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平野舞さん 門前観光案内所、株式会社R-DEPOT

平野舞さん

門前観光案内所、株式会社R-DEPOT

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まちを使って、まちの魅力を発信!人々と門前まちをつなぐ、素敵な場所になることを願って。

文・写真 碓井綾乃(株式会社ビー・クス)

長野を代表する観光名所「善光寺」。国宝に指定されている本堂周辺はもちろん、仁王門と山門の間に軒を連ねる仲見世通りは、誰もが訪れる定番スポットです。一方で、善行寺周辺の縦横に広がる「門前まち」は、まだまだ未知の領域に感じる方も多いのではないでしょうか。
そんな門前まちの魅力や楽しみ方をより深く知ってもらおうと2024年10月、西後町の複合施設「R-DEPOT(アール・デポ)」の一角に誕生したのが、「門前観光案内所」です。今回はこの案内所を運営する株式会社R-DEPOTの平野舞さんにお話を伺いました。
 

偶然の出会いが、未来を変える大きな出会いに

平野さんがR-DEPOTに出合ったのは大学3年生の頃。先輩に誘われ、同社の学生インターンに参加しました。
「就職で迷っていた時期でしたが、みんな同じスーツを着て面接に行く『The就活』はしたくなくて。そんな時にインターンに誘われて、学生が集まるコミュニティでまちづくりに関わるって楽しそう!と、最初は好奇心で参加したんです」
 
当時、約1年後にオープンを控えるR-DEPOTはやることが山積み状態。倉石さんのもとで空き家見学やまちあるきをして学んだり、イベントや企画を練るためにインターンメンバーと遅くまで会議を重ねたり。忙しくも充実した日々を過ごすうちに、ここが平野さんの「サードプレイス」になっていきました。
「仕事は大変だけど、同世代が多いのでそれもまた楽しくて居心地がいいんです。『このままここで働いてもいいですか?』と倉石さんに聞いてみたら、『はい。いいですよ』とあっさり就職が決まりました。自分が居たい場所で、やりたいことができる今が一番楽しいです」
と平野さんは笑顔で話します。
 
同世代の社員が多く、居心地のよさがR-DEPOTのいいところだと話す平野さん。
▲同世代の社員が多く、居心地のよさがR-DEPOTのいいところだと話す平野さん。
 

R-DEPOTは門前まちと人々をつなぐ「まちの入り口」

2022年にオープンしたR-DEPOTのコンセプトは “まちづかいの拠点”。
その言葉通り、平野さんたちはこの地域で培われてきた古き良き暮らしと文化を使って、まちと人、人と人をつなげています。
例えば、
▪空き家と古民家から集めてきた古道具の販売・DIYワークショップの開催
▪門前で移住や開業を検討する人と空き家の大家さんをマッチング
▪まちを歩いて、歴史や文化を伝える「まちあるき」の案内役
▪個人・企業団体へのイベントスペースやワーキングスペースの貸し出しetc.
 
「さまざまな取り組みの中で私たちも地域の方々とつながり、まちのことを教えてもらっているんです」と平野さん。実はR-DEPOTのスタッフは、平野さんを含めほとんどが県外出身者。大学進学を機にこの土地にやってきた若者たちがこのまちで出会い、まちを知り、今では案内人として県内外の人たちに善光寺門前の魅力を広める仕事をしています。
 
「無宗派の善光寺には昔からさまざまな地域からさまざまな人が訪れてきたこともあり、このまちの人たちは外から来た人を温かく受け入れて、まちを共有してくれる。それは私も実感しています。だからこそ地域の方に教えてもらった情報を私たちなりの解釈で表現・発信し、次世代へ承継していくことが大切だと感じているんです」
 
旧NTT電報局舎をリノベーションしたR-DEPOT。「門前まちの入り口」として、ストアや貸オフィスなどさまざまな機能を持つ複合施設になっている。
▲旧NTT電報局舎をリノベーションしたR-DEPOT。
「門前まちの入り口」として、ストアや貸オフィスなどさまざまな機能を持つ複合施設になっている。
 

