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だるまも、土偶も、招き猫も。面白いと感じたら、そこが創作の入り口に

中村明さん

アーティスト

メインビジュアル

シルクスクリーンで印刷した絵に、アクリル絵の具で塗っていくなどの手法で作品制作をするアーティストの中村明(なかむら・はる)さん。大学時代からの友人とのアートユニット「光明制作所」でインスタレーション作品を発表したり、善光寺門前を会場に行う芸術祭「もんぜん千年祭」の実行委員を務めるなど、その多彩な活動についてお聞きしました。

文・写真 松井明子(株式会社ママLife)、写真提供:中村明さん

アーティストである父の影響を受けつつ、美術の世界へ

中村さんは御代田町出身。父のナカムラジンさんはデザインの仕事をしながらアーティスト活動もしていて、自宅で絵を描いたり茶碗を作ったりする姿に、中村さんは少なからず影響を受けてきました。
 
「父から絵に関して何かを教わったことはないですが、描くことはずっと好きでした。高校3年生くらいまでは専門的に絵の勉強したことはありませんでしたが、大学受験が目の前に迫って来た時、『楽しめるものは美術くらいしかないかな』と進路を考えるようになりました。父は信州大学教育学部出身で、父が教わっていた工芸の先生がまだいらしたので、父から『行ってみたら面白いんじゃない?』と言われて、『俺もちょっと真面目に美術やってみようかな』と、同じ信大教育学部に入りました」
 
中村さんが大学生の頃は、善光寺界隈で古い建物をリノベーションして新しいお店ができたりといったムーブメントが始まった時期。信大の建築学科の学生たちが街に出ていろいろなことを試していました。その一環で改修された小さな蔵「豆蔵」(大門町)で、中村さんはアートの楽しさを伝えるワークショップを開いたり、展示をしたり、当時西之門町で開催されていた「西の門市」に参加するなど、街に出る活動をしていました。
 
卒業後は、食べていく手段として中学校の美術の講師をしながら、作品制作を続けていました。2校で計4年経験しましたが、2校目で登校しても教室に入れず保健室などで過ごす生徒を担当することになり、そうした子どもたちと接しているうちに葛藤するようになったといいます。
 
「教室に入れない彼らに対して『教室に入れなくても、これから先何とでもなるよ』と声を掛けるわけです。自分は子どもの頃から学校が嫌いではなくて、彼らのように生きてきたわけでもないのに。本心と建て前の板挟みになり、『このまま先生をやっていていいのか』という気持ちがどんどん大きくなってしまって退職しました」
 

子育てと仕事の隙間時間にできる制作スタイルを模索

学校を退職後、デザイン事務所に入社してデザインの基礎を学んだのちの2019年、新聞社に入社。紙面に載せるカットやグラフなどを制作しています。
5歳と0歳の男の子の子育て真っ最中でもある中村さんの作品制作は、仕事と子育ての隙間時間に限られます。
 

作品制作の準備をする中村さん

長男が生まれた頃、時間がない中で描く方法としてシルクスクリーンを始めましたが、印刷するだけでは物足りなくなり、シルクスクリーンと手描きを組み合わせたり、複数の版を組み合わせる手法にたどり着きました。どこにどの色を使うかはパソコン上で大体決めて、容器にアクリル絵の具を溶いておいて、コツコツ塗っていきます。
 

中村さんの絵は、色彩が色とりどりで鮮やかで、細やかに描き込まれています

「『絵は細かければ細かいほど素晴らしい、リアルなほどいい』という感覚がありましたが、デザイナーの時、たとえばロゴマークを作るときに削ぎ落としてそこに情報を詰め込むといった引き算の難しさと面白さにはまりました。でもまた細かく描きたくなったり、行ったり来たりしています。こういうにぎやかなのが多分好きなんだと思います」
 
絵の具を混ぜずに、チューブから出したそのままの色を使います。シルクスクリーンで印刷した絵に絵の具で塗っていくので、手描きならではのムラができたり、絵の具の盛り上がりができたり、印刷だけでは現れないような変化が生まれます。
 
絵の中には、だるま、土偶、ウルトラマン、招き猫、七福神……などなど、さまざまなキャラクターが登場します。だるまは、息子さんが赤ちゃんの時に興味を示す様子が面白く、作品に取り入れたそうです。
 

