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No.441

塚田

和大さん

薫蔵 COFFEE KAGURA 店主

門前の蔵をリノベーションした空間で、コーヒーの豊かさに出会う

文・写真 石井 妙子

善光寺表参道から少しだけ脇に入った場所にある、築100年を越える小さな蔵。中に入ると、外のざわめきから守られた静かでほの暗い空間、そしてふくよかなコーヒーの香りが迎えてくれます。2018年秋にオープンした「薫蔵 COFFEE KAGURA」。店主の塚田和大さんはこの場所との出会いを機に、東京から長野へと移住しました。

蔵との出会い、そして長野へと移住

東京で生まれ育ち、都内のカフェやレストランで15年以上接客業に携わってきた塚田さん。仕事を通して魅せられたのが、ハンドドリップコーヒーの世界です。日本スペシャルティコーヒー協会認定の「コーヒーマイスター」の資格を取得するなど、少しずつ経験と知識を重ねてきました。
 
「いつかは自分のカフェを開きたい」、漠然とそんな思いを抱えていたあるとき、塚田さんに転機が訪れます。数年前に長野に移住していた母・めぐみさんから、「長野の蔵でカフェを始めようかと思っていて」と相談を持ちかけられたのです。
 
めぐみさんを開業に誘ったのは、この蔵のオーナーで建築家の縣(あがた)孝二さん。以前は2階がギャラリー、1階が工房として使われていましたが、1階で飲食店を始める人を探し、めぐみさんに依頼したのだそう。明るく社交的な性格を見込まれてのことでしたが、飲食業未経験のめぐみさんは、息子の塚田さんに相談したというわけなのです。
 
善光寺表参道からすぐの蔵の1階にある「薫蔵 COFFEE KAGURA」。2階は「ギャラリー豆蔵」として営業中
▲善光寺表参道からすぐの蔵の1階にある「薫蔵 COFFEE KAGURA」。2階は「ギャラリー豆蔵」として営業中
 
当初はカフェの立ち上げをサポートし、オープン後も東京からときどき手伝いに行こうと考えていた塚田さん。ところが現地を下見に訪れたところ、「思いのほかこの場所に強く引き寄せられた」と振り返ります。
 
「それまで善光寺門前がどんな場所かあまり知らなかったのですが、行ってみると参道の雰囲気も蔵の感じもとてもいい。母の店として手伝うはずが、僕の方が気に入ってしまったんです。
 
善光寺に近いのである程度集客が見込めることは分かっていましたが、人通りが多ければよかったというわけではなくて。門前独特の、落ち着いた雰囲気に惹かれたことが大きかったですね。ここが長野駅前のようなにぎやかな場所だったら、お店を始めてはいなかったと思う。東京でも、開業するなら国立や阿佐ヶ谷といった落ち着いた街を考えていたので、違和感はありませんでした」

 
コンパクトで心地よい店内。中央には、樹齢100年のオーク材の一枚板を使ったテーブルが
▲コンパクトで心地よい店内。中央には、樹齢100年のオーク材の一枚板を使ったテーブルが
 
その頃ちょうど東京の勤務先から「新しい店舗の店長にならないか」と打診を受けたものの、「管理職よりも、店頭でお客様に接していたい」と悩んでいた塚田さん。そんなタイミングで訪れた出会いに、「これは『始めろ』というメッセージかも」と、迷った末に退職と独立を決断。めぐみさんや縣さんの協力を得て、東京と行き来しながら開業準備をスタートさせました。
 
「もちろん迷いもありましたが、このチャンスを逃してはいけない気がして。本当に、タイミングでしたね」
 

「組み合わせを楽しむコーヒー」で理想の味を探して

映画好きな塚田さんがかねてから理想の空間としてイメージしていたのが、映画「マザーウォーター」で小林聡美さん演じるセツコが営むウィスキーバー。グレーと木の色を基調に、ミニマルながら素材感を感じさせる内装です。
 
「この蔵の佇まいを見たとき、この場所ならあの雰囲気を作れそうだと、すぐにイメージできたんです」
 
縣さんにイメージを伝え、相談しながら改装に着手。長い歴史を経てきた蔵の味わいを生かしつつ、オーク材とコンクリート、漆喰でシンプルに仕上げた空間には和洋とインダストリアルな要素が共存し、どこか茶室のような趣も感じさせます。
 