「まちを知ること」が長野市観光を盛り上げる第一歩

そんなR-DEPOTのニュースポットとして誕生した「門前観光案内所」。
「“観光”案内所なので、もちろん観光目的で長野に来た方に、善光寺に来てすぐ帰るのではなく、門前の魅力を知って楽しんでもらう目的はあります。同時に、『長野で働き暮らしている人たち』にもぜひ訪れてほしい」と平野さんは語ります。
 
「ここを訪れて『近くにこんなお店あったんだ!』と自分の住むまちを再発見したり、その情報を友人や親戚に伝えてくれたら、長野に足を運ぶきっかけになるかもしれない。口伝えでも魅力が広がれば、長期的な意味で“観光”につながると思うんです」
 
実際、平野さんも長野に来た当初は「善光寺以外、何もないな」と、家族や地元の友人に紹介できる場所がないと思っていたそう。しかし、門前まちでシェアハウスに暮らしはじめるとその考えは180度変わりました。
「まちの人が『まずはあそこに行けばいいよ』といろんなお店を教えてくれるんです。私が知らなかっただけで、こんなにいい場所だったんだ!と気づかされました。だから皆さんに自分のまちを知って、愛着を持ってほしいんです」
 
赤文字で「門前観光案内所」と書かれた暖簾が目印。古道具を活用した展示はどこか懐かしく、  古き良き雰囲気が心地よい空間。
▲赤文字で「門前観光案内所」と書かれた暖簾が目印。古道具を活用した展示はどこか懐かしく、古き良き雰囲気が心地よい空間。
 

善光寺まで来て帰るなんてもったいない!まちの“リアル”を見て、読んで、体験して魅力を知ってほしい

門前観光案内所の中には、そんな平野さんの実体験をもとに考案された「門前まちを深掘りできる展示」が並んでいます。
 
中でも、門前観光案内所の名物として人気を博しているのが「歩(ほ)みくじ」です。「お昼ごはん・カフェ」「夜ごはん・お酒」「買い物」「訪問・体験」の4つの箱の中から一つ選んで引くシステム。手にした1枚を広げてみると表には、R-DEPOTスタッフや元信大生など「まちの人」がおすすめする善光寺周辺のお店やスポットを、おみくじ形式で紹介。裏にはその人の簡単なプロフィールと、会える場所まで記載されていて、1枚で門前エリアのまちと人を知ることができます。
「個性あふれる人たちがそれぞれの視点で選んでいるので、結構ディープなお店もあっておもしろい(笑)。行き先に迷ったら、ここで歩みくじを引いて目的地を決めるのも楽しいですよ」
 
門前観光案内所の名物「歩みくじ」は、45種類のお告げが楽しめる(2024年11月現在)。
▲門前観光案内所の名物「歩みくじ」は、45種類のお告げが楽しめる(2024年11月現在)。
 
壁には、歩みくじで紹介されているスポットと連動し、案内所からの距離や位置がわかる路地裏マップも。まちの店主さんなどにもおすすめスポットを聞いて、どんどん種類を増やしているそうです。
「この連鎖がさらに門前エリアを盛り上げていけばいいなと思っていて。皆さんのおすすめスポットでこのマップをいっぱいにしたいです」
まちと人を巻き込んで、自分たちのまちを楽しく、おもしろくする。まさに「まち使いの拠点」を体現する企画です。
 
ベニヤ板を3枚つなげて、手描きで作成したというスタッフ力作の門前路地裏マップ。
▲ベニヤ板を3枚つなげて、手描きで作成したというスタッフ力作の門前路地裏マップ。
 
歩みくじの向かい側には、門前まちで営まれている暮らしや仕事の様子、そして創作活動などに触れることができる展示がずらり。権堂アーケード内にある日本最古級の映画館「長野相生座・ロキシー」が発行する月刊誌や、テーマごとに写真と地図でながのを歩く小冊子「街並み」、門前まちを気軽に散策できる企画「ながの門前まちあるき」リーフレットのバックナンバーをこの案内所で見ることができます。
 
