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No.431

遠藤

夏緒さん

農楽里(のらり)ファーム 代表

人と人、人と自然をつなげる農家カフェ&レストラン・民宿

文・写真 宮木 慧美

昔ながらの棚田が広がる大岡地区・慶師(けいし)集落。山間ののどかな雰囲気を感じる場所ですが、ここはいわゆる“限界集落”と呼ばれるエリア。1年を通して定住している住民はわずか16名、その平均年齢は約75歳なのだとか。この地に移住し、“農と人、人と人、人と自然の出会いの場”をコンセプトにした「農楽里ファーム」を営む遠藤夏緒さんに、この地の魅力やその取り組みについて伺いました。
 

慶師の恵みを“おすそ分け”

2004年、埼玉県から家族とともに大岡地区へ移住してきた遠藤さん。有機農業をしている友人の「自分で食べるものを自分でつくるようになって、怖いものがなくなった」という言葉をきっかけに“農にふれる暮らし”に興味を持つようになったそう。
 
「有機農業について学び、実際に作物をつくりはじめると、もっと深く農にふれる暮らしをしてみたいという思いが強くなりました。初めてこの土地を訪れたのは3月の下旬。満開に咲き誇るフクジュソウの美しさや豊かな湧水、北アルプスや戸隠連峰の雄大な景観を目の当たりにして感じたのは、大地のエネルギーと深い静けさ。この土地の魅力に惚れ、移住を決めました」
 
里山の奥には雪化粧した北アルプスと戸隠連峰。毎日見ても見飽きない風景です
▲里山の奥には雪化粧した北アルプスと戸隠連峰。毎日見ても見飽きない風景です(写真提供:農楽里ファーム)
 
遠藤さん一家が移住先の住まいに決めたのは、昭和8年に建てられた古民家。しかし床は抜け落ち、天井からは雨漏り、おまけにキツツキの開けた穴からは木漏れ日が射す…。当時は廃屋に近いボロボロの状態だったそうです。大工さんの手を借りながらリノベーションを行ない、昭和20〜30年代の風情が漂う農家民宿・カフェとして再生させました。
 
『猫がもてなす農家民宿』。木、土、紙でつくられているため、母屋の中にも自然が生きている
▲『猫がもてなす農家民宿』。木、土、紙でつくられているため、母屋の中にも自然が生きている(写真提供:農楽里ファーム)
 
「埼玉から通いながら、1年かけてリノベーションをしました。はじめはひどい状態でしたが、柱や基礎はそのままでも使える状態でした。ボロボロすぎて、風通しが良かったのが幸いでしたね(笑)。
現在は化学肥料や農薬を一切使用しない農作物を育て、お客さまやレストランに届ける『農楽里ファーム』の活動と、リノベーションした古民家を利用した民宿『猫がもてなす農家民宿』、農家Café&レストラン『のらCafé』の運営をしています」

 
民宿2階の廊下。心地よい風を感じながら、のんびりお昼寝をするお客様も
▲民宿2階の廊下。心地よい風を感じながら、のんびりお昼寝をするお客様も(写真提供:農楽里ファーム)
 
人口減少で耕作放棄地となっていた農地の借り受け・開墾で、約1ヘクタールの田んぼや畑を預かっているという『農楽里ファーム』。米や大豆、雑穀、野菜などのほか、冬の間は“農楽福餅(のらふくもち)”というお餅も作っています。慶師集落の恵みをいっぱいに感じられる作物は『猫がもてなす農家民宿』や『のらCafé』でも提供。健康的で美味しいビーガン料理とスイーツはお客様から大好評なのだとか。
 
「ビーガン料理って、どこか我慢するようなイメージがあると思うんです。でもせっかくのお食事は、楽しく、美味しく、健康的に楽しみたいじゃないですか。さみしい気持ちになるのは嫌だな、と思うので普段は普通の食事をしているという方でも満足できるメニューをお出ししています」
 
