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ランナーとして走り、トレーナーとしてサポートする唯一無二の存在

山岸正季さん

丸山将真さん

bechare.base(べちゃれどっとベース)理学療法士(山岸正季さん)、鍼灸師(丸山将真さん)

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通称“ロード”と呼ばれる舗装路を走るランではなく、登山道(トレイル)などの不整地を走るトレイルランニング(トレラン)。近年、世界的に人気が高まり、日本でも年間500大会ほどが開催されています。山岳エリアの多い長野県内はもちろん、長野市内でもさまざまな大会が開かれ、参加したことがある人、興味をもっている人も少なくないのでは。そうしたトレラン大会を中心に、選手として出走しつつ、理学療法士・鍼灸師としてランナー向けのメディカルコンディショニングやケアを行っているのが、「bechare.base(べちゃれどっとベース)」の山岸正季さんと丸山将真さんです。

文・写真 島田 浩美

選手兼メディカルトレーナーの二刀流

山野をフィールドとしたトレイルランニング。“走る”という意味ではロードと同じですが、アップダウンがあり、木の根や水たまりがあったりと、その環境は似て非なるもので、使う筋肉や走る技術も異なります。
 

そこで、さまざまなトレラン大会にブース出店し、トレイルランナーに特化したケアやコンディショニングサポートを行っているのが「bechare.base」の山岸正季さんと丸山将真さんです。最大の特徴が、二人ともトレイルランナーでもあり、選手として大会に出走し、誰よりも早くゴールした後に、次々と帰ってくるランナーたちのレース後の体をケアすること。つまり、二人ともトップクラスのトレイルランナーにして、ほかの選手のサポートも行う唯一無二の存在なのです。
 

各トレラン大会で表彰台の常連である二人(写真提供:bechare.base)

長野市出身の山岸さんは理学療法士。小・中学生時代は野球に励み、エースピッチャーとして活躍しましたが、肘を怪我したことで野球を諦めると同時に、治療を通じて出会ったスポーツトレーナーという職業に憧れ、将来の夢として思い描くようになりました。高校卒業後は理学療法士を目指し、埼玉医科大学に進学。実習先だった武蔵台病院にそのまま就職し、9年目の現在は、本業として整形外科を中心とした入院患者のリハビリと外来リハビリのほか、地域に出て介護予防教室の講師なども務めています。
 

普段は埼玉県で暮らし、大会や練習会などで長野に帰ってくる山岸さん

一方の丸山さんは須坂市出身。小学生の頃から大学までサッカーひと筋で、次第に山岸さんと同じくスポーツトレーナーを目指すようになりました。進学した東京国際大学のサッカー部では、選手兼学生トレーナーとして活動。卒業後は鍼灸師の専門学校に進学して資格を取得し、現在は鍼灸師として働きつつ、東京と長野の二拠点生活をしています。
 

施術をしながら走り方のアドバイスなども行う丸山さん(写真提供:bechare.base)

そんな二人がそもそもランニングを始めたのは、奇しくも同じ2017年でした。
 

山岸さんは大学時代に登山を始め、社会人になってからはクライミングや島でのテント泊なども楽しんでいたなか、山を走る大会があると知り、2017年の「信州戸隠トレイルランレース」50kmに初出走。ペースもわからず心身ともに疲労困憊だったそうですが、総合62位、年代別12位と、想定よりも良い順位であったことや課題を多く感じたことが、のめりこむきっかけになりました。
 

丸山さんは、もともとサッカー部時代に走っていたことからなんとなくマラソンに興味があり、2017年の第一回松本マラソンに初挑戦したところ、3時間半を切る好タイムを記録。3回目のフルマラソン出走となった2019年の長野マラソンでは、3時間切りを達成しました。そして、同年、専門学校時代の知人のトレイルランナーから、富士山麓のトレイルを一周するウルトラマラソンレース「UTMF」のサポーターを頼まれたことで、トレラン大会に初めて帯同。盛り上がりを目の当たりにし、自分も選手として参加したいと思うようになったと言います。
そこで、2019年の「スカイライントレイル菅平」に初出走。なんと5位入賞し、さらに翌2020年の同大会でも5位入賞を果たしました。その表彰台の隣、6位に山岸さんがいたことが、二人の出会いのきっかけになりました。
 

