篠ノ井信里生活1年12か月目 2025年12月28日
那須野 佑樹 篠ノ井信里地区担当
有旅ワイナリーにも冬が来ました
いよいよ僕の地域おこし協力隊の任期も2年が終わろうとしています。
時が経つのは本当に早いもので。。
任期中にしかできないことを、悔いの残らないように計画的にやっていかないと、あっという間に残りの一年も過ぎてしまいそうです・・
そして今月も、農作業はぶどう以外がメインだったのでそこまで書くことがないので、
先週に引き続きワインの仕込みについての考察を書いていきたいと思います。
先月は『ワインを小仕込みをするには、の妄想』を書きましたが、
今回は、先月触れられなかった、『野生酵母(菌種による)の香りの違い』や、『野生酵母だけでワインを作るには』をテーマにしていきたいと思います。
調べたことを自分の知識に落とし込むためにまとめているだけなので、間違いなどもあるかもしれません。
そして、今回は有旅圃場で作っているピノ・ノワールについて調べてみましたが、菌の働きについては、ぶどう品種によってまた変わってきます。
まず、ぶどう表面にいる “自然酵母の種類ごとに、どんな香りを出すのか” の役割が変わってきます。
野生酵母は “香りの職人集団” で、菌種ごとに香りの得意分野がまったく違うので、まずはそれらの違いから見ていきましょう。
=「最初の3日間の香りを決めるエステル職人」
ワイン的には最重要。
発酵初期(0〜3日)の香りの大半はこの菌。
赤い果実(ストロベリー・ラズベリー)
洋梨
バナナエステル(アミルアセテート)
花のような軽い香り
ネクターっぽさ
キャンディ系の甘いトップノート
ピノの“華やかな明るさ”は、ほぼこの菌の仕事。
アルコール耐性弱い(5%程度)
発酵を最後までできない
酢酸エチルを作りやすい(ちょっとだけなら良い香り)
→ 最初だけ大活躍して、選抜酵母や別の野生酵母にバトンタッチ。
=「香り前駆体の“スイッチを入れる”隠れスター」
香りの“素材”を引き出す力が強い菌。
自分はあまりアルコールを作らないけど、
ブドウ中に眠っている香り前駆体を解放する働きがある。
バラ(モノテルペンの前駆体を分解)
スミレ
白い花(アカシア、エルダーフラワー)
明るい赤果実のトップノートの補強
特にピノノワールでは
“花香の源泉” がこの菌であることが多い。
酢酸を作らない
発酵スターター段階で雑菌を抑制する力がある
フレッシュで透明な香りに貢献
選抜酵母と共存しやすい珍しい野生酵母でもある。
= 「複雑さ・スパイス・野生的ニュアンス」
これは“良くも悪くも個性が出る”菌。
赤果実の深み
コンポート感
スパイス(クローブ、甘い香辛料)
森林の下草、落ち葉
ナチュラル感が一気に出る菌で、
複雑味・奥行きの源泉。
ただし…
酢酸・エチルアセテート(揮発酸)をやや作る
酸素に触れると暴走しやすい
扱いは難しいが、自然派の魅力はここから生まれる。
=「好気的な菌。軽いフルーツ&油膜の原因」
良い側面と悪い側面が両方ある菌。
ほんの少しの果実香
フローラル
酵母っぽい香り
酸素があると油膜(フラワーネス)を作る
酢酸に変換しやすい
アルコール耐性弱い
→ ステンレスや小仕込みで酸素が触れると危険。
ピノの自然発酵で、この菌が強すぎると酢酸香が出る。
非サッカロマイセス酵母(NS/非発酵性酵母)全般
非サッカロマイセス酵母は
自分はアルコールを作れないが、
香りを仕込む能力に特化 している。
ベリーのフレッシュ香
花香
柑橘の皮のような香り
少しのハーブ香
酵母の複雑味
ナチュラルワインらしい酸の透明感
彼らが仕事をした後、選抜酵母が後半を担当するのが香りの黄金リレー。
最初の数日:
Candida + Hanseniasporaが
メルローの香りのベースを作った。
選抜酵母を投入:
Saccharomyces が発酵を支配し
→ ニゴリや雑味を抑え
→ クリーンで健全な香りへ移行
さて、これだけ野生酵母の良さを語っておきながら、
やはり選抜酵母を使ってワインを作ることが一般的な手法となっています。
酢酸やネガティブ臭、腐敗などのリスクを避けるためです。
ですが、リスクを減らしながら野生酵母だけで健全な発酵にもっていく手法はないのでしょうか?