一粒の種からお料理まで。お客様のことを思ってつくるヴィーガン料理
▲一粒の種からお料理まで。お客様のことを思ってつくるヴィーガン料理(写真提供:農楽里ファーム)
 
目にも鮮やかで、旬の恵みをお腹いっぱいにいただけるビーガンメニュー。「普段は肉食なんですが、彼女に連れられて来ました…」という男性も、大満足で帰られるのだとか。他にも農的な暮らしを体感できる農作業体験や自然体験メニューを用意している農楽里ファーム。遠藤さんにとって、お客様との会話やふれあいが仕事の張り合いになっているそうです。
 
提供したお料理を「美味しい!楽しい!幸せ!」と感じてもらうことが何よりの喜び
▲提供したお料理を「美味しい!楽しい!幸せ!」と感じてもらうことが何よりの喜び(写真提供:農楽里ファーム)
 
「こんな山の中ですが、移住してきたからできた繋がりがたくさんあります。わざわざこの慶師集落まで訪れてくださるお客様や、レストランで野菜を使ってくれているシェフさんたちとの交流が楽しくって。本当の意味での“顔の見える関係”が築けることが嬉しいですね」
 
『のらcafé』の前でチャイと。農楽里ファームでは3匹の看板猫もお客様をお迎えします
▲『のらcafé』の前でチャイと。農楽里ファームでは3匹の看板猫もお客様をお迎えします
 

「農と人、人と人、人と自然の出会いの場」を目指して

そんな農楽里ファームが大切にしているのは「農と人、人と人、人と自然の出会いの場」を提供すること。自然との繋がりを身近に感じる機会が減っている現代社会において、“出会いの場”をつくることに大きな意味があると遠藤さんは言います。
 
「『人は自然の一部なのですよ、そして自然の恵みで生かされている存在なのですよ』ということを思い出してもらいたいと思っています。『自然があるな』と思うだけでは不十分で『この野菜はどうやって作られたのだろう』『この水が田畑に流れているんだ』と関心を持つようになるためには、 まずはきっかけとなる“出会い”が重要だと考えています。出会いが無ければ、何も始まりませんから。ですからお客様には、田植えや収穫といった農作業体験や、集落の水源地をご案内するツアーをご提案しています。こうした“出会い”から、お天道様や空気、水、すべての生き物たちや、いのちを提供してくれる食べ物、作ってくれる生産者の方への感謝が生まれてくると思うのです」
 
化学肥料や農薬を一切使用しない農作物。旬の恵みをお届けしています
▲化学肥料や農薬を一切使用しない農作物。旬の恵みをお届けしています(写真提供:農楽里ファーム)
 
民宿とカフェをそれぞれ1日1組限定にしているのも、“出会いの場”を提供したいとの思いから。他の人に気兼ねなく慶師集落の自然を満喫したり、ゆったりとした時間の中でお食事を楽しんだり。せわしなく過ぎていく日常から離れ、ゆったりと流れる時間に包まれると、そこにあるのが“当たり前”と思っていた自然が、こんなにも美しく、尊いものなのだと気付かされます。
 
「早朝から夕暮れまで、刻々と変化する自然の美しさを眺めながら、空間を独り占めして欲しいという考えから、1日1組限定としています。スマホも見ずに、ずっとここにステイしてくださるお客様も多いですね。心身ともに満たされてお帰りになっていただきたいと思います」
 
眼下に棚田や里山、集落の営みを感じられるテラス席。ここで食事を召し上がることもできます
▲眼下に棚田や里山、集落の営みを感じられるテラス席。ここで食事を召し上がることもできます
 
さらに、都市部から訪れるお客様の中には、移住を検討している人も多いのだとか。「移住先を探していて…」「東京にいる意味があるのか?と考えるようになって…」と遠藤さんに打ち明ける人もいるようです。
 
