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No.433

倉澤

さん

現代美術家

「カワイイ」だけじゃない。作品を通していろんな“感情”に出会ってほしい

文・写真 宮木 慧美

ケーキやアイスクリームなどのスイーツと、大きな瞳が印象的な動物のキャラクターをモチーフに、独特な世界観で作品を制作している現代美術家・倉澤梓さん。長野市出身・在住の倉澤さんは、幼い頃から長野市の風景や自然からインスピレーションを受け、創作活動を続けてきたといいます。作品が生まれる背景や創作活動への想いを伺いました。
 

誰かの感情が動くことがいちばん嬉しい

石粉粘土の立体造形作品とアクリル画を中心に創作活動を行っている倉澤さん。取材に伺ったアトリエで出迎えてくれたのは、カラフルでポップな立体作品。さらに壁にはキュートな色彩の平面作品が掛けられ、本棚には画集や写真集がずらり。
 
「小さい頃から絵を描くのが大好きでした。長野市内の風景を写生したり、大好きな動物の絵を模写したり。アート好きな家族の影響で、幼い頃から県内外の美術館を訪れる機会も多く、画集を買ってもらっては飽きずに眺めているような子どもでした」
 
お気に入りの画集は、今でも眺めることがあるそう。幼い頃から、何度も開いては模写をしていたという思い入れの強い一冊
▲お気に入りの画集は、今でも眺めることがあるそう。幼い頃から、何度も開いては模写をしていたという思い入れの強い一冊
 
倉澤さんは「頭の中に湧き出たイメージを自由に表現するのが楽しかった」と当時を振り返ります。双子の姉・梢さんとともに、毎日のように絵を描いていたそうです。身近な風景や草花、家の周りで見かける野良猫は、倉澤さんがよく描いた、大好きな絵のモチーフでした。
そんな日々の中でいつしか「将来は絵を描く人、ものをつくる人になりたい」と考えるようになり、長野美術専門学校の絵画コース(当時)に進学。平面作品を中心に、自身の表現を深めていきます。
 
充実した学生生活を送る倉澤さんに転機が訪れたのは、仲間とともに企画した初めてのグループ展でした。この展示をきっかけに「創作して発表すること」の面白さに気がついたといいます。
 
「それまで私の作品を見てくれるのは、家族や学校内の友人、先生など身近な人に限られていました。しかしグループ展に来てくれたお客さんは、私のことを全く知らない人たちばかり。そんな方々から本当にたくさんのコメントをもらったんです。“この絵が好き”“この絵はこんな風に見える”など、私自身が考えもしなかったような見方・感じ方をしてくれる人がたくさんいて……驚きでした」
 
「動物が好きで、なぜか小さい頃から愛着があるんです」。猫を中心に、さまざまな動物がモチーフになっている
▲「動物が好きで、なぜか小さい頃から愛着があるんです」。猫を中心に、さまざまな動物がモチーフになっている
 
初めてのグループ展で「作品を展示するってこんなに面白いんだ!」と気づいたそう。自身の作品に対してさまざまな感想、反応をもらえることに加え、作品を通して誰かの感情が動いていくことにも喜びを感じたのだとか。
 
「作品を見てくれたお客さんの感想を読むと、人それぞれに感じ方があって、感情の動きも多様なのだと気付かされます。アートは多くの人にとって非日常だと思いますから、作品を見ることで沈んだ気持ちが上向いた、明るい気持ちになった、楽しい気分をもらえた、などいろんな感情に出会って欲しいと思います。
当時も今も、アートでどんな表現ができるのか、どんな感情を生み出すことができるのか、私自身が知りたくて、創作活動を続けています。この思いは、きっとこれからも変わることはないのだと思います」

 

試行錯誤の先に生まれた、新しい表現の形

初めてのグループ展を経て、「多くの人に作品を見てもらうこと」への思いが強くなった倉澤さんは、その後、長野、東京、大阪などのギャラリーで個展を開催します。作品を見てくれるお客さんの反応がモチベーションとなり「もっといいものをつくりたい」「もっと表現を追求していきたい」とますます創作意欲が高まっていった時に、もう1つの転機が訪れます。大阪のギャラリーで展覧会を開いた時でした。
 
「作品を見た人から“このキャラクターで、立体作品をつくってみたら面白いんじゃない?”と声をかけていただいたんです。昔から、頭の中のイメージをどうしても形にしたい、想像のまま終わらせたくない、と考えていた私にとって、“立体”として形にすることは、想像しただけでとてもワクワクすることでした」
 
新作の創作活動を行う倉澤さん。工程ごとに全く異なる作業を行うため、複数の作品を同時に作り始めるそう。完成までの期間は3ヶ月ほど
▲新作の創作活動を行う倉澤さん。工程ごとに全く異なる作業を行うため、複数の作品を同時に作り始めるそう。完成までの期間は3ヶ月ほど
 
