FEEL NAGANO, BE NATURAL
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T0P

ながのを彩る人たち

CHALLENGE

安心して
挑戦できる

真面目に、まともに、ちゃんとやる。
もうひとつの学びの場所。

市川寛さん

フリースタイルスクール 寺子屋TANQ(タンキュー)

メインビジュアル

日本の不登校児童・生徒は増加の一途をたどり、文部科学省の最新調査では過去最多を記録しました。「学校に行けない」のではなく、「学校以外の選択肢が必要」と考える子どもたちも増えています。そんな彼らの新たな学びの場として注目されているのがフリースクール。学校とは違う環境で、自分のペースで学び、仲間と出会い、未来へと歩みを進める。今回は、そんな不登校支援に挑戦する「フリースタイルスクール 寺子屋TANQ」の市川代表にお話しを伺いました。

文・写真 
文/長峯 亘(ジョッガ)
写真/安斎高志(案在企画室)

教育格差によって学びの機会を失ってはいけない

「学校は通うのが当たり前」という教育を受けてきたのがいまの親世代です。みんなが学校へ通っているから通うんだと。その「みんな」や「普通」という根拠のない思いと言葉でがんじがらめになってしまうわけですよね。そしてその考え方が今でもマジョリティなのはやはり変わっていないなというのは率直な感覚としてあります。

しかし時代とともにオルタナティブな学びという考え方が、長野県を始め全国的に浸透し、盛り上がりを見せているのも事実です。「学校へ行けないからフリースクールへ行く」ではなく「そういう選択肢と学び方もアリだよね」と意識が少しずつ変化している。学校にどうしても適応出来ない、馴染めない子どもはいます。しかし環境さえ変えてあげれば学びは継続することができる。でもその環境の存在を知らない・知っていても金銭的な工面が難しい・そもそも学びに対する保護者の意識が低いなど、教育に対する格差はさまざまです。保護者によって子どもの学びの選択肢を狭めかねません。TANQに来ることが出来さえすれば学びが続いたのに、さまざまな理由で諦めなくてはいけない姿を目の当たりにすると、これはなんとかしたいなと思ってしまいます。

福祉や医療という分野は比較的世間に紹介されやすく、認知してもらう割合も高いですよね。私たちがやっている教育も福祉も、居場所を作るという点では同じですし、ケアを必要とするという部分も相通ずるところがあります。学びの場という意味では結局「学校があるからいいでしょ」と思われてしまうことも多いのでしょう。学校以外のもうひとつの場所があるということを知ってもらって、「知らない」という格差の解消はもう少し粘り強くやっていく必要性はあるかなと思っています。

3月に長野駅前の学び舎へお引越ししたばかり。リフォーム真っ只中。

ここは成長する場所だという自覚

子どもたちが心理的な安全を保証される空間でなくてはいけないと常に思っています。この場所だったら認めてもらえる・受け入れてもらえるという最低限、人として当たり前に扱われる環境を作るだけで、子どもは見る見る元気になっていくんです。元気な子どもがたくさんいるので、見学に来た保護者や子どもはびっくりして、ホッとした表情をしますよ。楽しそうな子どもたちの姿を見てもらうのが、どんな言葉をかけるよりも一発で不安をかき消す力がありますからね。でも認め合う場所があるということは、人間として基本的な環境ですよね。僕たちはその当たり前をきちんとやっているだけです。

4月のイベントに向けてアクセサリー作りに取り組む女の子たち。

心理的な安全を保証された居場所があることで、やはり子どもたちの意識も変わってきます。週末の休みはいらないから早くTANQへ行きたいとか、夏休みなんていらないからTANQで勉強しようとか。親戚に「学校は行ってないの?」って言われたら「私はTANQに行ってるから大丈夫だよ」と答えた子どももいて。そういう自信を持てるようになったのは、学びのカリキュラムの中で「自分が好きなこと」「自分に必要なこと」「協力し合うこと」という、人間の営みとしての根源に触れて、それが出来たことで成長を実感するような仕組みで回っているからです。ただ遊ぶだけの場所じゃない。ぼーっと過ごす場所でもない。毎日最後の振り返りの時間の中で、今日1日で成長したことや伸びたことを明確にすることで、ここは成長する場所なんだよっていう自覚を芽生えさせる。それが子どもの自信と誇りを育てるのかなと思っていますし、私が大事に考えていることです。

1日のスケジュールはそれぞれが組み立てるセミオーダー式。

経験の積み重ねが誇りを育む

僕たちも結構がんばってるんだよという実体験をさせてあげるのもTANQならではの教育の考え方です。学校ではとてもじゃないけど出来ないことにチャレンジする。その姿を保護者や友だち、町の人たち、色々な人に見てもらうことが自信につながります。自分たちで企画した修学旅行とか、ITベンチャーとのコラボ授業、北海道の企業と一緒のロケットについて学んだり。その経験を積み重ねることで自分のことを誇らしげに語れる。そういう、語れることがあるのって幸せなことだし、発信力としては強いなと。子どもたち自身が世の中にそうやって「僕たちこんなことやってます」ということを語ってくれるわけだから、大人だってやらなきゃって気持ちになります。僕は人前に出て目立つことは控えたいタイプなんですけど、たとえばラジオ番組に出るとか、雑誌に取り上げられるとかってすると、世の中が気づき始めてくれて、認めてくれる雰囲気になるんですよね。「この前新聞見たよ!」なんて声かけてもらえることから、地域や人と教育がつながっていくんじゃないかなと。世間から肯定的な眼差しで見てもらえるという実感も子どもたちにとっては尊いですからね。

