定年のない夢を追いかけて。街なかで育む長野らしいビール
堀内睦巳さん
長野みなみ風ビール 代表、マスターブリュワー
長野市中央通り沿いにある、クラフトビールの醸造所兼パブ「長野みなみ風ビール」。代表でマスターブリュワーの堀内睦巳さんは、飲食業界で経験を積んで40歳のときに独立し、横浜で立ち飲みスタイルの居酒屋を開業。いつかは地元の長野市で仕事や子育てをしたいという思いが膨らんでUターン。あらためて地元で店を経営する堀内さんの奮闘する日々を伺いました。
文・写真 くぼたかおり(山庭舎)
10代の頃から「事業をやりたい」「定年のない仕事をしたい」という漠然とした夢を抱いていた堀内さん。経営や経済について幅広い学びを深めたいと横浜の大学に進学し、商学科を専攻。勉学に励む傍ら、居酒屋でアルバイトをしていました。ある日、バイト先の先輩から「独立して店を始めるから一緒にやらないか」という思いがけない誘いを受けたのです。
「在学中は特定の業種を目指して勉強をしていたわけではありませんでした。いつかは自営業をしたいという夢だけはあったので、まずは先輩の店に入社して勉強してみようと考えました。そこでは店長として店舗運営に関するほぼすべての業務を任されました。初めてのことばかりでしたが、実践を通して経営感覚を磨きました」
店長としての経験を経て、魚の調理方法や提供の仕方を学ぼうと築地のマグロ屋が運営する居酒屋に転職。その後40歳で独立を果たして、焼き鳥メインの立ち飲み店「たちのみ処 みなみ風」をオープン。住み慣れた横浜での暮らしや仕事は順調でしたが、新型コロナを機に少し先の将来のことも考えるように。都会とは異なる環境で子育てをしたいという思いから、長女が中学校に上がるタイミングで帰郷を決断。その後も自身のキャリアを活かして長野市街地で飲食店を継続していましたが、店が入っていたビルの取り壊しが決まって立ち退きを余儀なくされました。
「このまま同じように店を続けても面白くない。それならもう一歩挑戦してみようと考え始めたんです。横浜時代の常連客に某ビールメーカーの研究所の方たちがいて、彼らからビールの面白さや奥深さを教えてもらったことも影響して、クラフトビールの醸造を始めました」
クラフトビールの醸造者になるには専門的な技術習得が必要です。堀内さんは松本市のビール醸造所BACCA BREWINGで約半年間の研修を受け、醸造技術の基礎と実務を学びました。その後、国税庁の定める免許制度に則り醸造事業を開始しています。
「私がビールを考案するときは、料理を作るのと同じように進めます。まずは作りたいビールの味わいを決めてから、麦芽、ホップ、水、酵母という主要素材の割合を調整。定番のペールエールやヴァイツェンは、奇をてらわず基本に忠実な高品質のビールに仕上げる。季節限定ビールには長野県で栽培されている季節ごとの農産物をを用いて、特徴のあるビールにしています」
これまでに杏や川中島白桃、リンゴ、蕎麦、ゆず、酒粕といった長野県産の農産物や副産物をクラフトビールに取り入れてきました。果物を使う際は絞った果汁を低温殺菌してから投入。これにより素材本来の風味やフレッシュ感を最大限に引き出せるのだとか。
製造方法やレシピは税務署に提出する義務があるため、緻密な計画が必要となります。料理をするように要素を組み合わせ、計算通りに味を創り上げていく時間は、難しさと楽しさが入り混じるプロセスだと言います。
長野みなみ風ビールは長野駅から徒歩圏内にあり、善光寺へと続く中央通り沿いにあります。誰もが日常的にクラフトビールを楽しめるようにしたいという思いから街なかを選びました。店名の「みなみ風(サザンウィンド)」は、堀内さんが大好きなサザンオールスターズに由来。
「海の家のように気楽にくつろげる空間と時間を提供できたらという思いで付けました。内装の一部は自分たちで空を表現した絵を描いたり、サザンのライブグッズなども飾っていて、同じようにファンの方が立ち寄ってくれることもあります」
2022年に自家醸造を始めてから、ビールの種類や料理のメニューが着実に増えています。今後はこれまで以上に認知度を上げていくこと、そしてクラフトビール人口を増やしたいという目標を掲げています。2025年からは県外で開かれているビールのイベントにも積極的に出店し、長野みなみ風ビールの存在をPR。その結果、毎週欠かさず足を運んでくれる熱心なファンも増えてきました。長野県内では道の駅や一部のコンビニエンスストアにも卸し、店舗以外の販売ルートも開拓しています。
堀内さんの活動はクラフトビール造りに留まりません。長野県産の食材を取り入れたビールに合う料理も提供しています。
「信州サーモン、信州新町のラムソーセージなど特色のある長野県産の食材を活かしたメニューを増やし始めています。自分のお店だけが儲かれば良いのではなくて、関わりある生産者さんにもメリットが生まれるようにできたら。たとえば長野県産のブランド農産物をより安定的に生産し続けるには、使ってくれる人を増やさなくてはならないですよね。そこに行政が補助金を出して、地元の飲食店や小売店が安く仕入れられるようになれば地域全体で信州ブランドの消費を拡大し、相乗効果が生まれるんじゃないかなって思うんです」
店の経営、醸造、接客、営業、イベント出店といったすべての業務を担い、堀内さんの休みはほとんどありません。
「ここ数年、ずっと走り続けているような状態です。従業員には良い環境を与えたいという思いがあるので彼らの休日は優先しているものの、自分の休みは後回しになりがちです」
ともに働く人たちが健やかでいられる仕組みづくりにも気配りする堀内さん。休みができたら何をしたいかと尋ねると「寝ていたい」と即答しつつも「やっぱり伝票整理かな」と漏らす姿には、真摯な仕事への姿勢が垣間見えます。
「置かれた場所でどれだけがんばれるか。常にそれだけです。楽しみながらもがんばり続ければ、自然と次なる道が開いていく。今はまだ忙しいけれども、そういった時間も大切だと分かっているので」
定年のない仕事をしたいという夢を抱き、実現した堀内さん。これからは自分の健康にも気を遣いながら、みなみ風ならではのビールで私たちを楽しませてくれることでしょう。
(2026/03/27掲載)
長野市新田町1458 メゾンフォンテーヌ101
電話:026-217-5885
ホームページ:https://nagano-minamikaze-beer.jp
ホームページ:リンクはこちら
営業 16:00〜23:00、土日祝は13:00〜
定休日 火・水曜
大野裕美子さん
STUDIO Menotes 代表次の記事がありません。