しかしそれまで平面作品を中心に創作活動をしてきた倉澤さんにとって、立体作品の制作は未知の領域。試行錯誤をしながら、ほぼ独学で形にしていったそうです。
 
「はじめは形をつくることすら難しくて、“もう辞めようかな”と何度も思いましたね…(笑)。でもイメージを形にするまでは辞められないと思い、その度に奮起しました。資料を読んだり知り合いにメールで質問したりしながら、少しずつ理想の形に近づけていきました」
 
倉澤さんが辿り着いたのは、しっかりと芯をつくった上に粘土を重ねていくスタイル。さまざまな素材を重ねた芯に粘土を盛り、何度もヤスリをかけることで、理想としていた形を表現できるようになりました。
 
「やればやるほど面白くなって、今では平面作品よりも立体作品をメインに制作するようになりました。立体って正面からだけでなく、後ろ姿や横顔など、いろんな角度から見ることができますよね。それによって作品の表情が変わるのが面白くて。今後はもっと大型の作品もつくってみたいと思っています」
 
180から600番台の紙ヤスリと、5種類の布ヤスリを順番にかけていくヤスリがけの工程。「一気に作業をするので、ヤスリの日はひたすらヤスリ。こもって作業をしています」と笑う
▲180から600番台の紙ヤスリと、5種類の布ヤスリを順番にかけていくヤスリがけの工程。「一気に作業をするので、ヤスリの日はひたすらヤスリ。こもって作業をしています」と笑う
 

カワイイも、美味しいも、永遠のものではない

倉澤さんの作品の代名詞とも言えるのが“スイーツ”と“動物”。特に猫のキャラクターは多くの作品に登場します。
 
「小さい頃に可愛がっていた野良猫が、モチーフとしてよく登場しています。小さい頃に好きだったもの、インプットしたものは感情移入しやすいのか無意識のうちに登場させてしまいますね。
さらに、作品中のモチーフには自己投影をしている部分も大きいです。例えばスイーツは“カワイイ”と言ってもらうことも多いのですが、よく見ると溶けてしまっているんですね。ここには“永遠のものはない”というメッセージを込めています」

 
生クリームやチョコレートが溶け出すスイーツの上に、ちょこんと乗っている猫たち。その表情からはさまざまな感情がイメージできる
▲生クリームやチョコレートが溶け出すスイーツの上に、ちょこんと乗っている猫たち。その表情からはさまざまな感情がイメージできる
 
ポップな色使いと、漫画やイラストから飛び出てきたようなキャラクター、スイーツ・動物といったモチーフから「カワイイ」と表現されることの多い倉澤さんの作品。しかしどこかアンニュイで寂しげな雰囲気を纏っているのは、“カワイイ”と表裏一体にある、刹那的で不安定な瞬間を切り取っているからかもしれません。
 
「アートと聞くと、“難しそう”と身構えてしまう人もいるかと思うんです。でも、私の作品は単純に、面白がって見てもらいたい。もちろん創作の意図はあるのですが、作品の解釈や心の動きは、見てくれる人に委ねられるもの。正解なんてありません。“カワイイな” “うちの猫に似ているな” “なんで泣いているのかな”と、ちょっと明るい気持ちになったり、作品に自己投影をしてもらえたりしたら嬉しいです。日常生活では出会えない世界観に触れ、その瞬間に湧き出てくる感情や心の動きを大切にしてほしいと思います」
 
涙を流す猫の作品も。「自由な感情で作品を見てもらえたら」と倉澤さん
▲涙を流す猫の作品も。「自由な感情で作品を見てもらえたら」と倉澤さん
 

生まれ育った長野市で、これからも創作活動を

この秋には、飯綱町のアップルミュージアムで開催されるグループ展に出品予定という倉澤さん。アトリエでは現在、展示に向けた新作の制作が行われていました。ドーナッツの浮き輪の上で寛ぐ猫をモチーフにした立体や、さまざまな動物が登場する連作の平面など、倉澤さんらしい作品が並びます。
 
「立体作品の創作をはじめてから8年。振り返ると、その時々の感情や興味関心が作品に大きく投影されていると感じます。自分が見たもの、感じたことを立体として表現していく作業は決して簡単なことではありませんが、その分可能性も大きく、この先どんな表現ができるだろうとワクワクします。創作活動がしやすい今の環境に感謝をしながら、これからも表現の可能性を追求していきたいですね」
 
生まれ育った長野市を「大きな空間」と表現していた倉澤さん。インスピレーションを与えてくれる自然や、ゆったりとした時間の流れが創作活動の支えにもなっているそう。この先、ここからどんな作品が生まれるのか楽しみです。
 
生まれ育った長野市を「大きな空間」と表現していた倉澤さん。インスピレーションを与えてくれる自然や、ゆったりとした時間の流れが創作活動の支えにもなっているそう。
 

(2019/09/13掲載)

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【作品と出会える場所(常設展)】
飯綱町「いいづなアップルミュージアム」

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