「シャワールームで話しかけたのが始まりです。お互いに理学療法士と鍼灸師だと知りました。その頃、私は普段の病院勤務ではシニアのリハビリが多いので、ハマっていたトレランでスポーツ整形や若年層のケアに関われないかと感じていたんです。そんななかでマルショウ(丸山さん)と出会い、お互いの走力と技術を強みにブース出店をしないかと話をしてみました」(山岸さん)
 

かたや丸山さんは当初、サッカー関係のスポーツトレーナーを目指していたものの、コロナ禍で団体競技が開催されなくなり、個人競技のトレラン方面にシフトすることに。業界関係者の話を聞き、つながりをつくっていた頃でした。
 

まさに同じ時期にトレランを始め、仕事面でも同じ方向を目指していた二人。意気投合したことで、二人のユニット「bechare.base」が誕生しました。
 

ユニット名は丸山さんのアイデア。「bechare」とは長野の方言「べちゃれ(捨てろ)」で「トレランの疲労を捨てていってほしい」との意味が込められている

一般ランナーから世界と戦う日本代表までサポート

「bechare.base」の初出店は、2022年春。そこから着々と出店回数を増やし、今では丸山さんが所属するトレランやクロスカントリースキーなどのチーム「ALP SKI TEAM」主催の大会や、長野県内外で年間14レースほど開催する団体「KTF(北信濃トレイルフリークス)」の大会を中心に、ブース出店をしています。
 

「トレイルランナーに起きやすい怪我や疲労する場所は、我々は非常に理解しています。それに、トレーニングやリカバリーの仕方など、リラクゼーション以外の全体的なコンディショニングスキルのアドバイスをし、相談に乗れるところは強みだと思っています」(山岸さん)
 

二人とも偶然にも初回大会からすべてのゼッケンを保管していたことから、ブースのテントにぶら下げて、日よけ、風よけに使用している(写真提供:bechare.base)
年々、テントに掲げるゼッケンの数が増え、多くのランナーから話しかけられるきっかけにも。「夢はテント全体をゼッケンで覆うこと」と山岸さん(写真提供:bechare.base)

さらに、施術する相手と共通のレースに出ていることで、お互いに感想を語りながらリラックスして施術が受けられる点も評判です。一回体験した人は、かなりの高確率でリピーターになるのだとか。
 

「施術後に『楽になった』と言われたり、次回大会時にまた施術に来てくれたりすると喜びを感じますね」(山岸さん)
 

「今ではトレラン界隈のトップアスリートから一般のファンランナーまでケアを受けてくださるようになり、いろいろな人の話を聞くなかで、価値観を共感し合ったりシェアしたりしてスキルの向上も感じます。僕らのように、トレランに特化した治療やケアを行う専門家はほとんどいないのが強みなので、今はやればやるほど楽しさが広がっていますし、僕らしかできないことをやっているやりがいも実感しています」(丸山さん)
 

(写真提供:bechare.base)

その結果、2022年9月にイタリアで開催されたスカイランニング(急峻な山岳を垂直に駆け登る快速登山)の世界選手権を皮切りに、トレランやスカイランニングの国際大会にもトレーナーとして帯同するように。さらに、2023年に香港で開催された「スカイランニングアジア選手権」には、丸山さんは日本選手権を勝ち抜いて日本代表選手として出場。業界内での知名度は着々と向上し、今では23歳以下の選手が出場するユース大会からも帯同の声がかけられ、将来性ある若手選手のサポートもしています。
 

「国際大会帯同のきっかけは、もともと自分たちが選手でもあるので、日本代表選手の環境やコンディショニングを整えるトレーナーは必要だと感じて協会に直談判したことです」(丸山さん)
 

「自分自身も海外の大会を見たり山を試走してみたい気持ちもあり、帯同の旅費は当初、全額自己負担でした。今では補助が出るようになり、認知度の広がりを感じます」(山岸さん)
 

さらに、山岸さんは日本スカイランニング協会医科学委員長にも就任。選手と同世代で医療にも競技にも携わる立場として、日本代表選手に向けたコンディショニングのコーチや、全国の各クラブチームの指導者に向けた安全講習なども実施し、業界の医療面をリードする立場として、さまざまな啓発活動にも取り組んでいます。
 