地域の小学校に通うこどもたちも集まって開催するロケット打ち上げ体験教室。フリースクールや学校の垣根を越えて、一緒にものづくりに挑戦します。

やりたいことをやるための勉強

義務教育の過程で学ばなくてはいけないことというのはやはりあります。算数や漢字学習のような積み上げ型の学習については、論理的な思考や系統立てて学ぶ力を養いますから、やっておいた方がもちろんいい。学校的視点と少し異なるのは、TANQでは子どもたちが自主的にその必要性に直面するんです。何かを作りたいから関連の書籍を読む。でも漢字が難しくて読めない。だから漢字を勉強しなくちゃ、って。アウトプットありきなんですよね。こういうことがしたい、だったらこういう知識が必要だなっていう。去年は散々遊んだんですよ。本当にこれでもかというぐらい遊んだんですよね。そしたら、秋ぐらいに子どもたちが「勉強しようよ」って言い始めて。遊んでいく中で、本当に必要なことや、自分が向かっていく中で知っておくべき知識に各々が気づいたんですね。その自分の中の気付きを仲間と共有して、ひとつの場所でそれぞれが折り合いをつけながら、一緒に学んでいく姿も、TANQらしさかなと思います。

修学旅行の振り返りに取り組む子どもと市川さん。今年の修学旅行は東北地方を巡ったそう!TANQの修学旅行は6年生と中学3年生の年の子どもが中心に目的や日程、費用の計算や保護者へのプレゼンまで行います。

「この場合、自分ならどうする?」という自問自答

認めてもらえる・大事に思われる・誰も否定しない。それは地域の小学校ではなかなか実感出来ない、フリースクールならではの風土です。「これはこうでなくてはいけない」という決めつけや慣習もありません。卒業後の進路も高校へ行かなくてはいけない・大学へ行かなくてはいけないという考え方ではなく、まず立ち返るのは「この場合、自分ならどうする?」という自分の内面の見つめ直しです。高校進学する?しない?自分ならどうする?したらどうなる?しなかったら?そうやって自分と向き合って、色々見るわけです。そうやって自分で自分を見れば、子どもは自分で正しい判断を導き出しますし、それをサポートするために僕を含めたスタッフがいるわけです。
たとえば自分の夢を叶えるにはどうも高校へ行かなくてはいけないらしいという気づきがあったら、TANQの中で高校突破プロジェクトが立ち上がるんですね。何となく勉強しない。漫然と将来を見据えない。何をしなくちゃいけないのかというターゲットをシャープにすることで、ゴールから逆算して自分の生き方を見据える。そういう進路の決め方は、今後の高校改革で多様な公立高校も増えてくるという、時代の流れも味方してくれると思っています。
まだまだフリースクールから公立高校への進学については私たち含めた教育関係者によって道筋を明確にすべく関係各所と粘り強い意見交換をしているという現状もあります。一部私立高校との連携や、通信制高校の利用など、学び続けるための選択肢を子どもたちにはきちんと提示していける環境でありたいですね。現代では無視できない数の子どもたちが学校へ行けていません。そういう子どもたちが学び続けられないのは非常に大きな損失です。学びの道を絶たせないことが教育者としての使命とも感じています。

保護者と相談しながら一緒に作っていくのもTANQらしさの一つ。

柔軟な力、頑丈な力

子どもたちが持っている、純粋な学びたい気持ちをそのまま受け入れてあげる場所が求められているんだと思っています。頑張ったことをちゃんと、正当に評価してあげて、次につないであげることがいちばんですし、それを実直にやるだけで、子どもたちはもっと伸びたいとか、もっと知りたいとかってなっていく。そういう場所であり続けたいですね。今後のキーワードは「つなぐ」。TANQでの学びを次の学びにつなぐ制度設計を考えながら、各地に点在するフリースクールや学校ではない新たな学びの場所をつないで、学校とはちがうもうひとつの軸をきちんと作りたいなと思っています。
日々子どもたちと一緒に、どうすればもっと居心地の良い場所になるのか、学びを楽しめるのかを相談して考えていますが、それが楽しいんですよね。子どもたちと一緒に考えて場所を作っていくことが。子どもには普遍的な考える力をつけてあげなきゃいけないと思っていて、それは時代に左右されないリテラシーに近い力。コンテンツ的な時代の潮流によって変化する柔軟な力と、何にも惑わされない頑丈な力の両輪があるからこそ、この先何年後、社会に出た時に底力を発揮することができるんじゃないかなって。そういうことを真面目に、まともにやる学びの場所であればいいなと思っています。

会える場所

フリースタイルスクール 寺子屋TANQ

長野市鶴賀七瀬720

電話:090-7274-4377

メール:ichikawa@tanq-nagano.jp

ホームページ:https://www.shinshu-freeschool.jp/freeschool/56/

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