「ながの門前まちあるき」は、門前まちに愛着を持つ長野在住者が案内人となり、まちの奥や裏側で営まれているくらしや仕事、ちょっとディープなスポットを紹介してまわるイベント。これまでの実施回数はなんと220回以上!
▲「ながの門前まちあるき」は、門前まちに愛着を持つ長野在住者が案内人となり、まちの奥や裏側で営まれているくらしや仕事、ちょっとディープなスポットを紹介してまわるイベント。これまでの実施回数はなんと220回以上!
 
長野市を中心に、街の風景や人々の営みをその街に“暮らす”目線で記録する小冊子「街並み」。 2005年に発行された初刊から最新刊まで、在庫があればバックナンバーの購入も可能です。
▲長野市を中心に、街の風景や人々の営みをその街に“暮らす”目線で記録する小冊子「街並み」。
2005年に発行された初刊から最新刊まで、在庫があればバックナンバーの購入も可能です。
 
映画好きで長野相生座・ロキシーでのアルバイト経験もあるスタッフが こだわりにこだわったという「月刊相生座キネマ」のアーカイブ展示は見応え満載!
▲映画好きで長野相生座・ロキシーでのアルバイト経験もあるスタッフがこだわりにこだわったという「月刊相生座キネマ」のアーカイブ展示は見応え満載!
 
案内所の奥に置かれた趣ある木棚の上には、善光寺界隈に拠点を構えるお店や企業が作成した「手作りマップ」が何種類も置いてあります。
「同じまちを紹介しているのに、作成する人が違うとこうも違うのか!」と驚くほど、その内容は十人十色。ここを訪れる度に違うマップを持って街に繰り出すのも楽しそうですね。
 
それぞれの趣味・趣向が反映されたマップをまちあるきのヒントに、門前エリアを楽しめます。
▲それぞれの趣味・趣向が反映されたマップをまちあるきのヒントに、門前エリアを楽しめます。
 

みんながまちを好きになることで、観光は発展していく

平野さんたちは「門前観光案内所」としてSNSで主催イベントやまちの魅力を発信したり、まちのイベントにも出張案内所を出店したりと、周知拡大に尽力しています。
「オープン後、2・3階の入居者の方から『こういう場所いいね!』『県外の家族に紹介できるよ』とうれしい言葉をいただいたり、商店街の方から『フリーペーパーを置いてほしい』と問い合わせをいただいたり。少しずつですが、浸透している感じがします。これが完成系ではなく、まだまだ改善の余地はある。門前まちの魅力がより伝わる場所を目指して、もっともっと進化させていきたいです」と先を見据える平野さん。
 
「普通の案内所は何か用事がないと行かない場所かもしれませんが、ここは時間があるから覗いてみようとか、LAGOM(横のドーナツ屋さん)に来たついでに見てみようとか、気張らずにふらっと立ち寄れる場所にしたいんです。基本的に無人運営なので、好きな時に来て楽しんでもらえたらうれしいです」と期待を語ってくれました。
 
この土地で生まれ育った人にとって善光寺門前は、「当たり前の場所」かもしれませんが、改めて“まちを知る”ことで、新たな視点でまちの魅力に気づくことができるはず。その一歩として、門前観光案内所を訪れてみてはいかがでしょうか。きっと自分が暮らすまち、そして長野をもっと好きになることでしょう。
 

会える場所

『門前観光案内所』

"まちづかいの拠点"R-DEPOT入り口

ホームページ:https://r-depot.com/

ホームページ:リンクはこちら

Instagram:https://www.instagram.com/monzen_kankou/

Instagram:リンクはこちら

オープン:10:00〜17:00 (月曜休み)
INSTAGRAM https://www.instagram.com/monzen_kankou/

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映像作家、プランナー