調べてみると、山梨大学の研究グループと丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)が共同で、
(Scale-Up Method)
という、野生酵母から健全に酒母を立ち上げる方法を発表しています。
さらに、日本酒やビールなどでも用いられている
(Stepped Natural Yeast Build-up)
というのもありました。
これらを踏まえて、有旅ワイナリーレベルの小規模の仕込みでも、使うことができないかを調べてみました。
最初に少量を潰し、数日置くことで
ぶどう表面の酵母が活動を始め
揮発酸菌やカビなどの“雑菌”は早い段階で死ぬ or 劣勢に
アルコール耐性のある野生酵母だけが生き残る
最強の「土地由来の酵母コロニー」ができる
つまり “自然な進化で選抜されたスター酵母群” を育てる 行為。
これを徐々に量を増やしていくことで、
これが「野生酵母酒母」。
日本酒の生酛(きもと)・山廃(やまはい)の考え方と極めて似ています。
※日本酒造りの詳しい話は、信州新町の協力隊の方がしてくれるかな~?
冷涼年はしばしばやる
→ ぶどうが冷たく発酵が遅い年に、野生酵母のスターターを作る。
「プレ・フェルメンテーション(前発酵)」で野生酵母を安定化。
地元酵母を強くするために3段階培養をすることがある。
伝統的だが、壺の底に生き残った地元酵母が毎年スターターになっている。
日本でも実際に“段階的明利酵母法”みたいに自然版をやってる造り手あり。
このように海外でも 「ピエ・ド・キュヴェ(Pied de Cuve)」として古くから経験的に行われていましたが、山梨大学の研究は、それを単なる経験則ではなく「野生酵母の動態を科学的に解明し、失敗しないための標準的な手法(プロトコル)」として再構築・実証した点に独自性があります。
これは正確に言うと:
という技法。
これらが満たされていると──
野生酵母は
裏打ちされた淘汰圧(アルコール・低pH)が強く
悪い菌は勝てず
酵母が圧倒的に優勢
→ とんでもなく強い純粋な“テロワール酵母”ができあがる
結果:野生酵母100%で、選抜酵母並みに安全に発酵が完走する。
常温で2〜3日。
→ 泡が出始める(スターター1段階)
→ 全体量を3〜4kgにする
→ さらに2〜3日でパワーアップ
(中段階)
→ 酵母が大量発生して最強状態に
(上段階)
→ 野生酵母が圧倒的優位で、他の雑菌は勝てない
→ 発酵が安定して最後まで続く
ナチュール勢が「これ最強じゃん」と言い始めてる所以。
なので「誰でもできる万能技」ではない。
現時点では、有旅はこの技法の中間型のような感じで
前半は野生酵母に任せる
後半は選抜酵母で完走
酸化リスク最小
野生酵母の香りも残す
といういいところどりの技法でやっているものもありますが、
今後は一部で完全ナチュラルも作るかも??
(個人的な意見で、そのような具体的な話は今のところありませんが・・)
実際の手順に落とし込むなら、収穫日を決めるためにぶどうの粒をサンプリングするので、その粒を用いて立ち上げたら上手くいくのでは?なんて考えています。
さて、今回も文章だけで長くなってしまいました。
こんなマニアックなブログを誰が興味を持ってくれるのかはわかりませんが、
次回は『ピノとメルローでは、香りを出す野生酵母の働き方はどのように変わってくるのか』でもまとめようかと思っています。
今月もひたすら野沢菜と大根を収穫する月でした。
まずは収獲したらひたすら泥を落とします。
寒空の下、水洗いは冷たくて大変ですが、
『テムレス』という防寒手袋が水と冷たさを一切感じさせず、大根洗いにめちゃくちゃ便利な事がわかりましたよ!
そして、洗った大根は800g以上というのが、出荷可能ラインとなっているので、
二股や穴あき、小ぶりのものはハネダシて、コンテナに15kgにまとめて出荷します。
打ち立てほやほやのお蕎麦をいただきました!
香りがよくて、見た目もすごく綺麗で、一瞬で完食です。
ごちそうさまでした!
(2025/12/28掲載)
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