やりたいと思ったことを、やりたいときに。そのくり返しが未来をつくる
ハラヒロシさん
クリエイティブディレクター、デザインスタジオ・エル代表取締役
「継続は力なり」とはよく聞くことわざです。長野で活動するクリエイティブディレクター、ハラヒロシさんはそんなことばが似合う人です。デザインスタジオ・エル(以下エル)に新卒で入社し、会社とともに28年の道のりを歩んできたハラさんに、これまで続けてきたこと、そして今後の展望について伺いました。
文・写真 文:宮川友紀(and craft, Inc.)・くぼたかおり(山庭舎)/写真:宮下公一(MOMENTS)
ハラヒロシさんの名前をインターネットで検索すると、エルのWebサイトはもちろん、note、X、instagram、書籍などさまざまな媒体やチャンネルで「ハラヒロシ」と出会うことができます。いちどには読み切れない膨大な記事のアーカイブは、見事に設計され、使い分けられているように見えます。
「自分は目立ちたいタイプではないんですが、子どもの頃から自分は何者かを自覚したいと思っていて」
穏やかな口調で話し始めたハラさんは、確かに目立ちたがり屋でも、我が強いタイプでも無さそうです。
漫画家を目指していた小学校の頃は「マンガを書く人」、エルに入社してウェブデザイナーになってから「Webの人」「ブログを毎日書く人」、その後も「たくさんツイートする人」「写真を撮る人」というように、常に何かをやり続けることで「ハラさんといえば」という像が自然と形づくられていきました。
「続けていれば何かが起きると信じているところがありますね」
そんなハラさんの継続の原点は、小学生時代に愛読していた漫画雑誌「コロコロコミック」にあります。巻末の「読者コーナー」に応募するうちに自分もこういう誌面を作りたいと思い立ち、4コマ漫画やクロスワードパズル、先生のインタビューなど、誌面構成を考えた手描きの学級新聞を作り始めました。友達や先生に褒められるのがうれしくてまた作る、そのくり返しで気づけば50号まで発行しました。そのような循環が、今も変わらず続いていると言います。
1998年、新卒でエルに入社。2006年頃から自社プロモーションを意識してブログの更新を毎日続けるようになり、約15年の間に5000記事を書きました。
「営業の一環として始めたブログでしたが、それだけではなく誰かの役に立つ発信もしてみようとSNSにも力を入れるようになりました」
こうしてTwitter(現X)、note、instagramなど各SNSの特徴に合わせて内容を変えながら発信していくうちに、フォローしてくれる人が増えていくように。すると、思いがけない”何か”が起こりました。
2023年10月、出版社から1通のメールが届きました。それは、ハラさんが過去にnoteに投稿した「せっかち式仕事術」という記事の書籍化のオファーでした。2020年にエルの取締役になった頃、Twitterなどで書き溜めてきた文章をまとめたもので、「朝イチでトップスピードに持っていく」「時間は『使う』のではなく『作る』」など、自身のせっかちな特質をコミカルに描きつつ、それを仕事に活かす姿勢と行動指針を示す内容でした。
出版社からメールを受け取った時のハラさんの反応がnoteに書かれているので紹介します。
3年も前の記事を見つけてくれて嬉しい(書きためておいて(種まきしておいて)よかった)…!という気持ちと、このネタで書籍1冊作れるのだろうか…?(心配性発動)という不安が入り交じるなか、ぜひお話お聞かせくださいということになりました。
その際、ただ返信するのではなく、「こんなのはどうでしょうか?」と、ネタになりそうな過去の関連記事を共有しました。手持ちの資産があれば即提出するのです。相手の想像を超えるリアクションは期待感につながります。
『『せっかち式仕事術』は、“せっかち式”を駆使して書きました。』2024.5.28 noteより引用
出典:https://note.com/harahiroshi/n/n144196a3523e
この返信内容からも、ハラさんのせっかちマインドを読み取ることができますが、その直後に行われた企画会議で編集者から「いったんサンプル原稿を1,000文字程度書いてください」と言われたその日のうちに10,000文字以上の文章をストックしたというエピソードを残しています。その後2カ月ほどで原稿を書き上げました。
本を読むと、ハラさんのスピード感ある働き方に驚く人もいるかもしれません。ただ、それは誰もが目指すべき正解ではないと言います。