「移住の相談はよくいただきます。私自身、農的な暮らしがしたい、子育ては自然の中で、と考えて移住先を決めましたからお話できることはたくさんあります。
都市部では移住フェアなども開催されていますが、家や仕事を紹介して後はご自身で…ということがほとんど。でも実際には、『隣組に入って欲しい』『道普請(みちぶしん)(地域住民による協働活動。水路や棚田の維持などを行なう)に参加して欲しい』と、移住先で担うべき役割があることも多く、そういった“移住後の生活”を知る機会はなかなかありません。『こんなはずではなかった…』とギャップを埋められずに都市部に戻ってしまう人もいますから、ここでのリアルな暮らしをお伝えすることも私の大切な役割だと感じています」

 
30代から60代まで、“移住相談”をするお客様の中には子育て中の人もいれば、リタイア後の人も。“移住”の目的はそれぞれですが、共通しているのは『暮らしのリアルが知りたい』ということなのだとか。農的なライフスタイルを体験し、遠藤さんとお話をすることで、移住への不安が少しずつ解消していくようです。
 
農楽里ファームの敷地内にはさまざまな草花が。季節の移ろいを足元からも感じられます
▲農楽里ファームの敷地内にはさまざまな草花が。季節の移ろいを足元からも感じられます
 

美しい日本の里山を残すために私たちにできること

農楽里ファームでは、2018年から長野県立大学健康発達学部の実習受け入れがはじまりました。約70名の学生と一緒に農作業や道普請、地域の自然・文化を知る学習に取り組んでいます。
 
「日本中にある美しい里山は、“人が暮らすこと”でその景観を守ってきました。水路や棚田も地域住民の無償奉仕の精神によって維持されている面もあります。担い手が少ない慶師集落に、若い人たちが入ってきてくれるのはとても嬉しいこと。集落の人たちとの共同作業・交流を通して、街に暮らしていると気付きにくい“自然の美しさやありがたさ”を感じて欲しいと願っています」
 
限界集落では、里山保全だけでなくライフラインの整備も課題に。定住以外の関わり方でこの地に通っている人もいるそう
▲限界集落では、里山保全だけでなくライフラインの整備も課題に。定住以外の関わり方でこの地に通っている人もいるそう
 
実習に参加している学生さんからは「これまでとは違った視点で、自然を見られるようになりました」と感想をもらったこともあるそう。遠藤さんは、学生さんに伝えたいことの1つとして『食材の“向こう側”を知ること』を挙げてくれました。
 
「スーパーに並んでいる食材に見慣れてしまうと、その向こう側に“人”や“自然”がいることを忘れてしまいがちです。背景には、自然や多様な生き物とのつながりがあり、そこに生産者の人がいるからこそ豊かな恵みをいただける。学生さんには『いのちをいただき、いのちを繋いでいる』ことに気づいて欲しいです」
 
“生産”と“消費”が切り離されてしまっている現代。嘘か誠か、「魚は切り身の状態で泳いでいる」と信じている子どももいるのだとか。生きていく上で大切な“食”なのに、こんなにも不自然な状況になっているのは“出会いの場”がないからなのかも。目の前にある自然に関心を持つことが、日本の食や里山を守ることへの1歩なのかもしれません。
 
「自然の恵みを肌で感じられるのが慶師集落です。長野市内からわざわざ宿泊に来るお客様もいます。自給的なライフスタイルやヴィーガン料理に興味のある人、自然の中でゆったり癒されたい人にぜひお越しいただきたいです」
 
テラスでお昼寝をするチャイ。すべての生き物が安心して暮らせる里山・自然環境が守られますように
▲テラスでお昼寝をするチャイ。すべての生き物が安心して暮らせる里山・自然環境が守られますように
 
“そこにあること”が当たり前になっている自然。農楽里ファームで過ごす時間は、私たちが忘れかけていた自然と人との繋がりを思い出させてくれるようです。
 

(2019/07/10掲載)

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会える場所 農楽里ファーム
長野県長野市大岡甲1791(慶師集落)
電話 090-9669-6954

農楽里ファーム
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※民宿『猫がもてなす農家民宿』、農家Café&レストラン『のらCafé』は完全予約制

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