2023年8月にイタリアで開催された「2023ユーススカイランニング世界選手権」日本代表メンバーと(写真提供:bechare.base)

多彩な挑戦でトレラン業界にさらなる新風を

それでは改めて、二人がのめり込むトレランの魅力とは、どんなものなのでしょうか。
 

「一番の魅力は、やはりマラソンと違って変化があることです。景色も変わりますし、使うスキルも異なりますし、人生と一緒で山あり谷あり。きついときもあれば、楽なときがあるのがトレランの面白さですね。それに、もともと自然が好きなので、そのフィールドにいる楽しさもありますし、そのなかで自分を鍛えれば、ちゃんと結果につながっていくのもスポーツとしての魅力です。一人で練習ができるのも社会人にとってはありがたいですし、選手もスタッフも人間性が優れた人が多いのも魅力です」(山岸さん)
 

「やればやっただけ結果が伴って成長を実感しますし、自分の実力がわかってくるので楽しく、目標も立てやすくなります。それに、自分の好きなことをやっている人たちと同じ意識や価値観で話せることが一番の楽しみですね」(丸山さん)
 

(写真提供:bechare.base)
(写真提供:bechare.base)

そのうえで、長野というフィールドもまた魅力があると話す二人。
 

「長野はいろいろな山岳エリアがあり、山によって木が変わり、さまざまな景色を感じられるのが魅力です。行きたい時々で山が選べますし、地域によって山岳の模様が変わるのがまたいいですよね」(丸山さん)
 

「新録や紅葉、積雪など、四季折々の変化が楽しめるのも長野の山の魅力です。天気がよい山域を選んで練習ができ、標高の高い山では高地トレーニングもできます。練習の幅のバリエーションも広がるので、若い世代にどんどん入ってきてもらいたいスポーツです。長野は大会も豊富で、ファンランをするうえでも非常に恵まれた環境ですから」(山岸さん)
 

とはいえ「山道を走るのはつらそう」「登りも走るのは大変では?」「どこから始めたらいいの?」などとハードルの高さを感じる人もいるのではないでしょうか。ずばり、トレランはビギナーにもおすすめできますか。
 

「健康寿命を高めてくれる有意義なスポーツですし、気持ちもポジティブになり、自分の体の変化や外で遊ぶ楽しさも感じられます。きっかけがないとなかなか走り始めるのは難しいですが、まずは普段のシューズを履いて山に行ってみてください。きっとトレランの楽しさがわかりますし、1回走れば大体の人はハマりますよ」(山岸さん)
 

今後は競技人口を増やしていくためにも、今のサービスをよりよいものに高めていき、いずれは自分たちが主催の練習会や大会を開催もできたら、とも山岸さんは話します。
 

上級者を除くと登りは歩くほうが一般的。走りやすい下りだけ走ればよく、体力面で心配であればスピードハイクのように早歩きから始めるのもおすすめ。数kmの短い距離のレースであれば携行品もほぼ不要で、ビギナーにとってハードルも低い

丸山さんは2024年に全日本スカイランニング選手権大会で初優勝したことも踏まえ、今後は海外選手のサポートにも携わり、よりコンディションの調整やパフォーマンス向上の知識を深めていきたいと語ります。
 

「その結果、国内でトレイルランニングやスカイランニングのコンディショニングといったら僕らしかいないと思ってもらえるほど、知名度が浸透したらいいですね」(丸山さん)
 

「bechare.base」の結成直後から持ち前の積極性と提案力で活動の幅を広げ、今ではトレラン・スカイランニング業界で欠かせない存在となりつつある山岸さんと丸山さん。選手としてもトレーナーとしても、より可能性を広げていくことで、その唯一無二の存在感をさらに高めていきます。
 

(写真提供:bechare.base)

会える場所

bechare.base

Instagram:https://www.instagram.com/bechare.base/

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山岸正季さん https://www.instagram.com/so_su.yori.syo_yu/
丸山将真さん https://www.instagram.com/maruyamashoma/
※2025年5月10日(土)長野市の防災メモリアル地附山公園で開催の「善光寺ラウンドトレイル」に出店予定。

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