美味しいお酒とお料理が、人と人とをつなげる酒場
田中信洋さん
日本酒ときどきサワー のぶた
2023年、長野駅から徒歩5分ほどの飲食店が集まる通り沿いにオープンした「日本酒ときどきサワー のぶた」。こだわりが詰まった日本酒のセレクトと、旬の食材を生かした料理が楽しめるとあって、地元の常連さんからインバウンドの観光客まで、幅広い客層が集う人気店です。 このお店を営むのは、山梨県から移住してきたご姉弟。ひたむきに「美味しいもの」を追い求める姿勢と、人と人との心の垣根をそっと取り払うようなあたたかい雰囲気が、お店全体に漂います。
文・写真 半田 莉幸(株式会社ビー・クス)
長野市の中心、善光寺表参道から一本裏に入った「しまんりょ小路」。観光客と地元の人とが行き交うこの路地に、あたたかな灯りをともすのが「日本酒ときどきサワー のぶた」です。
藁(わら)焼きや炭火焼き、おばんざい、揚げ物に刺身まで、どの料理も日本酒とのペアリングを考えて丁寧に仕込まれており、なかでも藁焼きは目の前で炎を上げながら仕上げるパフォーマンスも手伝って、とても人気です。
2025年春には、店舗の2階にクラフトビールやジン、日本酒を楽しめる「NOBUTA 2」もオープン。1階と2階で味わえるお酒や空気感が異なり、ひとつの建物の中で「はしご酒」ができるのも面白さのひとつです。平日であっても開店直後から満席になることが多く、その人気の高さを物語っています。
カウンター9席に4人掛けのテーブルがひとつ。決して広くない店内だからこそ、お客さん同士の距離が自然と近づき、いつの間にか会話が始まる。お隣に出されたお料理に思わず出てしまう「美味しそう」のひと言から、いつのまにか隣同士で酒を酌み交わす―そんな風景が見られます。
「最初に僕がこっちに来て、姉と両親を呼んだんです。ずっと白馬に住んでいたんですが、やっぱり長野市は暮らしやすいですね」
そう話すのは、弟の田中信洋さん。同店の調理を担当し、現場を切り盛りする存在です。移住に対して前向きな一家なのだと語ります。
「自分が生まれる前に、両親と幼い姉が東京から山梨に移った経験もあって。もともとそういう家族なんですよね」
日本酒との出会いは、コロナ禍でのステイホームがきっかけ。家でさまざまな日本酒を飲み比べているうちに、「信州の酒」のとりこになったと言います。
「長野は、全国的に見ても日本酒が本当に美味しいんです。その土地で造られた酒は、その土地で、その土地の食と合わせると、素晴らしいマリアージュが生まれると思っています」
長野の酒を、長野で楽しんでほしい―その思いが、長野県での開業を後押ししました。
料亭や焼肉店など、さまざまな飲食の現場で腕を磨き、コロナ禍には日本酒の専門資格である「酒ディプロマ」を取得。さらに「大信州酒造」で蔵人として修業を積んだことで、長野の酒が持つ奥行きや魅力に、より強く惹かれるようになったそう。
「うちで扱う日本酒は、すべて自分の舌で選んでいます。今はだいたい500種類をストックしていて、温度帯ごとに管理方法も変えています」
常温熟成からマイナス5度の低温保存まで、きめ細やかに対応。その日のお客さんの気分や、料理の内容、気温などをふまえて、ベストな一杯を提案してくれます。
「ペアリングをぜひ楽しんでほしいです。おすすめのお酒はメニューに載せていますが、ほとんどのお客さんが『おすすめは?』と聞いてくれますね。最近は20代のお客さんや女性の日本酒ファンも増えていて、昔のように『年配の人が飲むもの』とか『悪酔いするお酒』というイメージは、本当に薄れてきたなと感じます」
「長野と同じで、長く暮らした山梨にも海がないからこそ、『海鮮』への憧れが強いんだと思います」
そう話すのは、姉の友栄さん。「弟とは、めっちゃ喧嘩もします」と笑いながらも、資金管理や事務など経営面を支え、お互いの強みを生かし合う素敵なコンビです。
同店のメニューは「日本酒に合う」ことを前提に構成されているため、魚料理が中心。さらにカツオやマグロをいちばん美味しく食べる方法として「藁焼き」をメインに据え、炭火焼きや蒸し料理、刺身など、シンプルかつ多彩な調理法で構成されています。藁焼きの炎が上がる瞬間は、大迫力。その火力で旨みをぎゅっと閉じ込め、藁の香ばしさがふわりと移った魚は、一口食べた瞬間、「おぉ…!」と声が漏れるほどの美味しさです。そこにおすすめの日本酒を合わせれば、口の中にふわっと余韻が広がり、思わず笑みがこぼれてしまいます。
信州産の野菜をふんだんに使った「おばんざい四点盛り」も、のぶたの人気メニューのひとつ。内容は日によってさまざま。今回はアスパラ菜のだし浸し、白舞茸の炊き合わせ、飯綱のカブのお刺身、梨の白和えの盛り合わせでした。産地ならではの素材のみずみずしさを、やさしい味付けが包み込む、季節ごとの味覚をぎゅっと詰め込んだ品々です。
「マグロは豊洲から天然ものを仕入れていますし、長野市の市場や、新潟の漁港にも週2回通っています。基本的に魚は一本買い。今は日本中の港から直送してもらえるので、季節ごとの『いちばんいい魚』を集めています」と信洋さん。
そんな信洋さんの仕事ぶりを、友栄さんは「とにかく妥協しない」と苦笑しつつも、どこか誇らしそうに語ります。
「わさびひとつとっても、『安曇野の本わさびじゃないと』って、注文のたびにすり下ろしています。居酒屋にしては原価がかかりすぎているので、正直ビジネスとしてはどうなんだ、っていう話なんですが…(笑)。せっかく来てくださるお客さんに『非日常の料理』を楽しんでいただきたいという思いは、弟と一緒なんですよね」
シンプルな調理法に宿る、素材へのまっすぐなまなざし。その姿勢が、訪れる人の心を掴んで離さないのでしょう。
「うちに来て楽しいのは…料理が目の前で見られることかな。ライブ感がありますし、お客さんとの一期一会もライブですから」
その言葉通り、店内では料理が運ばれるたびに自然と会話が生まれ、広がっていきます。狭めに設けた席の間隔も、コミュニケーションのきっかけになる仕掛けのひとつ。
「隣の人の料理を見て、同じものを頼む人も多いんですよ」
海外からの観光客も多く、姉弟そろって英語での接客もスムーズ。ふらっと入った人が、気づけばカウンターで地元の人と語り合っている―そんな光景が、当たり前のように繰り広げられています。
最近では、権堂にあるワインバー「bird.」やイタリアンレストラン「Hanten」とのコラボイベントなど、地域の飲食店との連携にも力を入れています。今年からは県内の酒造ともタッグを組み、さらに多彩な企画を計画中とのこと。
「お酒好きな方も、あまり知らないという方も、誰でも気軽に来て、楽しめる場所にしていきたいですね」
人と酒、人と料理、そして人と人が、ゆるやかにつながる場所。「のぶた」は今日も、しまんりょ小路の入り口で、あたたかな灯りをともしています。
(2026/03/02掲載)
〒380-0822 長野県長野市南千歳町857
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