「“せっかち式”を誰かに押しつけるつもりはありません。そもそも、まわりの人は自分をせっかちだとは思っていないように感じます。僕は“隠れせっかち”なんです。後回しにはせずに早く終わらせたい、限りある時間を無駄にしたくないという気持ちが常にあります。不安を抱えたままにしておくより、動いてしまったほうが安心できる。その性分が、結果としてスピードにつながっているのだと思います」
“せっかち式”は目的ではなく、自分を整えるための手段。本書は、スピードを身につけたい人というよりも、日々の不安を軽くし、自分の時間をじっくり確保したいと感じている人に届いてほしい一冊です。
ハラさんのnoteを読み進めていくと、2023年ごろから写真の投稿が多くなり、現在ではほぼ写真活動=写活の記録がメインになっています。忙しい中で、どうやって写活の時間を確保しているのでしょうか。
「余白ができたから写真をやったということではなくて、やりたいからそのための時間を作ったという感じですね(これぞせっかち式です!)」
20代の頃から常にカバンにカメラを入れて持ち歩いていたというハラさん。数年前まではブログ用の記録写真として撮っていて、趣味というほどでもなかったと振り返ります。ハラさんの写真”好き”が”熱狂”に変わったのは3年ほど前のこと。きっかけは、あるコンパクトデジタルカメラとの出合いでした。
「RICOHのGR IIIxを購入しモノクロモードで撮り始めたら、そのストイックに引き算された絵がすごく刺さって。Instagramで見たモノクロのストリートスナップに惹かれて撮っているうちに、 記録写真ではなく自分の目で捉えたものを作品をとして残したいと思うようになりました」
商業デザインでは常に“誰かのため”に応えるものづくりをしてきたハラさん。プライベートでは自身の生き方にもフォーカスしたいと考えるようになり、“自分のため”の表現として写真に挑戦したいと思ったのです。
写活を始めてからは、 撮影のためだけに街や山へ出かけるように。ハラさんの作品は「Still Scene-在る孤景」というテーマで、被写体にはどこか哀愁漂う自然風景が多くみられます。
「自分は一人っ子で孤独は好きですが、同時に恐怖心もあります。ひとりで行けないところにいるものに対して憧れと畏れが入り混じった感情を抱くことがあって、そういうものが風景のなかにポツンってあったりすると、愛おしくもあり、怖くもあります。 このテーマには自分の立っている位置(孤独の縁)と被写体との距離感を撮りたいという想いが込められています」
以前は、目的地に向かう途中の「背景」だった街が、写活を始めてからは「舞台」に変わったというハラさん。 「毎日通る場所が、冒険になる」と思えるようになったと語る表情は少年のようでした。
2020年にハラさんが経営を引き継いだエルは、2026年、創業50年という節目を迎えます。以前はデザイナーとエンジニアのみでしたが、近年は組織体制を変えてディレクターやライターを採用。お客さまの課題解決のために、より本質的な提案ができる組織へと成長を続けています。さまざまなスキルに長けたメンバーによって仕事の幅が広がり、自社サイトやSNSの内容もより充実してきました。
現在の社員は10名。長野以外に群馬、山梨、東京、静岡、大阪にメンバーが在籍し、半数が県外在住です。働きやすい環境づくりにも力を注いで、残業を無くしたり、フレックスタイム制や自由出社、完全週休2日制を導入。このような整備の甲斐あって、産休復帰率100%を実現しました。
「5年前とはまったく違う会社に変わってきました。デザイン会社からブランディング支援会社という位置付けにシフトして、それがメンバーにもしっかり浸透してきたのを実感しています。仕事の取り組み方もただ作るのではなくて、しっかりお客さまと対話すること、一緒に考えてつくること、問いを伴奏すること。そういった志を全員で共有しながら、私がいなくても事業が回る組織を目指しています。それが少しずつ形になっていると感じています」
エルとともに歩み、「エル」という文化を次の世代につなぎはじめたハラさん。「やりたいと思ったことを、やりたいときにやる」という選択が、気づけばさまざまな展開に広がって、ハラさんの人生のものがたりに新たな章が紡がれていきます。
(2026/03/16掲載)
長野市西和田2-14-30
ホームページ:https://designstudio-l.jp/
ホームページ:リンクはこちら
ホームページ:https://www.harahiroshi.net/
ホームページ:リンクはこちら
中村明さん
アーティスト次の記事がありません。