“ここにしかないケーキ”を求めて 唯一無二の味と体験を届けたい
水野洋平さん
La patisserie VINGT-SEPT オーナー、シェフパティシエ
長野市南千歳のしまんりょ小路に店を構える「La patisserie VINGT-SEPT(パティスリー ヴァンセット)」(以下パティスリー27)。ショーケースにはキラキラとしたアートのようなケーキやフランス菓子が並び、訪れる人の目を惹きつけます。2016年のオープン以来、地元客のみならず、数多のスイーツ好きを魅了してきた同店。オーナーでシェフパティシエの水野洋平さんに、ケーキ作りのこだわりをうかがいました。
文・写真 碓井 綾乃(株式会社ビー・クス)
水野さんのご実家は、長野市で140年以上続く老舗和洋菓子店。「製菓工場が遊び場でした」と語る通り、幼い頃からバターやクリームの香りに囲まれ、自然に家業のお手伝いをしていたそうです。
「自分で0から1を考えて作ることが好きな子どもでした。『ケーキ屋さんになりたい!』というより、お菓子作りは楽しかったし、表現手段として『ケーキ』が一番身近な存在だったんです」
学生の頃から基本的な作業はしていた水野さんですが、卒業して家業に入り、両親と並んでお菓子を作る中で、「同じ材料でも作り手によって、仕上がりも味もまるで違う」ことに改めて気づいたといいます。もっと本格的な技術を学びたい―。その思いから、東京、そしてフランスのパティスリーで腕を磨く道を選びました。
「東京で高い技術を身につけられた一方で、『ケーキはこうあるべき』という固定観念もできていました。そこで、フランス・パリに行ってみたんです。本場のフランス菓子は奇抜で、個性に溢れていて、その自由さに刺激を受けました」
クラシックな名店の味から前衛的なパティスリーまで、さまざまなフランス菓子や文化に触れたことで、お菓子作りに対する固定概念が取り払われたと同時に、“自分にしか作れないケーキ”のイメージを育てる大きな刺激になったといいます。
東京とパリで修行を積んだ後、2016年11月に念願のフランス菓子店を長野市にオープン。店名の「VINGT-SEPT(ヴァンセット)」には、特別な意味が込められています。
「僕の誕生日が27日なんです。フランス語で“27”を意味するのが『VINGT-SEPT』。生まれた日と同じように、この店に訪れた人の記憶に残る存在でありたいと思っています」
そんなパティスリー27が開業当初から一貫しているのは、フランス菓子を基本に “ここにしかないケーキ”を生み出すということ。
「多様なケーキがありますが、どれもベースは卵、粉、乳製品のシンプルな3つの素材。素材の知識があるからこそ、よりよいお菓子が作れる。最適なバランスを崩さずに、どれだけバリエーションを生み出せるかを追求していきたいです」
水野さんのお話には、材料のバランスや配合、ショーケースの温度管理など「基礎」を重視する姿勢が何度も登場します。普遍的な条件を正確に守ることこそ、よりよいお菓子づくりの出発点だといいます。
さらに、できる限り信州産の素材を使うことも心掛けているのだそう。小麦粉や季節のフルーツなど地元の新鮮な食材とフランスで培った技術を掛け合わせることで、ケーキを通じた“特別な体験”が提供できるのです。
ショーケースに並ぶケーキはどれも華やかで、洗練された佇まいが印象的です。そのデザインや構成のアイデアは、どのように生み出されているのでしょうか。
「若い頃に書いたメモや記憶を、今の流行や感覚と組み合わせてケーキのアイデアにしています」
参考にするものは、お菓子に限りません。ファッション雑誌に載っているバッグ、SNSで見かけた写真など、日常の中でふと目に入るデザインやディティールから得た感覚が、時間を経てケーキのアイデアへとつながることがあるそうです。とはいえ、創作は決して軽々と生まれるわけではありません。
「考え続けるって本当に苦しいですよ(笑)。ネットで情報を集めることはできますが、やはり外に出て、実際に見たり、触れたりすることが創作のヒントになります」
看板商品の一つ「コバルト」は、元素記号27番のコバルトから着想を得て生まれたケーキ。食用の竹炭パウダーでその輝きを表現したグレーの見た目が印象的で、中にはホワイトチョコレートとヘーゼルナッツのムース、グレープフルーツジュレが重なり合います。そこに土台生地のサクサクとした食感や、“スパイスの女王”カルダモンの甘くエキゾチックな香りが加わることで、異なる素材が調和するよう緻密に構成された一品に。ひと口ごとに表情を変える味わいは、水野さんが大切にする「素材の個性」と「独創性」の両方を感じられる、まさにパティスリー27でしか出合えないケーキです。
「温度や質感が繊細に変化するケーキだからこそ、ショーケースから出してすぐ『一番おいしい状態』で食べてほしいです」
そんな思いからパティスリー27では、店の2階にイートインスペースを設けています。ほかにもアイスクリームや季節限定パフェなど、店内で味わえるメニューも充実させてきました。
さらに2023年には、焼き菓子やギフト菓子の販売スペースを拡充し、じっくり商品を選びながら、持ち帰る楽しさも広がる空間へとリニューアル。手みやげ選びからカフェ利用まで、幅広いシーンでフランス菓子の魅力を体験できる店づくりを進めています。
「お客さまの“記憶に残る”お菓子を作っていきたいです」
パティスリー27のショーケースには、常時20種類ものケーキが並び、その一つ一つに水野さんの「おいしいものを届けたい」想いとこだわりが込められています。水野さんの広くて深い探求心から生まれるお菓子たちは、これからも、たくさんの人々の心をつかんで離さないでしょう。
(2025/12/25掲載)
電話:026-477-2749
ホームページ:http://p-27.com
ホームページ:リンクはこちら
営業時間:11:00~19:00
定休日:月曜日
結果がすべて(若穂移住2年4カ月)
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