。
「当時すでにフラワーデザインの資格を持っていたものの、最初は掃除ばかりでバラにさえ触らせてもらえませんでした。学校のない週末は朝から晩までアルバイトをして、先輩の仕事を見て覚えて、学校で見様見真似で練習して…段々と商品を作らせてもらえるようになりました。内定をいただいたあとに至っては職場の近くへ引っ越して、学校よりもアルバイト中心の生活を送っていましたね(笑)」
学校を卒業後も正社員として同店舗に4年ほど勤めますが、腱鞘炎の悪化によりハサミを握ることも難しくなってしまい、ついにはドクターストップ。治療のためにやむなく小売の現場を離れることに。
「その後は転職して、切花の輸入商社や花き市場内の仲卸に勤めて営業や買い付けといった業務を担当しました。個人のお客様と関わる機会はなくなってしまったのですが、都内の花屋さんや首都圏の取引先を回るうちにたくさんの人脈を作ることができましたし、いままで知らなかったような国内外の花に触れることで、より知識を広げることができました」
▲「直接お会いして相性がいいと感じた農家さんから優先的に仕入れている」と小林さん。花それぞれに産地や生産者の表記も
東京で着実にキャリアを積み重ねていましたが、そのさなかに祖父が逝去します。しかし、多忙を理由に、最期に立ち会うのはおろか、葬儀にさえ参列できなかったそうです。家族との関わり方や自分の働き方を見直し、長野にUターンすることに。学生時代から抱いていた自身の店を開く夢を、生まれ育った長野で叶えるために動き出します。
長野市内にある生花販売の会社に勤めながら、長野の花き業界について学びつつ、独立の準備を進めます。長野市内の門前町界隈の物件を巡る<空き家見学会>に参加するなど、地域の方々との交流を深めていくなかで、人づての紹介で権堂アーケード内にあるガラス張りの物件と出会います。
「権堂駅から出てきた人たちが横切る様子が、最初に勤めていた駅ビル内の店舗から見える光景と重なった」とのこと。すぐに思い浮かんだレイアウトをラフイメージに起こし、DIYを含む改修を経て、元ラーメン店の居抜き物件は花屋へと変貌。2016年11月にCocoboloはオープンしました。
手を抜かず、丁寧に。忘れられない大切な記憶として彩るために
取材に応じる最中も、訪れたお客様への事細かな説明や、花1本1本への繊細な作業を忘れない小林さん。母の日や年末年始など、注文が殺到する繁忙期が花屋にはつきものですが、どんなときもこだわりを忘れません。
「仕事である以上、とにかく手を抜かないのを強く意識しています。どんなに忙しくともお客様にいい加減なものは出せませんし、手を抜いたという事実を残したくないんです。美味い・安い・早いみたいな、ファーストフードのようにご用意するのは難しいですが、オーダーメイドが多いからこそ、一つひとつ手間をかけて作っています」
▲切り口が乾かないよう、極限まで水から外れる時間を短くしているとのこと。手際よく手入れを進めます
小林さんが手をかけているのは、店内や軒下の植物だけではありません。全長およそ500メートルのアーケードを支える支柱ごとに飾られたプランターも管理をしています。商品同様に手を抜かず、開店前のルーティンの一つとして、こまめに水やりや追肥をしています。担当している2018年以来、より一層生き生きと咲く花は近隣の方々からも評判が良いそうです。
加えて、店舗向かいの大型商業施設の閉店後には、新型コロナウイルスの感染拡大に配慮しながら空き広場を活用した音楽イベントやマルシェなどを企画・開催。お店の営業のみならず商店街の活性化にも積極的に取り組むなど、忙しい毎日を過ごしているものの「全部好きだからやってるんですよ」とにこやかに話します。
「花は形には残らないけれど、旅行先で見た綺麗な景色をいつまでも覚えているように、思い出としていつまでも残っていきます。なにより、花をもらったときの喜びって格別だから、ちゃんと喜んでもらえるものを作れているのかな、もらった人はどんな顔をするのかなって、いつも考えています」
「仕事が好きだし、花に触れているのが楽しいし、自分が手掛けた花で誰かが喜んでくれるのがなにより嬉しい。イベントにしたって同じような感覚で取り組んでいます。自分の好きなことで誰かが幸せになってくれるなら、やっぱり綺麗に作りたいし、たとえ忙しくとも必死になっていいんじゃないかなって」
オープンから約6年。結婚記念日や大切な人の誕生日、プロポーズするための花束を買いに来てくれたお客様など、たくさんの人生のワンシーンに立ち会ってきた小林さん。誰かに喜んでほしい、そんな気持ちが芽生えたときは、Cocoboloの花で相手への気持ちを響かせてみてはいかがでしょうか。
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会える場所 | Florist Cocobolo 長野市鶴賀権堂町2221-13 電話 026-217-8784 ホームページ https://www.facebook.com/floristcocobolo/ |
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