業務用キッチンなど設備面は大きく手を加えつつ、素材を絞って蔵の古い味わいを生かしながらリノベーション。壁に飾られているのはリース作家である奥さまの作品
▲業務用キッチンなど設備面は大きく手を加えつつ、素材を絞って蔵の古い味わいを生かしながらリノベーション。壁に飾られているのはリース作家である奥さまの作品
 
そんな「薫蔵 COFFEE KAGURA」のコーヒーの提供方法は、少し変わっています。コーヒー豆を「爽・円・深」と味わいの違う3種類から選び、さらに淹れ方もペーパードリップ、ネルドリップ、ステンレスドリップ、エアロプレスから選んで組み合わせるというもの。同じ豆でも淹れ方によって味わいが変わるのが楽しく、コーヒーの奥深さを体験できます。迷った時は、それぞれの豆の魅力を引き出すおすすめの淹れ方を提案してくれるので安心です。


 
「基本にあるのは、『誰でも家で、おいしいコーヒーを淹れて楽しめるようになってほしい』という思いです。コーヒーは道具の種類もたくさんありますし、どう淹れたら自分好みの味になるか、経験がないと分からないですよね。この店でいろいろ試して、自分好みの味を見つけてもらいたい。そのためサイフォンなど専門的なものは使わず、家庭で気軽に使える道具で提供しています」
 
カフェのコーヒーはもちろんおいしいけれど、自宅でおいしく淹れられたらコーヒーはもっと身近なものになる。そんな思いから、ハンドドリップの方法を学べる「薫蔵のコーヒー教室」を不定期で開催したり、3種類のコーヒー豆を楽しめる「飲み比べセット」をスタートさせたり、新しい試みを続けています。
 
コーヒー(税込み550円)はホットとアイスが選べる。季節の果実のコンポートを添えた白玉ぜんざい(税込み480円)は意外なほどコーヒーと好相性
▲コーヒー(税込み550円)はホットとアイスが選べる。季節の果実のコンポートを添えた白玉ぜんざい(税込み480円)は意外なほどコーヒーと好相性
 
3種類の豆と4種類の抽出方法が組み合わせ可能で、味わいの違いを試せるのが魅力
▲3種類の豆と4種類の抽出方法が組み合わせ可能で、味わいの違いを試せるのが魅力
 

バーやギャラリー、多彩な役割が人を引き寄せて

実はこの蔵1階は、夜になると「豆蔵(まめぐら)」という名のバーに姿を変えます。しかも、バー店主は日替わりというユニークなスタイル。月曜夜は塚田さんが営む「夜薫蔵」、ほかの曜日は建築家に編集者、額縁職人にWebディレクターとさまざまなバックグラウンドを持つ店主がカウンターに立ち、一つの場所ながら夜な夜な違う雰囲気が楽しめるのです。
 
日替わりバー店主たちもまた、縣さんが開業時に声をかけて集まった面々。塚田さんは開業準備を通じて彼らと知り合ったことで、「移住前に街の情報や空気感を知ることができて、心強かったですね」と振り返ります。
 
2階はアートに触れられるギャラリーとして営業中。コーヒーを飲む人がギャラリーに立ち寄ったり、ギャラリーを訪れた人がコーヒーの薫りに引き寄せられたりと、偶然の出会いも引き寄せてくれる場所です。
 
長野に移り住んで1年半。暮らすうちに街と自然のちょうどいいバランスや、窓から見える山並みの豊かさに心惹かれ、長野がどんどん好きになっていったと、塚田さんは話してくれました。
 
「長野の水で淹れたコーヒーは、なんだか理想の味に近いんです。門前にはコーヒーの店が多いので、コーヒーエリアとして楽しんでもらえたらうれしいですね」
 
白い塀と小さな庭が目印。バー営業に替わる夜の雰囲気も楽しんで
▲白い塀と小さな庭が目印。バー営業に替わる夜の雰囲気も楽しんで
 

(2020/01/15掲載)

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会える場所 薫蔵 COFFEE KAGURA
長野市大字長野518
電話 080-4417-4912
ホームページ https://www.instagram.com/coffeekagura/?hl=ja

営業時間 月曜:10〜21時、火〜土曜:10〜19時、日曜:10〜18時
定休日 木曜
 

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