だるまを描いた作品

「取っ掛かりは『なんか面白いな』くらいの感覚です。たとえば『だるまのことをすごく知っていて、すごく好きだから描くのだ』と自分を縛ってしまうと何も始められません。興味が出たらそれをスタートにして掘り下げていけばいいのではないでしょうか」
 

一人で絵を描くのとは違う面白さがある、ユニットでのインスタレーション制作

絵は中村さん個人での活動ですが、大学時代からの友人である羽田光さんとのアートユニット「光明制作所」の活動もしています。光明制作所では、空間全体を作品にする「インスタレーション」と呼ばれるジャンルの作品を作っています。「光」は羽田さん、「明」は中村さんの名前から取って名付けました。
 

羽田光さんと中村さん

光明制作所としてインスタレーションに取り組み始めたのは、松代で開かれた「第14回まつしろ現代美術フェスティバル」(2019年)に参加したことがきっかけ。松代に点在する6つの文化財が会場で、中村さんは「ギャラリ−松真館別館・旧牛乳処理場」で展示をしました。
 
「牛乳を冷やす設備がある牛乳屋さんだった場所なので、インスタレーション作品の一部としてビデオアートを制作し、楽曲として『牛乳屋さんの歌を作ろう』と思いました。そこで、バンド活動をしていて曲を作れる光に、『街に牛乳と希望を届けるような歌詞を書いてほしい』とお願いしました」
この時は中村明名義で、羽田さんから楽曲提供してもらった形でした。
 

「牛乳屋さんの歌」の1コマ

その後、「第18回富山市美術展2022 インスタレーション部門 トリエンナーレ公募展」に、初めて光明制作所名義で出品。インスタレーション部門の大賞を受賞しました。
廃校になった校舎を会場に、コロナ禍を「夜」と捉えて、「その夜をいかに遊ぶか」とイメージを膨らませて、作品「夜祭り」を制作しました。中村さんがコンセプトを考え、羽田さんが曲を作りました。
 

夜祭り

光明制作所の最新作は「中之条ビエンナーレ2025」(群馬県)で、四万(しま)温泉で展示した「世のチリ回収センター」。群馬県の「上毛かるた」にある「世のちり洗う四万温泉」という読み札の「世のちり」から着想を得て、歌を歌いながら「世のチリ回収フィルター」でチリを回収する……という作品を制作しました。
 
「インスタレーションは、その街の雰囲気や歴史、会場となる場所で得たものを光と共有してイメージを膨らませて作ります。曲作りは光にほぼお任せで、コンセプトの段階で話し合いはしますが、お互い得意分野を生かしながら共同作業で作ります。自分の趣味や生活の中で一人で絵を描くのとは、違った面白さがあります」
 

3月7日(土)~29日(日)は、千曲市アートまちかどで「世のチリ回収センター千曲支部」を展示します。戸倉上山田温泉でも「世のチリ」の回収を試みます!

アートを地域に広げる活動も

中村さんのもう一つの活動として、善光寺周辺と門前を会場にした芸術祭「もんぜん千年祭」があります。実行委員会が主催し、2024年から毎年開催しています。中村さんは実行委員として携わっています。
 
「『中之条ビエンナーレ』は20年続いて町に根差してるのがすごく素敵です。長野市だとそういう芸術祭がなかったので、地域の祭として続けていきたいなと。美術だけで稼いで食べていくのは難しいですが、いろいろなやり方で美術を続けている人がたくさんいることを知ってほしい。長野市民として、先人たちが切り開いてきてくれたものを次の世代へつなげるべく、試行錯誤して頑張っていきたいなと思います」
 

2025年のもんぜん千年祭ではインスタレーション「世界最果て追い込み漁」を展示

「個人での絵の制作は、息子が好きなものを描いて喜んでもらったりしながら、今後もコツコツやっていきます。光明制作所の活動も楽しいので、光が一緒に楽しんでくれる限りは続けたい。鑑賞者からどう見えるかを考えながら作るインスタレーションと、自分がどう思うかを主軸にする自分の作品。この対比がいいなと。両方続けながら新しいこともしていきたいと思います」
 

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